「うつ病の人がとる行動」の特徴をご存知ですか? 家族・周囲が気を付けるべきポイントを解説
「気分が落ち込む」「やる気がなくなる」といったような症状が起こる「うつ病」。うつ病は患者自身が気づくことは少なく、受診や治療が遅れる原因になることも。つまり、うつ病の早期発見には周囲の人が気づくことも重要なのだそうです。そこで今回は、うつ病患者によく見られる行動や特徴、顔つきについて、公認心理師の鍋田さんに解説していただきました。
監修公認心理師:
鍋田 悠郎(公認心理師)
目次 -INDEX-
うつ病の人がとる10の行動とは 日常生活・仕事における特徴を解説
編集部
うつ病の人が取る日常生活における行動、特徴について教えてください。
鍋田さん
- 身だしなみが整わなくなる
うつ病を抱える方は気力や考える力の低下などにより、身だしなみを整えることへの関心が薄れ、日常生活の自己管理が難しくなる。お風呂に入れなくなることもある - 口数が減る
うつ病は活動エネルギーが低下している状態のため、コミュニケーションを取ることが難しくなり、口数が減る - 今まで楽しめていたことが楽しめなくなる
趣味を楽しめなくなる、テレビを見なくなる、新聞や本を読まなくなるなど、これまで好きだった活動をおこなわなくなる - 出かけなくなる・人との交流を避ける
外出することや他者と交流することが億劫になり、家にこもりがちになる。社会的な繋がりが減少し孤立感が増す、楽しみが減ることなどで症状が悪化することもある - 眠れなくなる・規則正しい生活ができなくなる
寝付きが悪くなる入眠障害、夜中に起きる中途覚醒、早い時間に目が覚めてしまう早朝覚醒などの睡眠障害が出現する。その結果昼夜逆転してしまうこともある。うつ病になると不眠症状が出る可能性があり、不眠症状がうつ病を引き起こすきっかけとなることもある - 食欲がなくなる・過食になる
食欲が全くなくなることもあれば、逆に過食となってしまうこともある。これにより、体重の大幅な増減が見られる。食欲の減少と繋がる特徴として、食べ物が美味しく感じなくなることもある
編集部
なるほど。うつ病の人がとる仕事での行動、特徴についても教えて下さい。
鍋田さん
- 仕事のミスが増える
集中力が低下し、物事に対する注意が散漫になるため、仕事中にミスが増える。普段は簡単にできるタスクでも、うつ病の影響で思考が鈍くなり、ミスが目立つようになる - 遅刻や欠勤が増える
活動エネルギーの低下、先程お話した睡眠リズムが崩れることなどの影響により、朝起きること自体が困難になることがある - 仕事を手順良くできなくなる、能率が落ちる
うつ病に陥ると、物事を計画的に進めることが難しくなる。仕事の手順を覚えることや、それに従って行動することが困難になるため、全体的な効率が低下する - 仕事に行きたくなくなる
職場環境への不安や自分の能力への自信の喪失など、うつ病に伴う様々な心理的要因が仕事に対する意欲を低下させる。その結果、仕事へ行くこと自体を億劫に感じさせ、朝の出勤時に強い抵抗感を覚えるようになる
編集部
その他、うつ病患者の特徴はありますか?
鍋田さん
うつ病は気分や意欲の症状に思われがちですが、身体症状もあります。先程の行動の部分でお話したことと重なる部分もありますが、息苦しさや動悸、全身の倦怠感、性欲の減退、生理不順、関節痛、胃のむかつきや吐き気、肩こり、頭痛、めまいなどが出ることもあります。
うつ病になると顔つきも変わる? 表情の特徴を解説
編集部
先ほどはうつ病の人の行動の特徴を教えてもらいました。うつ病になると顔つきが変わると聞いたことがありますが、本当でしょうか?
鍋田さん
はい。うつ病になり、表情や顔つきが変わる方もいます。以前に比べて暗い表情、悲しい表情、無表情、作り笑いをして無理に笑う、になることがあります。これらの表情が増えてきた場合はうつ病の可能性もありますし、そうでなくてもストレスが高まっている可能性がありますね。
編集部
なるほど。行動、顔つきと聞いてきましたが、考え方や気持ちの部分の特徴についても教えて下さい。
鍋田さん
うつ病になりやすい人は、「完璧主義」「真面目」「自責が強い」「頼み事を断れない」「~すべきと考える傾向が強い」などといった特徴があります。また、うつ病の思考の3パターンとして、「自分」「周囲」「将来」に対してマイナス思考になりがちということがあります。
編集部
うつ病は心の病気と思っていましたが、体の症状含めていろいろな部分に影響があるのですね。
鍋田さん
そうですね。うつ病=気分の落ち込みと考えられがちですが、実際には身体症状、行動、思考など様々な部分に影響が出る病気です。単なる落ち込みではないので、きちんと治療を受けることが大切になります。
「うつ病かも……」と思ったらどうすればいい? 家族や周囲は何をすればいいのか
編集部
もし「うつ病かも……」と思ったらどうすればよいですか?
鍋田さん
うつ病は「心の病気」であると同時に「脳の病気」です。個人の努力だけで何とかなるものではなく、治療が遅れると影響も長引く可能性が高くなるので、うつ病か心配になった場合は早めに病院を受診した方がいいですね。会社や学校に相談室がある場合は、まずそちらに相談するのもいいでしょう。
編集部
身近にうつ病の方がいた場合、家族や周囲の方は何をしてあげたらいいですか? うつ病の方にしてはいけないことも併せて教えてください。
鍋田さん
まず、うつ病の方は意欲や思考力が低下しているため頑張れない状態、既に頑張っている状態と理解してください。そのため、相手がしんどい気持ちやつらい気持ちを出した時は否定せずに相手の話を共感して聞いてあげてください。ただ、信頼関係ができている場合、治る段階にあるのに症状が慢性化している人に対しては、一緒に頑張ろうというニュアンスの言葉や少し背中を押してあげる言葉が有効に働く場合もあります。しかし、基本的には頑張ってという言葉は安易に使わない方がいいと思います。
編集部
うつ病の治療について簡単に教えてください。
鍋田さん
「休養」「薬物療法」「精神療法」「環境調整」が基本となります。うつ病は心理的な要因、生物学的な要因、社会的な要因など様々なことが重なり発症すると言われているため、治療においても3方面から考えていく必要があります。また、認知行動療法やマインドフルネス、rTMSなども効果があると言われています。診断、治療は医師を中心に進めていきますので、詳細は病院を受診して医師に確認してもらえたらと思います。どんな病気でもそうですが、治療が遅れると症状が長引く可能性が高くなるので、早期発見・早期治療がうつ病においても大切になります。
編集部
認知行動療法について簡単に教えてください。
鍋田さん
認知行動療法はうつ病や不安症、強迫症などの治療効果、再発予防効果があると言われています。認知行動療法では、あるできごとがあった際の、「考え(認知)」「気持ち(感情)」「身体反応」「行動」という4つの側面に着目します。これらは互いに影響し合っています。この中で身体反応と気持ちは自分でコントロールすることは難しいですが、考えと行動は自分でコントロールしやすい部分になっています。そのため、考え(認知)と行動にアプローチし、考えや行動の幅を広げ、結果的に気持ちや身体を楽にしていこうというのが認知行動療法になります。自分の考えや行動の癖を知り、考えや行動の幅を広げていくイメージですね。
編集部
生活習慣など日常生活に取り入れられそうなことでうつ病の予防、治療の助けになることについて教えてください。
鍋田さん
一般的に健康にいいとされている生活習慣はうつ病に対してもいいと思います。例えば、運動、栄養バランスの取れた食事、睡眠時間の確保などですね。また、日光を浴びることはうつ病に対して効果を発揮します。朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びることはお勧めです。一点気を付けて欲しいのは、うつ病の方は「~すべき」「~しなければならない」と考えがちです。義務感とならないように取り組んでもらえたらと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
鍋田さん
うつ病は心の風邪と言われることがありますが、風邪と比べると症状は比較にならないほど辛く、影響も極めて大きいです。また、うつ病は生涯で15人に1人が経験するというデータもあり、誰でも発症する可能性があります。しかし、早期発見・早期治療をすると短期間で治る可能性も上がります。また、日々の生活習慣やストレス対処を見直すことで発症リスクを下げることもできます。自分自身のうつ病を予防するためにも、うつ病かもしれない人と接した時に適切な対応をするためにも、正しい知識を身に付けておけるといいですね。
編集部まとめ
うつ病の人がとる行動や特徴や顔つき、うつ病かもと思った時の対応方法などについて教えていただきました。うつ病は誰でもなる可能性がある病気で心の風邪と言われていますが、実際は風邪と比較にならないほど影響が強いとのことでした。ただ、早期発見・早期治療をすることで治療効果も高くなること、うつ病の予防にいい行動についても教えてもらえました。うつ病についての正しい知識を身につけていき、心配な場合は病院を受診、周りに心うつ病かなと思う方がいたら受診を促してあげられるといいかもしれませんね。本稿が、読書の皆様にとって「うつ病」について知るきっかけとなりましたら幸いです。