うつ病治療の「rTMS療法」には、抗うつ薬のような副作用がないって本当?
頭に磁気を当てて治療する「rTMS療法」。たしかに、市販の肩こりグッズなどで「磁気を当てたから気分が悪くなった」というような話は聞きません。とはいえ、強い効果が考えられる医療機器においても“副作用がない”と考えていいのでしょうか。もし、抗うつ薬で出るような副作用がないとしたら治療選択肢に入れておきたいものです。「東京横浜TMSクリニック」の大澤先生が解説します。
※本記事には、一部自由診療の内容が含まれています。
監修医師:
大澤 亮太(医療法人社団こころみ 理事長/東京横浜TMSクリニック 医師)
山梨大学医学部卒業。国際医療福祉大学にて研修後、精神科医療や産業医としての臨床を積む。2017年、神奈川県川崎市に「元住吉こころみクリニック」開院。法人化に伴い「医療法人社団こころみ」理事長就任。現在は「東京横浜TMSクリニック」のほか、川崎市を中心に3院を展開。精神保健指定医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医。日本精神神経学会会員。
重篤な副作用はほとんど起こらない
編集部
先生の医院では、特殊な磁気治療を扱っているのですよね?
大澤先生
はい。特殊な機器でコイルに電気を流して磁場を発生させ、脳内にピンポイントで刺激を与えて神経の働きを活性化、あるいは抑制させるrTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)になります。
編集部
磁気を頭に当てても大丈夫なのでしょうか?
大澤先生
国内での認可はもちろんのこと、保険適用も認められている治療方法です。ですが、一部で副作用の例も報告されています。わかりやすい例えとしては、整体院などでみられる電気刺激と同様の「ピリピリした頭皮痛」でしょうか。あとは強いて挙げるなら、機械音による一時的な聞こえにくさなども起こり得ます。
編集部
いずれも、重篤な副作用ではなさそうですね?
大澤先生
ところが、「けいれん発作」を伴うケースがごく稀にあるようです。もっとも、もともと脳にダメージがある場合に副作用が出ることが多いので、身体的に健康な患者さんに対しては、まず安全と考えていいと思います。もちろん、万が一の事態に対する備えもしています。
編集部
担当医師による「腕の差」が生じそうですが?
大澤先生
たしかに、医師によって腕の差はあります。一番大切なことは、心の治療を十分に経験しているかどうかです。rTMS治療も治療選択肢の1つですから、どのように活用するかが重要です。また、最新の情報は海外にあるので、論文を読み解いて知識をアップデートしているかも、腕の差になるかもしれません。
薬物療法とrTMS療法の比較
編集部
薬による治療と比べて、副作用はどちらが強いのでしょうか?
大澤先生
副作用は、薬による治療の方が「多い」といえます。rTMS療法のメリットの1つは、副作用の少なさです。薬のように全身に作用せず、ピンポイントで脳に働きかけるので副作用が少ないのです。ただし、薬も副作用があってもすぐに慣れることもありますし、一概に強さで比較はできないかと思います。
編集部
薬物療法との費用比較もお願いします。
大澤先生
一般に薬物療法では、「薬を飲み続けながら症状を抑えていく」ので、治療期間は長くなることが多いですね。保険適用で1~3割の自己負担にはなりますが、総額としては大きな金額になってしまいます。また、rTMSでは短期間で集中治療をおこなっていきますので、治療期間が短くなります。自費診療で5000円からになりますが、1つの目安である30回の治療をおこなって15万円程度です。なお、保険診療も認められていますが、実質的には1カ月半程度の入院治療となり、高額療養費を利用する形になります。
編集部
保険診療前提だと、受け方が決まっているのですね?
大澤先生
保険診療では、「1日40分、週5日、4週から6週間にわたるrTMS療法の実施」となっています。ただし、適応基準が厳しいことや入院調整が難しいことから、すぐに治療が受けられないデメリットがあります。また、rTMSにも新しい刺激法が開発されていますが、保険診療では実施できるのは従来のrTMSのみです。他方の自費診療では1回5000円程度になりますが、1回3分ほどで同等の効果が期待できるシーターバースト刺激法や、1日2回以上最短2週間で効果が期待できる短期集中治療をおこなうことができます。
認知行動療法とrTMS療法の比較
編集部
何回も受けるとなると、通院できないと厳しいですよね?
大澤先生
そうですね。rTMS療法は外来が大前提で、どちらかというと軽症か中等症の患者さん向きの治療です。入院を要するような患者さんに施術することは、ほとんどないでしょう。「希死念慮が強い」、「妄想が認められるような重症なうつ病を患っている」、「外出もできない状態」などに当てはまる患者さんは入院治療の方が適切です。
編集部
認知行動療法などの心理治療とは、どのように使い分けるのでしょうか?
大澤先生
認知行動療法などの心理治療は、再発予防の観点でとても有用です。rTMS治療のメリットとして、「副作用の少なさ」と「治療期間の短さ」があるのですが、もう1つのメリットとして「再発率の低さ」があげられます。調子が悪いときは柔軟な思考にはなれませんので、認知行動療法は少し落ち着いてから始めていくのがいいです。rTMSと併用していけば、再発予防の観点では理想的といえます。
編集部
認知行動療法との価格差についてもお願いします。
大澤先生
費用対効果というより、「どちらの療法が向いているのか」で決まっていきます。認知行動療法も自費診療で、価格は5000円~2万円とカウンセラーによっても幅があります。うつ状態がひどいときは、まず状態の回復を優先させる必要があるので、薬やrTMSが治療選択肢ととして適切です。回復するにつれて、思考パターンの偏りなどがストレスにつながる場合には、認知行動療法をおこなっていくのもいいかと思います。ですから、両者を一律に比較することはできません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
大澤先生
本題の副作用についてまとめると、「薬物治療と比べて、rTMS療法の方が少ない」と言っていいと思います。そのほかにも「治療期間の短さ」や「再発率の低さ」といった特徴もあるので、うつ病の有効な治療選択肢になります。また、薬とは異なるメカニズムで効果が発揮されるので、薬で治らなかった患者さんにも効果が期待できる治療法です。rTMS療法はまだまだ認知されていませんが、治療選択肢として安心して皆さんに選んでいただけるよう、私たちも励んで参ります。
編集部まとめ
rTMS療法にも副作用はあるものの、非常に少ない頻度・程度ということでした。それだけに、投薬療法と比較する際は、副作用の有無よりも「治療期間の短さ」が際立ってくるようです。ただし、rTMS療法に欠かせないのは通院です。こまめに通院することは大変ではありますが、結果的に治療期間を短くできるならば、病気による「機会損失」を少なくできる治療法といえるかもしれません。
医院情報
所在地 | 〒211-0063 神奈川県川崎市中原区小杉町3-20-1光ビル20 7F |
アクセス | JR「武蔵小杉駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 精神科、心療内科 |