「くも膜下出血」を発症すると「目」にどんな症状が現れるかご存知ですか?【医師解説】


監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。
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「くも膜下出血」とは?
くも膜下出血は、脳を覆っている膜のすき間から出血してしまう、非常に重い病気です。脳は三層の薄い膜に覆われています。このうち、「くも膜(くもの巣のような膜)」と「軟膜(脳の表面に密着している膜)」の間にある空間(これをくも膜下腔といいます)に出血が起きるのが、くも膜下出血です。 この病気は「脳卒中」の中でも特に亡くなる方が多く、もし命が助かったとしても、重い後遺症が残ってしまう可能性が高いことで知られています。 ほとんどの原因は、脳の血管にできた膨らみ(「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」)が破裂することです。 くも膜下出血の最も有名な症状は、「バットで殴られたような」「これまでに経験したことのない」と表現される、突然の激しい頭痛です。しかし、この激しい頭痛と同時に、あるいは頭痛が起きる前に、「目」に異常が現れることがあります。 目の異常(見え方の異常や、眼球の動きの麻痺)は、単なる付随する症状として見過ごされがちです。しかし、実際には、目の症状は大出血が起こる前の「警告(予兆)」である場合や、脳がどれほど深刻なダメージを受けているかを測る非常に重要なサインとなることがあります。 目やまぶたの動きを司る大事な脳神経(神経の束)は、動脈瘤ができやすい場所のすぐ近くを通っています。そのため、目の症状は、一刻を争う緊急事態かどうかを判断するための、重要な手がかりとなるのです。くも膜下出血を発症すると目にどんな症状が現れる?
くも膜下出血に伴う目の異常は、動脈瘤が破裂する数日前から現れる「警告症状(前兆)」と、破裂後の急性期に現れる「重篤な症状」に大きく分けられます。前兆(警告症状)としての軽度の視覚異常
大出血が起こる数時間前、あるいは数日前から、動脈瘤からごくわずかな出血(警告出血)が起きることがあります。このわずかな出血の段階で、軽い目の異常が出現することがあるのです。 具体的な症状には、一時的な目のかすみ、軽いめまい、ものが二重に見える(複視:ふくし)などが挙げられます。 これらの視覚の異常は、動脈瘤がわずかに膨らんだり、微小な出血によって一時的に近くの脳神経や血管が圧迫されたりすることで生じます。これらの警告症状は、「まもなく命にかかわる大きな破裂が起こるかもしれない」という可能性を示しています。たとえ一時的で軽い目の症状であっても、それが現れた場合は、すぐに脳神経外科などの専門医による診察を受ける必要があります。急性期の重篤な目の症状(破裂後)
動脈瘤が大きく破裂し、大量に出血した急性期には、より重い目の症状が現れます。これは、脳への圧迫や脳神経の損傷によって起こります。 具体的な症状には、 ・まぶたが完全に下がって開かなくなる(眼瞼下垂:がんけんかすい) ・瞳孔(ひとみ)の大きさが左右で異なる(瞳孔不同:どうこうふどう) ・急激な視力の低下 ・出血した側の眼球が外側を向いたまま動かせなくなる などが挙げられます。 特に「まぶたが下がって、瞳孔が大きくなる(散大する)」という症状は、動脈瘤が今にも破裂しそうな状態で脳神経を強く圧迫していることを示しており、最も緊急性が高い危険なサインとなります。その他の目の症状
くも膜下出血による頭蓋骨内の圧力(脳圧)の急激な上昇は、目の奥の血管にも影響を与えます。 ・目の奥に出血が起こる(Terson症候群): 眼球の中の網膜や硝子体(しょうしたい:眼球の大部分を占める透明なゼリー状の組織)の血管が破れて出血し、急な視力低下を引き起こすことがあります。 ・光を異常に眩しく感じる、または光を見ると目が痛む(光過敏): 頭蓋内の炎症や刺激によって起こります。くも膜下出血を発症すると目に症状が現れる原因
くも膜下出血が目の機能に影響を与える経路は、主に「動脈瘤による直接圧迫」と「頭蓋内圧の急激な亢進」の二つです。動脈瘤による脳神経の直接圧迫
脳の血管の根元、特に内頚動脈後交通動脈分岐部と呼ばれる場所にできる動脈瘤は、そのすぐ隣を走っている動眼神経(第III脳神経)を直接押さえつけてしまいます。 動眼神経は、まぶたを持ち上げる筋肉や、瞳孔(ひとみ)の大きさを調整する神経の線維を含んでいます。 動脈瘤による圧迫は、特に瞳孔を小さくする(収縮させる)神経線維に影響が出やすいため、瞳孔が散大し(大きくなり)、光を当てても縮まらないという重要なサインを引き起こします。同時に、まぶたが垂れ下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)も発生します。 この動眼神経の麻痺(まひ)は、動脈瘤が破裂寸前であることを強く示す、最も緊急性の高い「赤信号」となります。頭蓋内圧の急激な亢進
くも膜下出血が起こると、流れ出た血液が脳全体を覆うスペース(くも膜下腔)に広がり、脳全体を強く圧迫します。これにより、頭の骨の内部の圧力(頭蓋内圧、または脳圧)が急激に高くなります。 この非常に高い頭蓋内圧は、目の奥の血管を破り、出血させることがあります(Terson症候群)。また、眼球を外側に向ける動きを司る外転神経(第VI脳神経)を引っ張ったり圧迫したりしやすいため、眼球を外側に動かせなくなり、ものが二重に見える(複視)原因となります。 性くも膜下出血の前兆となる初期症状
くも膜下出血が起こる数時間~数日前には、動脈瘤からのごくわずかな出血(警告出血)によって、以下のような前兆症状が現れることがあります。 救急車を呼ぶ際や、受診時には、症状がいつ始まったか(発症時刻)、頭痛の程度、目の状態(瞳孔の大きさ、まぶたの開き具合)を正確に記録し、救急隊員や医師に伝えられるように準備してください。警告頭痛
くも膜下出血の前兆として最も重要なのは「警告頭痛」です。これは、本番の激しい頭痛ほどではないものの、「いつもとは違う」、または「首の痛みを伴う」頭痛として現れます。 この症状は、動脈瘤が不安定になり、数時間から数日以内に命にかかわる破裂に至る危険性があることを示唆しています。 すぐにできる処置、症状の落ち着かせ方はあるか: すぐにできる応急処置はありません。症状を落ち着かせようとせず、安静を確保し、直ちに医療機関を受診する準備をしてください。吐き気・嘔吐、血圧の乱高下
激しい頭痛に加えて、吐き気・嘔吐が止まらないことがあります。また、出血によって一時的に脳が圧迫されると、自律神経(体の機能を自動で調節する神経)が乱れ、血圧が急激に上がったり下がったりする(乱高下)ことも前兆の一つとして報告されています。 すぐにできる処置、症状の落ち着かせ方はあるか: すぐにできる応急処置はありません。安静を保ち、吐き気が強い場合は、吐いたものが気管に入らないように横向きに寝かせるなどして注意しましょう。意識の変化や頭の違和感
軽い意識の変化(ぼんやりする、話している内容のつじつまが合わない)や、頭の中に「いつもと違う違和感」を感じることが前兆となる場合があります。 すぐにできる処置、症状の落ち着かせ方はあるか: 意識の変化が見られたら、周囲の人はパニックにならず、無理に動かさず、楽な姿勢で寝かせて安静を確保し、直ちに医療機関を受診する準備をしましょう。すぐに病院へ行くべき「くも膜下出血の前兆」
ここまではくも膜下出血の前兆となる症状を紹介してきました。 以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。瞳孔に異常な症状がある場合は、脳神経内科・脳神経外科へ
まぶたが突然完全に下がる(眼瞼下垂)、または左右の瞳孔の大きさが違う(瞳孔不同)という症状は、動脈瘤が破裂寸前の動眼神経を直接圧迫していることを示す、最も危険な目のサインです。また、激しい頭痛や意識の変化、呼吸の異常(いびきなど)を伴う場合は、生命に関わる危機的状況です。これらの症状がある場合は、一刻を争うため、迷わず119番通報を行い、迅速な診断・治療が可能な脳神経外科または脳神経内科のある専門病院へ搬送してもらいましょう 。受診・予防の目安となる「くも膜下出血の前兆」のセルフチェック法
・これまでに経験したことのない頭痛症状がある場合 ・一時的な目のかすみや、軽いめまいを感じる症状がある場合 ・特に心当たりのない血圧の急激な上昇や低下が続く場合 ・片側のまぶたが急に垂れ下がった、または左右の瞳孔の大きさが違う場合くも膜下出血を予防する方法
くも膜下出血による目の症状は、脳内で既に深刻な事態が発生しているサインです。この病気を未然に防ぐことが、最も確実な予防策となります。血圧の管理
くも膜下出血の最大の危険因子は高血圧です。高血圧を厳格にコントロールすることは、脳の血管に持続的にかかるストレスを軽減し、脳動脈瘤の発生や破裂のリスクを大幅に減らす効果があります。処方された降圧薬を指示通りに服用し、血圧を目標値に維持することが基本です。日頃から血圧を測定し、記録する習慣をつけましょう。生活習慣病の管理
高血圧以外にも、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)、不整脈(心房細動)といった生活習慣病は、血管の健康を損ない、脳卒中全体のリスクを高めます 。これらを適切に管理することは、くも膜下出血を含む脳卒中の複合リスクを低減する効果があります。 食事・生活習慣で気をつけるポイント: 各疾患について、専門医の指導に従い、治療を継続することが重要です 。食生活の見直し
塩分や脂肪分の摂取を控えることは、高血圧や脂質異常症を予防・改善する基本的な効果があり、結果としてくも膜下出血のリスクを下げます 。 食事・生活習慣で気をつけるポイント: 「お食事の塩分・脂肪控えめに」を意識し、具体的には、塩分を減らした減塩食を徹底すること(過剰な漬物、汁物、加工食品の摂取を控えるなど)が推奨されます 。禁煙(タバコをやめる)
喫煙習慣のある方はぜひ禁煙を検討してください。タバコはくも膜下出血発症リスクを2~3倍に高めるとのデータがあり、特に1日に吸う本数に関わらず喫煙者であるだけでリスクが有意に上昇します。ニコチンなどの有害物質が血管壁にダメージを与え、動脈瘤の形成と破裂を促進すると考えられています。禁煙することで、数年かけて脳卒中全般のリスクが非喫煙者と同じレベルまで下がるという報告もあります(脳卒中全体で見た場合)。どうしても自力で禁煙が難しい場合は、禁煙外来の受診やニコチンパッチ等の補助療法も活用しましょう。喫煙はくも膜下出血予防において避けるべき最大の危険因子です。飲酒を控える
お酒の飲みすぎも注意が必要です。適度な飲酒であれば大きな問題ありませんが、大量の飲酒や一気飲みは血圧を急上昇させ、動脈瘤破裂の引き金になりえます。実際、「最近の多量の飲酒」がくも膜下出血の危険因子の一つとされています。 食事・生活習慣で気をつけるポイント: 予防のためには、深酒や酔いつぶれるような飲み方をしないことが肝心です。週あたりのアルコール摂取量を適切な範囲に収め、連日大量に飲まないようにしましょう。また、「飲んだ後に熱い風呂に入る」「飲酒後に激しい運動をする」など、急激に血圧を変動させる行為も避けてください。「くも膜下出血と目」についてよくある質問
ここまでくも膜下出血と目について紹介しました。ここでは「くも膜下出血と目」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳に異常があると目にどんな症状が現れることが多いですか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳の異常はしばしば目に様々な症状となって現れます。代表的なものは、目の動きや瞼(まぶた)に関する異常です。脳から眼球運動を支配する神経に問題が生じると、物が二重に見える(複視)ようになったり、まぶたが十分に持ち上がらなくなる(眼瞼下垂)ことがあります。実際、脳動脈瘤など脳内の異常が原因で、片目の眼瞼下垂や複視が起こるケースがあります。また、脳の視神経や視覚をつかさどる領域が圧迫・損傷されると、視野の一部が欠ける(見える範囲に黒い部分が生じる)、視力が急に低下するといった症状も現れます。さらに、脳圧の上昇や脳の膜(髄膜)への刺激によって、光を見ると眩暈や痛みを感じる(光過敏)症状が出ることも多いです。このように脳のトラブルは目の異常となって表面化することが多いため、目の症状から脳の病気が見つかるケースも少なくありません。
まとめ
くも膜下出血は突然発症しうる非常に重篤な病気です。発症すると約半数が死亡するとされ、たとえ助かっても後遺症を残す可能性が高いため、発症自体を防ぐことが何より重要です。 目に現れる異常は脳の異常を示すサインになり得ます。視野の欠損、複視や眼瞼下垂、瞳孔の左右差、光過敏といった症状がみられたら要注意です。これらを決して見逃さず、早期に専門医を受診することで命に関わる事態を避けられる可能性があります。 くも膜下出血のリスクを下げるため、日頃から予防に努めましょう。具体的には、高血圧の予防・治療、禁煙、節度ある飲酒、適度な運動や減塩など健康的な生活習慣の維持が大切です。また家族に脳卒中歴がある方は脳ドック等で未破裂動脈瘤のチェックも検討してください。早めの対策で大切な命を守りましょう。
「くも膜下出血」と関連する病気
「くも膜下出血の前兆」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
「くも膜下出血」と関連する症状
「くも膜下出血」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。




