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「前頭側頭型認知症の原因」はご存知ですか?初期症状も医師が徹底解説!

 公開日:2025/11/19
「前頭側頭型認知症の原因」はご存知ですか?初期症状も医師が徹底解説!

前頭側頭型認知症の原因とは?Medical DOC監修医が前頭側頭型認知症の原因・症状・初期症状・治療法・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

「前頭側頭型認知症」とは?

前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)は、感情の抑制が効かなくなったり、社会の規則を守れなかったりといった行動が目立つ認知症です。
この認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性・脱落し、萎縮する前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FLTD) が原因となります。
FLTDは臨床症状によって、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語症(PNFA)の3つに分類されています。一般的に前頭側頭型認知症は、これらの3つを包括した診断名として用いられています。
日本では、bvFTDとSDが指定難病に組み入れられています。

「前頭側頭認知症」と「認知症」の違い

認知症とは、進行性の脳の疾患が原因となり、思考や記憶、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの多くの機能が障害される症候群です。そして、認知機能が損なわれることで日常生活に支障が出ている場合、認知症と診断されます。
認知症にはさまざまなタイプがあり、中でもアルツハイマー型認知症が最も多いとされています。次いで、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症となります。
つまり、前頭側頭型認知症は、認知症の一種ということになります。

最多のタイプのアルツハイマー型認知症と比べると、前頭側頭型認知症には以下のような特徴があります。

・65歳よりも若い方の発症が多いこと(40〜64歳が主)
・物忘れではなく行動や言語、性格変化などの症状が先立つこと

物忘れの症状が目立たないことから、前頭側頭型認知症は認知症の中でも診断が遅くなってしまいます。さらに、社会的な問題行動が多くなったりする場合があります。

前頭側頭型認知症の主な原因

前頭側頭型認知症がなぜ起こるのかは完全には明らかにはなっていません。今のところ、下記のような要因が、病気を引き起こす要因となっているのではないかと考えられています。

脳内への異常な蛋白質の蓄積

前頭側頭型認知症の方の脳を実際に調べた研究によって、神経細胞やグリア細胞に異常な蛋白質が溜まってしまうことが知られています。例えば、タウ蛋白、TAR DNA-binding protein of 43kD(TDP-43)蛋白、fused in sarcoma(FUS)蛋白といった蛋白質が挙げられます。
タウ蛋白の異常蓄積によって発症すると考えられている病気は、タウオパチーと呼ばれています。FLTDでタウオパチーを認めるものはFLTD-tauと呼称されています。前頭側頭型認知症だけでなく、Pick病や大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺といった他の病気の症状を示すこともあります。このように、実際には、病理診断(組織所見)と、症状から診断される病名(臨床病型)が一致しないことも多いです。原因遺伝子の変異も複数関与するため、診断には専門的な評価が必要です。

前頭葉や側頭葉の萎縮

前頭側頭型認知症の方は、CT・MRI検査で、脳の前頭葉や側頭葉の萎縮が示されます。萎縮した部位に一致して、血流や代謝の低下も認められます。
FLTDは病的蛋白質の蓄積が背景となっています。こうした蛋白質の蓄積部位と、画像上での脳萎縮部位が一致しているのかどうかの推定には限界があります。一方、研究段階の高感度蛋白質PETという検査で病的なタウを可視化できるようになりつつあります。今後の研究開発が待たれるところとなっています。

家族歴

アメリカやヨーロッパでは、FTLDの30〜50%に家族歴が認められます。一方、日本ではほとんど認められません。家族性の場合、tau遺伝子、TARDBP遺伝子、FUS遺伝子、progranulin遺伝子などに変異が見つかっています。家族歴の関与が少ない日本でも遺伝子異常が見つかることもありますので、家族歴には注意をしましょう。

前頭側頭型認知症の主な症状や特徴

前頭側頭型認知症の中でも、ここでは最も多いとされる行動障害前頭側頭型認知症(bvFTD)の症状についてご紹介します。

行動の抑制が効かなくなる

脱抑制と呼ばれる状態です。病気の早期段階から現れることが多いです、万引きや盗食など社会的に不適切な行動や、礼儀・マナーの欠如、衝動的で分別にかけた行動などがみられます。こうした行動をとっていても、患者本人に悪気はありません。
身近な方に対して、「最近性格が変わった」と感じる場合、前頭側頭型認知症の可能性もあります。早めに脳神経内科専門医に相談してみましょう。

共感や感情移入ができなくなる

他人からの要求や、向けられる感情に対しての反応が欠如するようになります。
また、社会的な興味や他者との交流に興味がなくなったり、人間的な温かみが低下したりするなどの性格変化が現れます。

一つのことに固執し同じことを繰り返す

常同行動と呼ばれる状態です。前頭側頭型認知症とアルツハイマー型認知症との違いとしても、重要な症状です。日常生活の中では、1日中同じコースを数kmも歩き続ける、決まった食品や料理ばかりにこだわるといったことがあります。柔軟性がなくなったと感じることが増えます。

前頭側頭型認知症の前兆となる初期症状

脱抑制や常同行動のほか、以下のような症状も初期症状として認められる場合があります。

食行動の異常

前頭症の障害によって、食欲の亢進による過食、甘いものや濃い味付けに好みが変化するといった症状が病気の初期段階からみられます。過食や偏食が続くと、体重増加や糖尿病などのリスク上昇にもつながるといった問題があります。

自発性の低下

自発性の低下は、前頭側頭型認知症の初期から認められます。常同行動や落ち着きのなさと共にみられることが多いです。自分や周囲のことに対して無関心になる、無気力になるといった症状が現れます。また、前頭側頭型認知症の方では、他人からの質問に対して真剣に考えずすぐ「わかりません」と答えることがあります。この背景にも、自発性の低下があると想定されています。

外部刺激に対して反射的に反応しやすくなる

医学的には、「被影響性の亢進」とも呼ばれる状態です。外部からの刺激に対して反射的に反応しやすくなり、周囲の影響を受けやすくなる状態です。例えば、周囲の刺激に衝動的に反応し、他者の行動や言葉を無意識に真似る、特定の言葉やフレーズを繰り返し発するなどの症状が現れます。

前頭側頭型認知症になりやすい人の特徴

前頭側頭型認知症のリスクを高める要因としては、以下のようなものが挙げられます。

家族に前頭側頭型認知症の方がいる

ご家族の中に前頭側頭型認知症の患者さんがいる場合、発症リスクが高くなる可能性があります。しかしながら、欧米では半数近くで家族歴が認められるものの、日本では家族性の割合は少なく、ほとんどは家族歴のない散発性です。
そのため、家族にはいないから安心とは限らず、誰にでも発症の可能性があることは知っておくことが大切です。

年齢

加齢は、ほかの認知症を引き起こす病気と同様に前頭側頭型認知症のリスクとなります。ただし、アルツハイマー型認知症よりも若い方で発症する傾向があります。65歳未満で発症する若年性認知症の割合が高いです。

心血管疾患

前頭側頭型認知症の発症リスクと、心血管疾患の有無、その他の生活習慣病、そして教育レベルとの関連を調べた研究があります。なお、心血管疾患は狭心症や心筋梗塞などのことです。
結果、遺伝性要因が特に無い孤発性の前頭側頭型認知症の方は、家族性の方と比べて心血管疾患のある方が多かったということがわかりました。
心血管疾患と前頭側頭型認知症の因果関係についてはさらなる検討が必要である点には注意が必要です。しかし、心血管疾患の有無が前頭側頭型認知症の発症リスクを高めることに関与している可能性はあります。

前頭側頭型認知症の治療法

前頭側頭型認知症の根本的な治療法は、まだ確立されていません。以下のような治療法によって、症状を和らげることが中心となります。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、抗うつ薬の一種です。前頭側頭型認知症の行動障害に対して、一部の症例では効果がみられたことが報告されています。
内服治療となり、外来通院での治療が可能です。脳神経内科や精神科での処方が一般的と考えられます。

行動療法

患者さんごとの残された機能や、症状の特徴を利用することで、介護者の方の負担を軽減できる場合があります。デイサービスや自宅などで、同じ時間帯に入浴をするなどの、日常生活の動作を習慣化することなどがあります。

抗精神病薬や抗てんかん薬

一部の症例では、抗精神病薬や抗てんかん薬の効果がみられました。副作用には注意が必要ですが、主治医との相談によって用いられる場合もあります。

前頭側頭型認知症を予防する方法

前頭側頭型認知症は、家族性の要因によって発症するものも多くみられます。近年、家族性前頭側頭型認知症の発症を遅らせることができるような行動について、研究が進められています。以下のような方法によって、前頭側頭型認知症のリスクを軽減させたり、進行を遅らせたりすることができる可能性があります。

日常的に体を動かし活動的に過ごす

余暇を活動的に過ごす方では、家族性前頭側頭型認知症の発症が遅くなったという報告があります。外に出かけたり、友人と会ったりするのも良いでしょう。家に閉じこもってじっとしてばかりいるのは、避けたほうがよいかもしれません。

健康的な食事や定期的な運動

健康的な食事や定期的な運動によって認知症全般のリスクが軽減できる可能性があります。
糖質や脂質の摂りすぎに気をつけ、良質な蛋白質やビタミン、食物繊維などを豊富に含む食事を意識しましょう。

高血圧や糖尿病などの治療を受ける

高血圧や糖尿病などの持病がある方は、きちんと治療を受けるようにしましょう。これらの病気をしっかりとコントロールすることで、心血管疾患や脳血管障害のリスクを下げることにもつながります。

「前頭側頭型認知症の原因」についてよくある質問

ここまで前頭側頭型認知症の原因などを紹介しました。ここでは「前頭側頭型認知症の原因」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

前頭側頭型認知症を発症すると怒りやすくなったり、性格が変わったりすることはありますか?

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

はい。前頭側頭型認知症の方では、感情の抑制が効かなくなる、などの性格変化が初期の段階からみられることがあります。

編集部まとめ

今回の記事では、前頭側頭型認知症の症状や原因などについて解説しました。
前頭側頭型認知症は、早期発見・早期対応によって、家族や本人の生活の質を守ることが可能です。性格が変わった、と同じことばかりしている、など、家族など身近な方に対して「いつもと違う」と感じた場合には、迷わず脳神経内科や精神科などの認知症専門医に相談しましょう。

「前頭側頭型認知症」と関連する病気

「前頭側頭型認知症」と関連する病気は13個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

精神疾患系の病気

脳神経内科の病気

内分泌科の病気

婦人科の病気

前頭側頭型認知症は単独で発症することもありますが、他の神経疾患や精神疾患と併発するケースが見られます。特に脳血管障害や甲状腺機能の異常が影響を及ぼすことがあり、全身の健康管理が重要です。

「前頭側頭型認知症」と関連する症状

「前頭側頭型認知症」と関連している、似ている症状は14個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 感情の平坦化
  • 無関心・無気力
  • 衝動的な行動
  • 言葉が少なくなる(失語)
  • 反復行動(同じ言動を繰り返す)
  • 共感力の低下
  • 社会的ルールの無視
  • 過食や過剰な買い物などの抑制障害
  • 注意力の低下
  • 自発性の欠如
  • 思考の柔軟性の低下
  • 動作が遅くなる
  • 記憶力の保持(物忘れが目立たない)
  • 自己中心的な言動

これらの症状は前頭側頭型認知症で出現するものですが、他の認知症や精神疾患でも類似した症状が見られることがあります。

この記事の監修医師