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「高齢者うつになりやすい人の特徴」とは 家族として注意したいポイントを医師に聞く

 公開日:2025/04/17
「高齢者うつになりやすい人の特徴」とは 家族として注意したいポイントを医師に聞く

高齢化が進む日本では、高齢者のうつ病が見逃せない問題のひとつになっています。うつ病は若い世代にも見られますが、高齢者特有の原因や症状の重症化傾向があるため注意が必要です。老年期のうつは認知症の初期症状と重なるケースもあり、見極めていくことが重要です。今回は慶應義塾大学予防医療センター特任教授の三村將先生に、高齢者のうつ病の特徴や早期発見のポイント、家族が取るべき行動について詳しくお話を伺いました。

三村 將

監修医師
三村 將(慶應義塾大学 名誉教授・予防医療センター特任教授)

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1984年慶應義塾大学卒業。同年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。1992~1994年までボストン大学医学部行動神経学部門・失語症研究センター・記憶障害研究センター研究員として研究に従事。帰国後は東京歯科大学市川総合病院精神神経科講師として臨床および研究をおこなう。2000年より昭和大学医学部精神医学教室に勤務。講師、准教授などを経て、2011年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授。2023年より慶應義塾大学名誉教授および慶應義塾大学予防医療センター特任教授に就任。現在、日本精神神経学会理事長、日本高次脳機能学会理事長、公益財団法人医療科学研究所理事長を兼任。

高齢者のうつ病とは? 特徴と注意点

高齢者のうつ病とは? 特徴と注意点

編集部編集部

高齢者のうつ病は増えているのですか?

三村 將先生三村先生

高齢者のうつ病は増加傾向にあると言えます。日本全体でみると、うつ病で医療機関を受診している患者数は年間約100〜150万人とされ、全世代的に少しずつ増加しています。高齢者に限って言えば、男性は40代の勤労世代から増え始め、女性では60代から70代にピークを迎える傾向があります。また、高齢化に伴う身体能力の低下や健康の喪失、家族や社会的役割の喪失体験などが、高齢者特有のうつ病の誘因になりやすいため、今後も患者数が増える可能性があります。

編集部編集部

高齢者のうつ病と若年期のうつ病に違いはあるのでしょうか?

三村 將先生三村先生

高齢者のうつ病と若年期のうつ病で、診断基準そのものに違いはありません。うつ病の診断は年齢に関係なく共通で、抑うつ気分や意欲の低下など一定の基準を満たした場合に診断されます。ただ、高齢者の場合は症状がより重症化しやすく、治療薬が効きにくい場合があります。

編集部編集部

具体的にどのような症状が現れますか?

三村 將先生三村先生

抑うつ気分や意欲低下、喜びを感じられなくなることが主な症状です。さらに、眠れない、食欲が落ちる、イライラするなど、身体的な症状も目立ちます。これらが2週間以上続くと、うつ病を疑います。

編集部編集部

性格的な傾向があれば教えてください。

三村 將先生三村先生

高齢者うつになりやすい性格としては、「真面目で完璧主義な人」や「自罰的で、自分を責めがちな人」が挙げられます。これらの性格傾向があると、何か問題が起きたり、健康や社会的役割を失ったりするなどの「喪失体験」に直面したときに、気持ちが落ち込みやすくなり、うつ病を発症しやすくなります。ただし、全員がこれらの性格に当てはまるわけではなく、むしろ高齢者の場合は認知症の初期症状としてうつ状態が現れることもあるため、性格だけでなく総合的な視点で判断する必要があります。

家族が気づくためのポイント

家族が気づくためのポイント

編集部編集部

家族はどのような変化に気をつければいいのでしょうか?

三村 將先生三村先生

家族が注意すべき変化としては、「眠れない」「食欲がない」「意欲ややる気が低下している」といった症状が挙げられます。本人が直接悩みを口にしない場合も多いため、家族が日常生活のなかでこうした変化を早期に察知することが重要です。また、高齢者の場合、気持ちの落ち込みが「年齢のせい」だと見過ごされがちですが、症状が2週間以上続く場合にはうつ病の可能性が高くなります。日常の些細な変化に敏感になり、本人の様子を普段からよく観察することが大切です。

編集部編集部

高齢者のうつは早期発見が重要なのですか?

三村 將先生三村先生

高齢者のうつは放置すると重症化しやすく、薬が効きにくかったり認知症が進行したりすることもあるため、早期に対応することは重要だと言えます。

編集部編集部

うつと双極性障害の違いについても教えてください。

三村 將先生三村先生

双極性障害とうつ病は、似ているようで異なる病気です。うつ病は主に抑うつ気分や意欲低下などの「気分が落ち込む症状」のみが特徴ですが、双極性障害は抑うつ状態に加えて、気分が高揚する「躁状態」も現れ、気分が大きく上下することが特徴です。そのため、治療法も異なり、うつ病では抗うつ薬を使いますが、双極性障害では主に気分安定薬を使います。特に高齢者では両者を見分けるのが難しい場合もあるため、慎重な診断が必要です。

家族ができるサポートとは

家族ができるサポートとは

編集部編集部

本人との接し方のコツについて教えてください。

三村 將先生三村先生

無理に元気づけたり励ましたりするのではなく、本人の気持ちをありのままに受け止めることです。「頑張れ」といった励ましはかえってプレッシャーになるため避けるべきでしょう。否定や批判をせず、つらさに共感したり、ゆっくり休もうといった共感や安心感を与えたりする言葉が効果的です。また、焦らず穏やかな態度で接し、症状の回復を本人と一緒に見守る姿勢を示すことが大切です。

編集部編集部

「うつかもしれない」と思い病院に連れていきたくても、本人が行きたがらない場合はどうすればよいでしょうか?

三村 將先生三村先生

「食欲がない」「眠れない」「イライラして怒りっぽくなる」「不安が強い」など、自分自身で困っている症状がある場合は、病名にこだわらず一度受診してみることをおすすめします。症状ベースで対応を考えると、病院で話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になったり、睡眠薬や抗うつ薬で症状が改善したりするケースもあります。特に不眠症はうつ病を悪化させる要因でもあり、うつ病の症状としても非常に一般的です。こうした悪循環を防ぐためにも、困っている症状を改善するという視点で、気軽に医療機関に相談することが大切です。

編集部編集部

家族自身のケアも大切ですか?

三村 將先生三村先生

その通りです。家族が疲弊すると患者さんへのサポートも難しくなるため、家族が一人で負担を抱え込まず、相談窓口や専門家の支援を利用して、自分自身のケアをおこなうことが大切です。

編集部まとめ

高齢者のうつ病は、本人も家族も気づきにくく、放置してしまうことが多い病気です。今回の取材で感じたのは、家族がちょっとした変化に敏感になり、「おかしいな」と感じたら迷わず専門機関に相談することの大切さでした。高齢者だから仕方がないと片付けず、まずは医療機関を受診する必要性に気づくことができる目線を持ちたいと感じました。

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