【体験談】少し体重が増えたと思ったら「糖尿病」になっていた…
糖尿病は、初期には自覚症状がないことがほとんどです。家族歴もなく、大病をしたこともなかった石井さん(仮称)は、毎年の健康診断受診が病気を発見するきっかけとなりました。糖尿病は発症しても、内服治療や食事・運動に気をつけることで、病気をコントロールすることも可能です。発症前であれば、糖尿病の発症を予防することも不可能ではありません。石井さんに、モチベーションを保ちつつ治療を継続し、病気とつきあう方法を語ってもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年3月取材。
体験者プロフィール:
石井さん(仮称)
神奈川県在住、1966年生まれ。結婚し1児の父。診断時の職業は営業職主任。2015年に糖尿病の診断を受け、服薬治療を開始。内科と眼科の連携で合併症の予防も行いつつ、自分が続けやすい糖尿病治療を継続中。自分や家族の病気をきっかけに、ライターとして医療従事者へのインタビューも行っている。
記事監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
健康診断が糖尿病発見のきっかけに
編集部
病気発見までの経緯を教えてください。
石井さん
糖尿病だと判明したのは2011年、44歳の時です。2010年秋、43歳の時の健康診断で血糖値が131、ヘモグロビンA1cU(HA1c)が6.1と若干数値が高くなり、二次健診が必要との結果になりました。再健診の結果、糖尿病との結果を受け、内科の受診を指示されました。二次検診時の血糖値は136、HA1cは6.7でした。
編集部
家族歴や持病、仕事内容について教えてください。
石井さん
もともと眼科の持病はありましたが、ほかには大病を患ったことはありませんでした。糖尿病の家族歴もありません。当時の仕事は営業職です。生活は不規則で、夜中にお客さんの所へ行き、車で仮眠をとり出勤という生活も珍しくありませんでした。
編集部
健康診断は受けていましたか?
石井さん
勤めていた会社の健康診断では、多少体重の増加は指摘されていたものの、血液検査の数値にも問題はなかったですね。糖尿病と診断される前年、2009年の健康診断では、血糖値110、ヘモグロビンA1c(HA1c)は5.5程を維持していました。
生活へのリスクが、治療を続けるモチベーションに
編集部
どのような治療を始めたのですか?
石井さん
あらためて家からも近い内科クリニック受診し、改めて検査を行って、生活習慣が原因の2型糖尿病だと診断を受けました。そのクリニックの先生の下での治療が始まりました。診察では、不規則な仕事の状況、食事の内容や運動習慣についても詳しく聞かれました。他人に話すことで、改めて自分の生活習慣が乱れているという自覚にもつながったと思っています。
編集部
具体的にどのような治療をすることになったのでしょうか?
石井さん
軽度の糖尿病ということもあり、まずは内服薬による治療を主に行うことになりました。インスリンの分泌を促す薬を朝食後1錠服用するものです。服用開始後の副作用は特にありませんでした。あわせて出来る限り食事や運動など生活習慣に気をつけるように、とのアドバイスをいただきました。
編集部
治療開始後、気持ちに変化はありましたか?
石井さん
特には自覚症状もありませんし、それまで大病をしたこともなかったため、糖尿病と診断を受けてもあまり深刻には考えませんでした。ただ、拙い知識ながら「糖尿病は何もしないで放っておくと大変なことになるかもしれない」とは認識していました。治療を続けるモチベーションになったのは、主治医からの病気についての説明です。特に「病気が進行すると合併症で、目や手足など体に影響がでることもあるからね」という言葉は心に残りました。当時は生まれた子どもが保育園に通い始めたばかりだったので、将来のリスクは病気が悪化しないように薬の服用を続けるきっかけになりました。
編集部
その後、生活の様子はどうでしたか?
石井さん
相変わらず生活は不規則でした。食事の時間は日によって違いますし、睡眠も平均5時間とあまり取れていなかったと思います。そんな中、2011年に勤めていた会社が売り上げの減少から企業買収され、2013年には15年務めた会社を退職しました。その後、デザイナーを経てライター職へと転職しましたが環境の変化のストレスは強く、受診時の血圧値が90~140ほどと高くなりました。糖尿病合併症のリスクも下げる意味で、2015年の3月から高血圧の薬2種類の服用を開始しました。息切れやのぼせなど、体調の変化を感じるようになっていましたが、これは高血圧症が原因とのことでした。
編集部
治療で糖尿病の病状に変化はありましたか?
石井さん
治療開始後、検査数値は、血糖値120~130、HA1c6~6.5ほどで推移していましたが、時に数値が上昇することもありました。そのため、2015年の4月から内服薬が増え、朝食後のインスリンの分泌を促す薬に加え、毎食後インスリンに頼らず血糖値を下げる薬、食後血糖値の改善薬を服用するようになりました。
編集部
これまでに不安に感じたことを教えてください。
石井さん
不安だったのは、合併症の発症やインスリン注射・入院治療になることです。また、薬が増える際には副作用の有無も気になりましたね。合併症に関しては、内科主治医から眼科の主治医へ意見書を書いてもらい、眼科受診時には、毎回眼底検査を行い合併症の予防を心がけるようにしました。
編集部
どんな副作用が考えられたのでしょうか?
石井さん
私が服用する薬では、下痢などの胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、呼吸器症状、蕁麻疹、低血糖といった副作用が起こる可能性がありました。そのため、薬が増えた当初は、低血糖対策としてラムネを鞄に持ち歩き、内科受診時には体調のちょっとした変化を相談するようにしました。幸い、薬が増えても副作用は出ず治療は問題なく進めることができました。
治療は自分が楽しめる方法で継続を
編集部
現在の治療やお体の様子を教えてください。
石井さん
仕事が安定し、時間を確保できるようになったこともあり、毎日30~40分の運動を続けています。その甲斐あってか、2021年11月の検査では、血糖値が99、HA1cが6.5と数値が改善しました。その後も、2022年1月は血糖値が129、HA1cが6.6、2022年4月は血糖値が121、HA1cが7.1と安定しています。2022年8月の検査では、血糖値が167、HA1cが7.3と数値の上昇は見られましたが、数値が安定していることもあり、主治医と相談の上、試験的に糖尿病の薬を2種類に減らすまでに改善しています。
編集部
順調に改善できたポイントなどはありますか?
石井さん
月並みですが、食事・運動・薬の継続です。体調が全般的に改善したおかげで、高血圧症の薬も1錠に減りました。現在服用している糖尿病薬は、糖尿病治療を始めた時に服用していた、インスリンの分泌を促す薬です。
編集部
食事はどのように気をつけていますか?
石井さん
食事に関しては高血圧症対策も兼ねて、野菜の摂取、みそや醤油を減らす減塩を心がけています。週に3~4日はヨーグルトや納豆などの発酵食品を食べるようにしています。平日に節制する代わりに、週末はご褒美として晩酌をするなどメリハリをつけると、気持ちよく続けることができますよ。
編集部
運動はどうですか?
石井さん
運動は日本糖尿病学会の治療ガイドラインをHPで見て、主治医とも相談しながら行っています。毎日、散歩も兼ねたウォーキングを30分ほど行っていますが、雨の日はストレッチや軽いスクワッドだけにするなど、無理をしない運動を心がけています。2021年からはスマートウォッチとスマホアプリの活用も始めたので、楽しく習慣化できています。
編集部
糖尿病になる前のことで、後悔していることはありますか?
石井さん
当時の自分に一つだけ注文をつけるとすれば「体重の管理に気を使いなさい」という点です。病気の兆候がなかった時でも、体重が増加傾向にありましたからね。タイムマシンで戻れたら「将来後悔するよ」と言ってあげたいです。
編集部
糖尿病を意識していない人にメッセージをお願いします。
石井さん
私の場合、健康診断をきっかけに糖尿病を早期発見して、治療を開始することができました。定期的な健康診断を受ける機会がない方は、市町村の健診制度などを利用して、お体の状態を確認することをおすすめしたいですね。糖尿病の場合、血糖値、ヘモグロビンA1cの値が基準値の上限ギリギリの場合、予防も兼ねて内科に相談するといいのではないでしょうか。
編集部まとめ
厚生労働省の発表によると、糖尿病患者は予備軍も含めると2000万人以上に及ぶと推計されています。病気にかかる年齢層は幅広く、30代から少しずつ増えていきます。ただ、糖尿病は自覚症状がないまま進行することが多い病気です。悪化すると合併症や生活の質の低下などが起こる可能性もあります。定期的な健康診断に合わせて、家族歴がある、健康診断の数値が高い、など気になることがあれば、内科に相談し、病気の早期発見をめざしましょう。