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“痛みの少ない内視鏡検査” を受けるにはどうすればいい? 無痛内視鏡検査の実際と注意点を医師が解説

 公開日:2025/11/29

内視鏡は痛い、つらいというイメージを持ち、検査を避けてしまう方は少なくありません。しかし、近年は鎮静剤や先進的な機器の導入によって“無痛での内視鏡検査”が普及し、苦痛を大幅に軽減できるようになっています。定期的に検査を受けることは、がんをはじめとする消化器疾患の早期発見に直結します。そこで今回は、無痛での内視鏡検査の仕組みやメリット、注意点、医療機関選びのポイントについて、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木先生に詳しく解説していただきました。

柏木 宏幸

監修医師
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)

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2010年埼玉医科大学卒業後、沖縄にて初期臨床研修をおこない、東京女子医科大学病院消化器病センター内科へ入局。女子医科大学病院消化器内科助教となり複数の出向病院で勤務し、2023年4月に池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、一般社団法人日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、難病指定医。

「内視鏡=痛い」は本当? 無痛での内視鏡検査が普及した背景

「内視鏡=痛い」は本当? 無痛での内視鏡検査が普及した背景

編集部編集部

内視鏡検査の「痛み」や「つらさ」は、どのような理由で生じるのか教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)では、内視鏡が喉を通過する際に刺激が加わるため、喉の違和感や圧迫感、嘔吐反射が誘発されやすくなります。歯磨きの際に嘔吐反射が出るような方は、鎮静剤なしで検査を受けた際に検査が中断されることもあります。また、胃内を観察するために空気を注入することで、胃の膨満感を感じることもあります。大腸内視鏡検査(大腸カメラ)では、内視鏡が腸の曲がり角を通過する際や腸が引っ張られることで痛みが生じることがあります。さらに、腸内を観察するために空気を注入することで、腹部の張りや痛みを感じることもあります。体格や過去の腹部手術歴、腸の癒着などがある場合は、痛みが起こりやすくなる傾向があります。

編集部編集部

最近は無痛での内視鏡検査が増えていますが、どのような仕組みで痛みが抑えられるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

無痛での内視鏡検査には、主に3つの工夫があります。
① 鎮静剤・鎮痛薬の使用:薬を使って、眠っているような深いリラックス状態をつくることで、痛みを感じにくくする
② 医師の技術と機器の改良:内視鏡を挿入する際に腸をできるだけ引っ張らないように操作することで痛みを軽減する。細く柔らかい内視鏡など、患者の負担を減らすための機器を導入する施設も増えている
③ 炭酸ガスの使用:大腸カメラでは観察のために腸内にガスを送りこむが、通常の空気ではお腹の張りや痛みが残ることがある。炭酸ガスは空気より早く体に吸収されるため、検査後の膨満感や張りを大きく軽減できる

編集部編集部

鎮静剤や鎮痛剤を使った内視鏡検査は、従来の検査と比べてどのような違いがあるのですか?

柏木 宏幸先生柏木先生

従来の内視鏡検査では、胃カメラによる嘔吐反射や喉の違和感、大腸カメラでの痛みや腹満感などが強く出る場合、検査の途中で中止したり検査自体を受けられなかったりする方もいました。こうした方でも、鎮静剤や鎮痛剤を併用することで、苦痛を感じることなく検査を受けることが可能になります。また、検査に対する不安が強い方も、鎮静剤の使用によりリラックスした状態で安心して臨むことができます。

無痛での内視鏡検査のメリットと注意点

無痛での内視鏡検査のメリットと注意点

編集部編集部

無痛で内視鏡検査を受けることで、患者さんにとってどのようなメリットがあるのか教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

無痛で内視鏡検査を受ける最大のメリットは、検査に対する恐怖心や苦痛が軽減されることです。その結果、患者さんが定期的に検査を受けやすくなり、検査の完了率も高まります。過去に内視鏡検査でつらい経験をされた方や、検査が途中で中断された方の中には、その後の検査を避けてしまう傾向があります。しかし、次回の検査タイミングが遅れることで、がんが進行してしまうケースも少なくありません。また、検査中に嘔吐反射や痛みがあると、医師側も検査を早く終えようと焦ってしまい、十分な観察ができなくなることがあります。患者さんがリラックスした状態で検査を受けることで、医師は細部まで丁寧に観察でき、病変の見逃しを防ぐことにもつながります。

編集部編集部

内視鏡検査に用いられる鎮静剤には、副作用やリスクもあるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

内視鏡検査で使用する鎮静剤は、ほかの薬剤と同様に副作用やアレルギー反応のリスクがあります。代表的な症状としては、血圧の低下、呼吸が浅くなる・一時的に止まるなどの呼吸抑制、検査後のふらつき、めまい、眠気などが挙げられます。また、鎮静剤は注射で投与されるため、注射部位から薬剤が血管外に漏れると、痛みや腫れが生じることもあります。こうしたリスクに備え、検査前にはアレルギーや既往歴の問診をおこない、検査中は専門スタッフが脈拍・血圧・呼吸・酸素飽和度を綿密にモニタリングし、異常があれば迅速に対応しています。

編集部編集部

無痛での内視鏡検査を受けた後に注意すべきことはありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

無痛内視鏡検査では鎮静剤により苦痛なく検査を受けられますが、薬の影響で当日は集中力や判断力が十分に回復しません。このため、検査当日の自動車・自転車の運転や精密作業は控える必要があります。また、体質や当日の体調によっては、検査後に吐き気や頭痛、めまい、倦怠感などを感じる場合があり、検査当日は自宅で休み、適度に水分を摂ることをおすすめします。食事に関しては、検査直後は胃腸への負担を避けるため、消化にやさしいものを少量ずつ摂取してください。脂っこいものや刺激物は翌日まで控えるようにしましょう。出血や激しい腹痛、発熱などが現れた場合は、速やかに検査をおこなった医療機関へ連絡してください。鎮静剤の影響と思われる症状が長時間続くときも、同様に医療機関に相談する必要があります。

安心して内視鏡を受けるために知っておきたいこと

安心して内視鏡を受けるために知っておきたいこと

編集部編集部

内視鏡検査を受けるとき、鎮静剤を使用することが勧められる人はどのような人でしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

鎮静剤の使用は、医師・医療機関の判断と患者さんの希望に応じて決定されます。そのため、メリットとデメリットを理解したうえで判断されることをおすすめします。医師の立場から、鎮静剤の使用をおすすめするケースとしては以下の通りです。
・過去の検査で苦痛が強かった方
・初めての検査で不安が強い方
・嘔吐反射が強い方や痛みに過敏な方
・ポリープ切除などの治療的処置が見込まれる方

編集部編集部

反対に、鎮静剤の使用が不要あるいは避けるべき人はどのような人でしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

下記に当てはまる方は、鎮静剤の使用を避けるべきであると考えられます。
・これまで鎮静剤なしで問題なく検査を受けられた方
・検査中に画像を一緒に見たい希望がある方
・重い呼吸器疾患、極端な低血圧、鎮静薬へのアレルギー歴、高齢などを理由に、鎮静剤による合併症リスクが相対的に高い方
・当日車の運転を予定している方

編集部編集部

痛みに不安が強い人や過去につらい経験がある人は、検査前にどのような点を相談すべきでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

率直に医療従事者へ伝えることをおすすめします。鎮静剤の効果には個人差があり、過去に使用しても十分な効果が得られなかった方もいます。施設によっては、軽いリラックス目的の投与や、安全を考慮した最小限の投与など、使用方針が異なります。痛みを感じやすい、鎮静剤が効きにくいといった情報は、検査を安全かつ快適におこなうために重要です。また、鎮静剤の投与量は血圧、酸素飽和度、基礎疾患、年齢、体格などによって調整されます。血圧が低い方や心臓や呼吸器の重い病気がある方、高齢の方などは、使用量が制限されることがあります。鎮静剤は効果が切れるのが比較的早いため、検査中に目が覚めたり痛みを感じたりした場合は、遠慮なく医師や看護師に伝えてください。状況によっては追加投与が可能です。

編集部編集部

無痛での内視鏡検査を導入している医療機関を選ぶ際、注目すべきポイントはありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

快適かつ安全に検査を受けられる環境かどうかを総合的に見極めることが大切です。内視鏡検査はクリニックまたは病院で受けられますが、鎮静剤を使用した検査に施設が慣れているかどうかは、内視鏡検査を専門的におこなっているかどうかに直結します。内視鏡専門医の在籍や鎮静剤の使用状況がホームページで明記されているか、検査件数なども参考になります。また、入院治療や精密検査が必要となった際に、専門病院や高次医療機関へスムーズに紹介してもらえる体制が整っているかも重要です。患者さんの来院数や連携医療機関の多さも、施設の信頼性を判断する材料になります。ホームページには、検査の流れや設備、取り組みなどが詳しく掲載されていることが多いため、事前に確認しておくと安心です。

編集部まとめ

内視鏡は痛いから受けたくないと思う気持ちは自然ですが、無痛での検査技術が広がった今、必要以上に恐れる必要はあまりないということを教えていただきました。苦痛を減らし、安心して受けられる環境を選ぶことが、健康を守る第一歩につながることを改めて学ぶことができました。本稿が読者の皆様にとって、検査に対する不安を和らげ、前向きに受診を検討するきっかけとなりましたら幸いです。

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