「糖尿病のある方が果物を食べる」のは大丈夫? 血糖値は上がるのか医師が解説

厚生労働省・農林水産省が作成している「食事バランスガイド」によると、1日200gの果物を摂取することが推奨されています。果物にはビタミンやミネラルなど、健康に良い栄養が豊富に含まれていますが、糖尿病のある方も同じように摂取していて問題ないのでしょうか。果物の過量摂取が血糖値の上昇を招くのか気になるところです。今回、日本糖尿病学会専門医の廣田先生に、「糖尿病と果物の関係」について、詳しく伺いました。

監修医師:
廣田 尚紀(医師)
「糖尿病がある方」は果物を食べても問題ないのか

編集部
「糖尿病があると果物を食べてはいけない」と思っている方が多いようです。実際のところはどうなのでしょうか?
廣田先生
まず、いくつかタイプがある糖尿病のうち、今回お話したいのは「2型糖尿病」と呼ばれるタイプと果物の関係です。この記事の中では2型糖尿病を“糖尿病”と呼ぶことにします。ほかのタイプの糖尿病の方や、現在の病態で特別な注意が必要な方は事情が異なることがありますので、必ず主治医と相談してください。
編集部
わかりました。では、2型糖尿病の方は果物を食べてはいけないのでしょうか?
廣田先生
結論から言うと、糖尿病があっても果物を「まったく食べてはいけない」ことはありません。ただ、果物にはブドウ糖や果糖、ショ糖といった糖類が含まれていて、とりすぎると血糖値が上がってしまうことがあります。そのため「果物がいけない」のではなく、「果物の量」を意識することが大事なのです。
編集部
果物の“量”がポイントなのですね。適切な量についてもう少し詳しく教えてもらえますか?
廣田先生
糖尿病の方の食事のバランスの目安として、「食品交換表(※1)」と呼ばれる資料があります。これは、病院などで糖尿病の方に栄養指導をおこなうときにも使う資料です。この資料によると、糖尿病がある方は「果物は1日あたり1単位くらいまでにしましょう」と言われています。「1単位」とは、カロリーにしておよそ80kcalほどです。
編集部
具体的には果物で80kcalってどれくらいになるのですか?
廣田先生
たとえば、80kcal分の果物は、中くらいのバナナ1本、中くらいのみかん2~3個、大きめの梨半分くらいが目安になります。いちいちカロリーを覚えるのは大変なので、病院などでは「片手の手のひらに乗るくらいの果物の量を1日あたりの目安にしましょう」とお伝えしています。この“片手の手のひらに乗る量”という目安はとても便利ですので、ぜひ覚えてみてください。
果物を食べすぎてしまった場合、どのような影響が出る?

編集部
具体的な量がイメージできると分かりやすいですね。実際、果物を食べすぎて血糖値が上がることはあるのでしょうか?
廣田先生
私の外来に来られる患者さんでも、これまで血糖値が安定していたのに、急に血糖値が上がる方がいます。話を聞いてみると、実家から箱でみかんが送られてきたり、お友達から柿を大量にもらったりして、毎日多く果物を食べていた、というケースもありますね。最近だと、ふるさと納税でフルーツをもらいすぎるパターンもあるようです。
編集部
果物を食べすぎて血糖値が上がった場合、元の数値に戻るのでしょうか?
廣田先生
そのような方に果物の量を控えていただくと、血糖値が元の良い状態に戻ることが多いです。やはり、大切なのは“量”なのです。同じ糖尿病でも、血糖値を下げる能力の落ち方には個人差があります。「食品交換表」の1単位(80kcal)を目安にしながらも、それでも血糖値があがるようなら、果物の摂り方や治療内容について主治医に相談するといいでしょう。
編集部
フルーツジュースの場合、血糖値に影響はあるのですか?
廣田先生
フルーツジュースは、果物そのものを食べる場合と少し影響が違うと言われています(※2)。「適量の果物であれば血糖値のコントロール(HbA1c)を悪くしない」という報告がある一方、「フルーツジュースを日常的に飲んでいると、長い目で見たときの血糖値のコントロールが悪化する可能性がある」とも言われています。だからといってフルーツジュースを「まったく飲んではいけない」わけではありません。いつも飲むのではなくて、たまに楽しむ程度にしておく方が良さそうです。
糖尿病のある方が果物を食べる際の注意点まとめ

編集部
糖尿病のある方が果物を食べる場合、注意点などあれば教えてください。
廣田先生
糖尿病のある方だと、自己血糖測定器で血糖値を測る方もいらっしゃると思います。その際、果物を食べたあと指に果汁がついた状態だと、自己血糖測定器で測定した血糖値が実際より高めに出やすくなります。その状態で出た値は、あまりアテになりません。自己血糖測定をするときには、測定前に水と石けんなどできちんと手を洗って果汁を落としておきましょう。
編集部
糖尿病が進行すると腎臓の機能が低下することもあると聞きました。そういう場合、果物に含まれるカリウムにも注意したほうがよいですか?
廣田先生
腎臓が悪くなると、カリウムの摂取量を制限しなくてはいけないことがあります。カリウムは野菜や果物に多いイメージですが、実はほかの多くの食品にも含まれており、野菜や果物を極端に制限すべきではありません。腎臓が悪い方のためのガイドラインでも「カリウムを心配しすぎて、すべての野菜と果物を特別に制限することはオススメしない」とされています。一方で「全体の食事内容を考慮して、野菜や果物がカリウム上昇の原因になっていないか検討する必要がある」とも言っています(※3)。
編集部
意外です。果物はとてもカリウムが多いイメージがありました。
廣田先生
そういう風に思われる方は多くいらっしゃいます。なので、必要以上に果物のカリウムを怖がる必要はありませんが、明らかに果物を大量に摂りすぎている場合や、カリウムの多いドライフルーツなどをよく食べる方は注意が必要です。糖尿病によって腎臓の機能が落ちている方は、自己判断せずに主治医に相談してください。
編集部
最後に、糖尿病の方と果物の付き合い方についてまとめをお願いします。
廣田先生
糖尿病がある方が「果物をまったく食べてはいけない」わけではありません。食べる量は1日あたり1単位(80kcal)くらいが目安になります。これは「片手の手のひらに乗るくらいの量」と思ってください。この目安をもとに、ご自身の状況や病態にあわせて主治医などと相談しながら量を調整するのが良いでしょう。
参考文献:
(※1)日本糖尿病学会「糖尿病食事療法のための食品交換表第7版」
(※2)日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
(※3)日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」
編集部まとめ
「糖尿病がある方でも果物は食べてもよい」という結論でした。しかし、記事内で廣田先生が仰っていたように、重要なのは“量”とのこと。食べ過ぎてしまうと、血糖値が上がってしまったり、カリウムの過剰摂取につながったりしてしまうそうです。気になる方は主治医に相談し、健康に果物を楽しみましょう。