「原発不明がんの生存率」はご存知ですか?症状についても解説!【医師監修】
がんは原発部位が分からなければ、治療方法が定めにくいため、適切な医療が受けられない可能性を生じさせます。
原発部位を特定するための病理検査・原発精査などの検査能力は年々向上しているため、原発不明がんだからといって、過度に不安を抱く必要はありません。
病気を知ることは、病気に対する対応をより適切なものへとすることが可能です。
ここでは、原発不明がんにおける概要・症状・治療について紹介します。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
原発不明がんとは?
原発不明がんは、がんの転移を確認できるものの、最初のがん発生部位が特定できないことを意味しています。発生部位を見つけるための検査が多くなり、時間がかかるため、患者さんの負担が大きくなる傾向にあります。
また、がん治療はスピードが重要であるため、長々と検査に時間をかけるわけにはいきません。一般的にがんは、検査を通じて発生部位が分かることがほとんどです。
しかしながら、成人固形がんの1〜5%程度が原発不明がんと診断されているため、決して患者さんの数が少ないわけではありません。
原発不明がんの生存率は?
原発不明がんは、がんの中でも予後不良なケースが多いです。原発が分からないため、転移の状況などに応じて生存率が大きく変化します。
原発不明がんの中には予後良好な種類もあります。例えば、転移臓器が1箇所のみ・肝転移がないなどの状態は、予後良好が期待できる因子です。
ここでは、原発不明がん全体の生存率について紹介します。原発不明がんの中だけでも、さまざまな種類があるため、しっかり鑑別しなければなりません。
3年生存率
2007年〜2016年おいて九州大学病院で行なわれた原発不明がんの頸部リンパ節転移における放射線治療の調査では、3年生存率は52%となっています。
母数は少なく26例であったものの本調査では、放射線治療の原発不明がんへの有効性が期待できるものでした。ただし、原発不明がん全体の1年生存率は25%未満です。
原発不明がんは、治療方法・種類によって生存率が大きく異なることが分かっています。
5年生存率
原発不明がんの5年生存率は10%未満となっています。すでに転移しているがんであるため、病状が一定以上進行している可能性が高いので予後不良といわざるをえません。
しかし、医薬品・PETをはじめ医療技術は日進月歩で進化しています。効果的な医療によって、がん全体の生存率は改善傾向です。
原発不明がんの症状
原発不明がんは、どこにがんが転移したかによって症状が異なります。基本的に転移先のがんの症状が現れます。症状としては、無症状に近い症状から重篤な症状までさまざまです。ここでは、代表的な症状分類を紹介します。
転移した臓器によって症状が異なる
原発不明がんの主な症状は、転移した先の臓器特有のがん症状です。例えば、肝臓転移をしたのであれば、黄疸・倦怠感・腹部圧迫感などがみられます。また、肺転移をしたのであれば、息切れ・咳・痰・血痰などになります。
症状があらわれないケースもある
転移先の臓器によっては、症状が現れにくいケースが考えられます。例えば、膵臓転移の場合、進行しなければ症状は現れません。
膵臓がんは、発見が難しい臓器といわれており、早期症状がないことで有名です。転移先のがんが一定以上進行していれば、例外なく症状は現れますが、転移先臓器次第で発見が遅れる可能性があります。
また、抗がん剤による治療を開始した際には、副作用症状が高頻度でみられます。
リンパ節の腫れ
原発不明がんの転移で最も多いのがリンパ節転移です。リンパ節に転移した場合、痛くないしこりとして体表に現れます。主に首の周り・腋の下・太ももの付け根などで見つかります。
肺腫瘍・肝腫瘍
肺腫瘍・肝腫瘍は、別の場所にできたがん細胞が肺・肝臓へ転移し発育したものです。肺腫瘍があると、咳・胸痛・声のかすれなどの症状が現れます。
肝腫瘍では、腹部上部の不快感・膨満感・腫瘤に触れるなどの症状が現れます。実際には、病状が進行しなければ無症状であることが多いです。
いずれも、症状がなかったとしても、健康診断などで行われるX線検査・エコー検査で発見されることがあります。
胸水・腹水
がん細胞が炎症を起こすと、胸・お腹に水が溜まることがあります。これらは炎症が生じたため、血管から水分・血液成分が染み出したことで生じたものです。
胸水として溜まれば息苦しさ、腹水として溜まれば腹部膨満感を覚えます。
骨の症状
骨は、体の中でも硬い組織なのでがん細胞が転移するイメージは湧きにくいかもしれません。実際には、X線検査などで突発的に骨転移が見つかるケースも報告されています。
骨にがんが転移すると、骨を覆う神経を圧迫するなどして、痛み・痺れ・麻痺などの症状を引き起こします。
原発不明がんの診断はどのように行われる?
まずは、基本的な診察・検査によって原発巣の特定が行われます。主な検査内容は、血液検査・尿検査・便潜血検査・X線検査・CT検査などです。
また、病巣の一部を採取して病理検査も同時に行なわれます。さまざまな検査の結果、一定期間をかけても原発巣が発見できなかった場合、原発不明がんとなります。
病理検査
がんの診断においては、ほとんどのケースで病理検査が必須事項です。その方法は、メス・内視鏡などを用いてがん病変を切除した後、顕微鏡を用いて異常病変を探します。
検査結果が出るのは、概ね2週間後です。観察の際は、がん細胞に特殊な染色を用いて、タンパク質の種類・分布を確認します。また、遺伝子異常の有無が確認されます。
原発精査
原発精査とは、問診・診察・腫瘍マーカー・血液検査・尿検査などを用い、全身のスクリーニング検査を行うことです。中でも血液生化学検査の一種である腫瘍マーカーがよく知られています。
腫瘍マーカーは、がんの発生部位の特定に有用です。がん細胞から発せられる特徴的な物質を検出する手法で、がんの部位特定に役立ちます。しかし、全ての部位が特定できるわけではないので、部位によってMRIなどの画像診断・胃カメラなどの内視鏡検査も組み合わせて行われます。
原発不明がんの治療
原発巣が分からないということで、基本的には転移した先のがんに対する治療が施されます。原因が分かるまでは、がんを手術で取り去ることが困難なので、一般的にはがんの進行・症状を抗がん剤などの化学療法で抑えることが治療目標となります。
原発不明がんの治療は多岐に渡りますが、原発巣のあるがんと近い病態を持つ場合、推定されるがんへの標準治療が有効です。また、がんの症状によっては、身体的・精神的苦痛を和らげるための緩和ケアを検討する場合もあります。
編集部まとめ
がん治療において、原発巣の発見は重要で、原発巣の病態を基に治療計画が策定されます。
原発巣が発見できれば、その後の治療方法が明確となり、適切な治療方法を選択できるようになります。
原発不明がんは、原発巣の特定が困難であるため、確かに治療が難しい疾患であることは間違いありません。
時間・労力はかかるかもしれませんが、原発巣の検査・転移先の治療を同時に行いながら、がんと向き合っていかなければなりません。
現在は、様々な検査方法が存在しているため、転移先の症状に対する治療を行っている間に原発巣を特定できたというケースも報告されています。
原発不明がんと関連する病気
「原発不明がん」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 脳転移
- リンパ節転移
- 肺転移
- 肝転移
- 骨転移
- 腹膜播種
原発不明がんの治療において、一般的に用いられるのは、抗がん剤による化学療法になります。抗がん剤を使用すると、白血球を減少させるため、感染症から身を守るために感染予防も心がけてもらうことが重要です。
治療期間中は、生活環境・食事の衛生管理を徹底する必要があります。
原発不明がんと関連する症状
「原発不明がん」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
原発不明がんの症状は、がんが転移した先によって症状が大きく異なります。また、原発巣を発見するための期間を長く要することがあるため、症状が長期間に及ぶ傾向です。
重症化しにくい種類もあるため、しっかり見極めることが重要となります。がんは、何より早期に治療を開始することが重要であるため、定期的な検査は欠かさず行いましょう。