夜間のみ「頻尿」、日中は普通… 隠れている病気や考えられる原因を医師が解説

日中、会社や学校へ行っているときにはトイレの回数は普通なのに、夜間だけ近くなる……。そんな悩みを抱えている人もいるのでは? もしかしたらその場合、薬などによる治療で改善できるかもしれません。「夜間のみ頻尿」の原因や対処法について、かねみつクリニックの金光先生に教えてもらいました。

監修医師:
金光 俊行(かねみつクリニック)
夜間のみ頻尿になる原因は?

編集部
寝ている間に何度もトイレに起きることがあります。
金光先生
医学的には、「就寝中に排尿のために1回以上起きなければならない」ことを夜間頻尿といいます。
編集部
「1回以上」というのが夜間頻尿の定義だと、多くの人に当てはまるのではないでしょうか?
金光先生
実際、夜中に2回や3回、トイレへ行っている人もいるかもしれませんが、それでも特に「困っていない」という場合もあると思います。そのような場合には、あえて治療の必要はありません。しかし、過去のデータでは、「就寝中、2回以上トイレに起きると生存率が低下する」ということも示されています。
編集部
寝ているときに2回以上トイレへ行くと生存率が下がる、というのはなぜですか?
金光先生
睡眠の質の低下や転倒などの危険性、血圧の上昇、既存疾患の増悪などがあります。そのため現実には、夜中に2回以上トイレに起きている人が治療対象となることが多いですね。
編集部
夜間頻尿の原因はなんですか?
金光先生
大きく分けて、「尿量の増加」「下部尿路症状」「睡眠障害」という3つが考えられます。まず尿量の増加とは、尿量が多いために夜間頻尿が起きているというものです。多尿と夜間多尿に分類され、多尿とは1日の尿量が40ml/kg(体重)を超えること、夜間多尿とは、夜間のみ尿量が多くなって何度もトイレへ行きたくなることをいいます。
編集部
多尿や夜間多尿の原因はなんですか?
金光先生
多尿は水分の摂りすぎや、糖尿病、高血圧、心疾患など、内科的な疾患が原因で起きることがあります。また、夜間多尿は寝る前に水分をたくさん摂りすぎることやホルモンバランスの乱れ、内科的な疾患などが原因で起きることがあります。また、どちらも現在服用している薬剤の影響で起きることもありますし、足がむくむ人に多く見られる傾向もあります。
編集部
なぜ、足がむくむ人に多く見られるのですか?
金光先生
そもそも足がむくむ原因は、足に体液が滞留しているということ。しかし、寝る姿勢になると、体液が心臓に戻ります。その影響で尿量が増えるのです。筋肉量が減少する高齢者や運動量の少ないデスクワークの人などに多く見られます。
多尿以外の夜間頻尿の原因

編集部
下部尿路症状とはなんですか?
金光先生
膀胱や前立腺に異常が起こり、膀胱容量が減少することをいいます。膀胱容量の減少とは、少しの容量しか膀胱に尿を溜められなくなることを指し、その場合は夜間のみ頻尿になるのではなく、昼間にも頻尿になることがあります。
編集部
なぜ膀胱容量が減少するのですか?
金光先生
よくある原因に過活動膀胱が挙げられます。これは膀胱が過敏になって、本人の意思とは無関係に膀胱が収縮してしまう病気のこと。尿が十分溜まっていないのに排尿しようとして、急に我慢できない尿意が生じたり、我慢できずに尿が漏れたりします。
編集部
過活動膀胱の原因はなんですか?
金光先生
大きく分けて3つの原因が考えられます。まず1つめが脳や肝臓の疾患、糖尿病などによる神経因性。2つめが、前立腺肥大症や骨盤臓器脱などによる非神経因性。3つめが加齢や肥満などによる特発性です。このうち最も多いのは特発性で、過去には「日本では40歳以上の8人に1人が罹患している」という報告もありました。
編集部
残った「睡眠障害」についても教えてください。
金光先生
これは眠りが浅く、すぐに目が覚めてしまうという人に起こりやすいもの。目が覚め、トイレが気になって起きてしまうというものです。特に高齢者の人に起こりがちです。そのほか、睡眠時無呼吸症候群の可能性も考えられます。
編集部
睡眠時無呼吸症候群が夜間頻尿の原因になることもあるのですか?
金光先生
はい。睡眠時無呼吸症候群の場合、途中で覚醒したときにトイレが気になり、排尿のために起きることは少なくありません。
編集部
夜間頻尿にはいろいろな原因が関係しているのですね。
金光先生
はい。実際には「睡眠時無呼吸症候群と前立腺肥大症」など複数の因子が重なって夜間頻尿を引き起こしていることが多く見受けられます。そのような場合には前立腺肥大症を治療しただけでは夜間頻尿を治すことができず、睡眠時無呼吸症候群へのアプローチも必要になります。そのため、夜間頻尿の治療では、治療効果を見ながらほかの因子が隠れていないか、注意深く観察することが重要です。
夜間頻尿の対処法

編集部
夜間頻尿はどのように対処すればよいのでしょうか?
金光先生
夜間頻尿の原因はさまざまあり、それぞれに治療法が異なります。そのために必要なのは、原因を正しく鑑別することです。まずは夜間頻尿の原因が水分の摂りすぎによるのか、それとも膀胱容量の減少によるのか、およその見当をつけてみましょう。
編集部
どうすればわかりますか?
金光先生
おおまかな目安として、夜間の排尿で「しっかり排尿できたという実感がある」か「十分な尿量が排尿できていない」のどちらであるかを考えてみます。数日間の傾向を掴むには、排尿日誌をつけることが役立つと思います。
編集部
しっかり排尿できたという実感があるか、そうでないかで、どのようなことがわかるのですか?
金光先生
前者の場合には、特に夜間多尿が原因となっていることが考えられます。一方、後者の場合には過活動膀胱、前立腺肥大、睡眠の質の低下などが原因として考えられます。
編集部
治療することはできるのですか?
金光先生
はい。まず夜間多尿が原因の場合には、飲水の習慣を見直すところから始めてみましょう。特に大事なのは、夕食を取ってから寝るまでの飲水量を制限すること。具体的には、ペットボトル1本を超えないように意識します。ただし、起床から夕食までは最低でも1〜1.5リットルしっかり取るようにすることも大事。1日のなかで水分を摂取するタイミングを見直すことで、夜間頻尿を解決できるケースは少なくありません。
編集部
過活動膀胱にはどのように対処するのですか?
金光先生
β3作動薬や抗コリン薬などを症状に応じて処方します。また、生活指導や膀胱訓練、骨盤底筋体操などの行動療法もおこないます。これらの治療を少なくとも3カ月以上継続しても尿漏れが改善しない場合には難治性過活動膀胱と診断し、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を検討します。この治療は保険適用で受けることができます。日帰り手術で受けられる医療機関も多いです。
編集部
まずは原因を見極めて、それぞれに適した治療をおこなうことが必要なのですね。
金光先生
はい。内科的な疾患が原因になっていることもありますし、足のむくみや睡眠時無呼吸症候群が原因になっていることもあります。何が原因で夜間頻尿を引き起こしているのかを適切に見定め、それに合わせた治療をおこなうことが大切です。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
金光先生
夜間頻尿は特に睡眠の質に関係します。夜間頻尿を治療すると睡眠の質の改善につながり、日中の眠気がなくなる、仕事のパフォーマンスが上がる、生活リズムが整って快活に生きられるようになるなど、QOL(生活の質)が大きく向上します。特に高齢者に多いのが、「夜、トイレに何度も起きるのは年齢のせい」といってあきらめてしまうこと。しかし、何歳になっても良好な睡眠は健康にとって不可欠ですし、QOLを向上させてくれます。夜間頻尿は適切な治療で改善することができますから年齢のせいとあきらめず、ぜひ医師に相談してほしいと思います。
編集部まとめ
夜間頻尿の定義は「1回以上排尿で起きること」。たとえばペットや子どもに起こされ、そのついでにトイレへ行ったとしても、それは「排尿のために起きた」とカウントされます。つまり「排尿が原因で目覚めたかどうか」ではなく、「目が覚めて排尿へ行ったかどうか」が重要なのです。もし夜間頻尿で心当たりがある場合、一度医師に相談してみると、もっとQOLが上がり、さらに充実した人生が送れるかもしれません。
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