もしかしたら「うつ病」かもしれない…病院に行くタイミングや症状の目安を医師が解説

「なんだか気分が晴れない」「眠れない」のような症状が続いていることはありませんか? その症状、じつは「うつ病」が原因かもしれません。うつ病は、単なる気分の落ち込みではなく、脳の働きが変化して起こる病気です。放置すると日常生活や仕事に支障をきたし、心身に深刻な影響を与えることもあるようです。うつ病とは具体的にどのような病気なのか、症状や受診のタイミング、周囲の関わり方などについて、精神科専門医の種市先生に解説していただきました。

監修医師:
種市 摂子(Dr.Ridente株式会社 代表取締役)
「うつ病」とはどんな病気? 「気分が落ち込む」こととなにが違うのか

編集部
はじめに、うつ病とはどのような病気か教えてください。
種市先生
うつ病は、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の不足により気分や意欲が低下し、喜びを感じにくく物事を悲観的に捉えやすくなる病気です。脳の前頭前野という部分の機能低下により判断力や集中力が落ち、扁桃体という部分の過剰活動で不安やストレスを強く感じやすくなります。さらに、自律神経のバランスの乱れも科学的に確認されています。うつ病患者では交感神経が優位となり、心拍変動に変化が見られ、疲労感などの強いストレス反応が生じやすくなります。
編集部
「気分が落ち込む」ことと「うつ病」は異なるのでしょうか?
種市先生
「気分が落ち込む」というのは、一時的な感情の変化ですが、「うつ病」は脳の機能が長期間にわたって低下する病気です。ちょっとした気分の落ち込みなら、数日もあれば回復しますし、気分転換をすることで、憂うつな気分が吹き飛ぶこともあります。しかし、うつ病は症状が長く続き、気分転換をしても「気が晴れる」ということはありません。
編集部
具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?
種市先生
最も多くみられるのは抑うつ気分であり、90%以上の方に見られます。ほかにも、何をしても喜びや楽しさを感じにくい症状は80~90%、疲れやすさや倦怠感は70~90%の方に現れます。さらに、集中力が低下し、考えがまとまりにくくなる症状は60~80%、罪悪感や無価値感を強く抱く症状は50~80%の方に見られます。重症化すると、「死にたい」と考える希死念慮が50~70%の方に現れることもあります。
編集部
身体的な症状についてはいかがでしょうか?
種市先生
睡眠のトラブルは特に顕著で、90%以上の方が不眠を経験し、食欲の変化は50~80%の方に見られます。さらに、日本では身体の不調が前面に出やすく、頭痛や胃痛、肩こりなどの症状が50~70%の方に現れます。
うつ病の初期症状と放置するリスク

編集部
うつ病になると、日常生活や仕事にも影響は現れますか?
種市先生
普段の生活では、起きることや食事を摂ることや家事をすることが難しくなり、人付き合いもおっくうになります。仕事では、集中力の低下が60~80%、やる気の低下が80~90%の方に見られます。また、遅刻や欠勤が増え、業務の効率が落ちることも少なくありません。特に最近では、在宅勤務による孤独感が影響し、さらに気分が落ち込んでしまうケースも増えています。
編集部
うつ病の初期には、どのような症状が現れますか?
種市先生
うつ病の初期には、脳の働きが低下し、考えや行動がスローになります。まず、やる気が出なくなり、何をしても楽しく感じられなくなります。集中力が落ち、仕事や勉強でミスが増えることもあります。ちょっとしたことでイライラしたり、不安になったりすることも特徴ですね。また、夜なかなか眠れなかったり、朝早く目が覚めたりすることが増えます。こうした変化は、脳の「気分を安定させる機能」がうまく働かなくなることが原因です。
編集部
うつ病を放置するリスクについても教えてください。
種市先生
うつ病を放置すると、心や体にさまざまな悪影響が出ます。まず、症状が悪化し、気分の落ち込みや不安が強まり、何もできなくなることがあります。仕事を続けられなくなったり、人間関係が悪化したりすることもありますね。また、放置すると回復に時間がかかり、自殺のリスクが高まることもあります。実際に「死にたい」と考え、思い詰めてしまう方もいますので、早めのケアが大切です。
病院受診のタイミングと周囲の関わり方

編集部
「この状態が続いたら病院に行くべき」という目安はありますか?
種市先生
- 気分が落ち込んで、何をしても楽しくない
- 仕事や家事が手につかない、集中できない
- 理由もなく涙が出たり、自分を責めたりする
- 「消えたい」「死にたい」と思うことがある
- 夜眠れない途中で何度も目が覚める、朝早く目が覚める
特に、不眠が続くとうつ病が悪化しやすくなるため、「ただの疲れ」と思わず、早めに医療機関へ相談することが重要です。
編集部
どのような病院、何科の病院を受診するべきなのでしょうか?
種市先生
不眠が主な症状なら、内科のほかに、睡眠外来や精神科、心療内科が適しています。 「どこに行けばいいか分からない」時は、まずは、かかりつけの内科で相談するのは良い方法です。 普段から診てもらっている医師なら、信頼関係があり、服薬で睡眠が改善するだけでも気分が楽になることは多いものです。注意点として、うつ病と診断される患者さんのうち、25歳以前に発症した場合、躁うつ病である可能性も高くなりますので、特に10代後半から20代前半の発症は、精神科受診をおすすめします。
編集部
家族や友人が「うつ病かもしれない」と感じたとき、どのような対応が必要ですか?
種市先生
焦らず温かく寄り添うことが大切です。「最近調子どう?」と優しく声をかけて、相手が話しやすい雰囲気を作りましょう。無理に励ましたり、問題を解決しようとしたりせず、相手の気持ちを否定せずに受け止めることが重要です。 不眠が続いている場合、受診を勧めるのも良い方法です。「寝られないことが続くなら、専門の人に相談してみない?」と、内科や心療内科、精神科などを、同伴で受診すると良いでしょう。長引かないよう早めの受診が大切です。
編集部まとめ
うつ病は適切な治療やサポートによって回復できる病気です。気分が落ち込んでいる状態が続く場合は、一人で抱え込まずに早めに専門医へ相談することが勧められます。また、身近な人が悩んでいる場合は、焦らず寄り添い、受診を促すことが大切です。日常生活の小さな変化を見逃さず、心の健康を大切にするためには、うつ病とは何かを知ることが大切です。本稿が読者の皆様にとって、うつ病を知るきっかけとなりましたら幸いです。