「アルツハイマー型認知症の寿命」はご存知ですか?症状・原因も医師が徹底解説!
アルツハイマー型認知症の寿命とは?Medical DOC監修医がアルツハイマー型認知症の寿命・症状・原因・なりやすい人の特徴・治療法などを解説します。
監修医師:
石飛 信(医師)
目次 -INDEX-
「アルツハイマー型認知症」とは?
アルツハイマー型認知症とは、認知症のタイプの一つです。
認知症は、いろいろな病気によって脳の神経細胞の働きがだんだんと低下して、記憶力や判断力が低下し、社会生活に支障をきたした状態のことです。
アルツハイマー型認知症は、認知症の原因として最も多いと言われています。そして、高齢者ではその有病率が高まります。
今回の記事では、アルツハイマー型認知症の寿命や症状、原因、なりやすい人の特徴や治療法について解説します。
アルツハイマー型認知症の寿命
アルツハイマー型認知症は、現時点では完治することは難しい病気です。
なお、少し古いですが、2002年のデータによると日本でのアルツハイマー型認知症の発症後の5年生存率は52.6%とされています。
アルツハイマー型認知症の方々の寿命は、診断時の症状の程度が影響しているのではないかと考えられています。アルツハイマー型認知症では、物忘れなどの脳機能の低下そのものだけが問題というわけではありません。身体機能低下(嚥下機能低下)や認知機能低下に基づく転倒、骨折のリスクも高まります。こうした複数の要因により、認知症ではない人よりも寿命が結果的に短くなると考えられます。
アルツハイマー型認知症の方の一般的な死因は、飲み込みの力が弱くなることなどによる肺炎が多くみられます。その他にも、脱水や栄養失調、転倒、その他の感染症などがあります。
アルツハイマー型認知症の代表的な症状
ここでは、アルツハイマー型認知症の代表的な症状を紹介します。
記憶障害(物忘れ)
アルツハイマー型認知症では、記憶障害(物忘れ)から症状が始まることが多いです。
具体的には、約束を忘れる、物の置き場所がわからなくなる、話したことを忘れて同じ話を繰り返すようになるといったことがあります。
また、アルツハイマー型認知症では、ヒントを与えられても正解が出にくいという点も特徴的です。一方で、昔の記憶(遠隔記憶)は比較的保たれます。
自分自身や家族などが認知症かもしれないという症状に気づいたら、認知症外来や物忘れ外来などの専門家に相談するようにしましょう。
見当識障害
アルツハイマー型認知症では、記憶障害に引き続いて見当識障害(けんとうしきしょうがい)が加わります。
見当識障害とは、「自分がどこにいるのか、今が何時なのか、誰と話しているのかといったことがわからなくなる状態」です。特に、アルツハイマー型認知症では、時間、場所、人の順に進むことが多いです。例えば、予定を忘れてしまったり、普段の生活で道に迷いやすくなったり、自宅と他の場所を混同してしまったりすることがあります。そのため、周囲のサポートが重要となります。
遂行機能障害
遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)も、比較的早い時期から認められることが多く、家事や仕事などの日常業務に支障をきたします。
遂行機能障害があると、計画を立てて物事を実行することが難しくなります。例えば、料理をするときに「野菜を切って鍋に入れる」という順序がわからなくなる、といったことが起こります。また、仕事で複数のタスクがあるとき、何から始めればいいかわからなくなったり、途中で何をしているか忘れてしまったりもします。
こうした症状に対しては、チェックリストを作る、スケジュールを一緒に立てるなどすると良いでしょう。
アルツハイマー型認知症の主な原因
それでは、ここからはアルツハイマー型認知症の原因について解説します。
アミロイド蛋白の蓄積
アルツハイマー型認知症の原因は、脳内にアミロイドβタンパク質とリン酸化タウタンパク質が異常に蓄積することです。この蓄積によって、脳細胞が死滅していってしまうのです。
脳内に異常タンパク質の蓄積が起こることで、まずは海馬と呼ばれる記憶を制御する領域の機能が障害されます。その後、他の領域でも神経細胞が死んでいきます。
高齢であること
アルツハイマー型認知症のリスクが高まる要因として、年齢があります。
アルツハイマー型認知症を含めた認知症を発症する可能性は、65歳以降では5歳ごとに倍増するという報告もあります。
一方で、65歳未満でもアルツハイマー型認知症を発症することもあります。このようなケースは、早期発症型あるいは若年発症型アルツハイマー病と呼ばれます。若年性アルツハイマー病は全体の約5%と稀ですが、40代から50代で発症することもあります。早期診断と治療が重要です。
家族歴
一部の家族では、アルツハイマー型認知症が代々引き継がれることがあります。
もしも家族の何人かが何世代にもわたって、特に若い年齢で認知症を発症している際には、遺伝カウンセリングも場合によって勧められます。また、定期的な認知症検査の受診が望ましい場合もあります。
アルツハイマー型認知症になりやすい人の特徴
アルツハイマー型認知症になりやすい人の特徴について解説します。
65歳以上である
アルツハイマー型認知症の発症リスク増大において、年齢は最も重要な要因となります。特に、65歳以上になるとその発症リスクが高まります。
心臓や血管に関わる病気にかかっている
喫煙や肥満、糖尿病、高血圧などの病気は、心臓や血管に関わる病気である心血管障害と関連しています。こうしたリスクを持っている方は、アルツハイマー型認知症のリスクを高める可能性があります。
そのため、アルツハイマー型認知症のリスクを下げるため、禁煙や健康的でバランスの取れた食事を摂る、活動的な生活を送ることが大切です。他にも、適正体重を保つ、アルコール摂取量を減らすといったことも重要です。
社会的に孤立傾向にある
社会的な孤立は、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるという報告があります。
社会的に孤立していると、人との交流が乏しくなったり、健康状態のチェックの機会が少なくなってしまったりすることがあります。
アルツハイマー型認知症のリスクを下げるために、可能であれば積極的に他者と関わる機会を作るようにしたいものです。例えば、社会的な孤立を防ぐために、地域のコミュニティに属する、趣味のグループに参加するなどの方法があります。もしも高齢独居の家族がいる場合には、定期的に訪問し話をするようにすると良いでしょう。
アルツハイマー型認知症の治療法
現在、アルツハイマー型認知症を治す方法はありません。しかし、以下の方法で症状の進行を緩やかにしたり、軽くしたりすることが可能です。
薬物療法
アルツハイマー型認知症の認知機能改善のために、いくつかの薬剤の有効性が示されています。例えば、コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンという薬や、NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンがあります。
これらの薬剤による治療は、通常外来で行われます。
また、令和5年には、新しい作用メカニズムを持つレカネマブが発売されました。レカネマブは、アルツハイマー病の根本原因とされるアミロイドβの蓄積を減少させるという新たな作用機序を持つ薬です。
しかし、点滴治療が必要で、副作用のモニタリングも重要です。この薬は初回投与の際には入院し、点滴治療を行います。2回目以降は、外来での点滴治療が行われます。
いずれも投薬治療中は定期的に認知症外来や神経内科を受診し、効果や副作用を観察していくことになります。
認知刺激療法
アルツハイマー型認知症を含めた認知症全般の治療では、薬物療法と非薬物療法を組み合わせていきます。認知機能改善と生活の質(quality of life:QOL)の向上を目指しています。
認知症になると、認知機能障害の他に、妄想や起こりっぽさなどの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)が起こります。こうしたBPSDが現れた場合には、まず非薬物療法が重要となります。
認知刺激療法とは、アルツハイマー型認知症を含む認知症の患者さんに対して行われる非薬物療法の一つです。例えば、集団で行う活動や、話し合いに参加することで、認知機能や社会的機能を全般的に強化しようとする治療法です。介護施設やデイサービスなどで行われることが多いと考えられます。
回想法・運動療法
回想法や運動療法は、認知以外の症状を緩和するための治療法です。
回想法は、認知症の患者さんが過去を思い出し、周囲が傾聴することで人生を再評価し自尊心を図る治療法です。例えば、家族アルバムを一緒に見る、昔の写真や音楽を楽しむなどの方法があります。
また、運動療法は、アルツハイマー型認知症の方の身体機能や日常生活動作の増悪を軽減します。運動機能に応じて、椅子に座ったままでもできる運動や、軽い散歩などが行われます。こうした療法についての有効性はまだはっきりしていない部分もありますが、必要に応じて行われる場合があります。
こうした療法は、介護施設やデイサービスなどで行われる場合が多いでしょう。
「アルツハイマー型認知症の寿命」についてよくある質問
ここまでアルツハイマー型認知症の寿命などを紹介しました。ここでは「アルツハイマー型認知症の寿命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
アルツハイマー型認知症の末期症状について教えてください。
石飛 信 医師
アルツハイマー型認知症は、最終的には自分の身の回りのケアや言語の理解や発語も困難となります。そして、立つ、座る、歩くなどの基本的な運動能力も低下することが多く、寝たきりになる場合も多くみられます。末期には低栄養や脱水、誤嚥性肺炎などの感染症の合併症による死亡率が高くなります。
アルツハイマー型認知症の進行速度はどれくらいですか?
石飛 信 医師
アルツハイマー型認知症と診断された際に軽症であるほど、進行速度はゆっくりとなります。ただし、早期発見や適切な治療を行うことで進行を遅らせることが可能です。
編集部まとめ
今回の記事では、アルツハイマー型認知症の寿命や症状、原因、特徴、治療法などについて解説しました。現時点では、アルツハイマー型認知症を完全に治すことは難しいですが、薬物療法や非薬物療法を組み合わせることで、診断後の寿命を延ばすことも可能と考えられます。
アルツハイマー型認知症の予防、あるいは早期発見のために、社会的な活動を行うなどをして、認知機能を刺激する活動を増やしていきましょう。何らかの異常に周囲あるいは本人が気づいた場合には、早めに専門医を受診するようにしましょう。
「アルツハイマー型認知症」と関連する病気
「アルツハイマー型認知症」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科の病気
- レビー小体型認知症
- 血管性認知症
- 前頭側頭葉型認知症
循環器内科の病気
内分泌内科の病気
- 肥満
- 糖尿病
アルツハイマー型認知症では、他の認知症と似た症状を呈することもあります。また、心血管系の病気に関連する病気がアルツハイマー型認知症のリスクを上げる可能性があります。健康的な生活を心がけましょう。
「アルツハイマー型認知症」と関連する症状
「アルツハイマー型認知症」と関連している、似ている症状は13個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 記憶力の低下
- 見当識障害
- 判断力の低下
- 言語障害
- 注意力の低下
- 不安感や抑うつ
- 意欲の低下
- 幻覚や妄想
- 怒りっぽさや攻撃性
- 歩行や運動機能の低下
- 失禁
- 嚥下障害
- 社会的な孤立
これらの症状はアルツハイマー型認知症に特有ではない場合もあり、他の認知症や神経疾患とも重なることがあります。早期に医療機関で診断を受けることが重要です。