社会生活技能訓練(SST)ってなんですか? 具体的に何をするの?
近年、企業のメンタルヘルス対策は大きな課題となっており、その一環として、社会的スキルの向上を目的とした「社会生活技能訓練(SST)」のニーズは高まっています。そこで今回、SSTとは何か、具体的にどのような方法で行うのか、どのように活用するのかについて、「作業療法士」の金城さんに解説していただきました。
監修:
金城 亜矢(作業療法士)
岡山県立大学大学院修士課程卒業。倉敷市の一般病院で15年間、作業療法士として勤務。うち5年間はリハビリテーション部の課長を務める。精神医学の非常勤講師として、未来のセラピスト教育に携わっている。沖縄へ移住後、作業療法士の経験を生かし、正確な情報をわかりやすく伝えるため、医療系Webライターとして活動中。
社会生活技能訓練(SST)とは
編集部
SSTってなんですか?
金城さん
「 Social Skills Training」の略で、社会生活技能の訓練によって社会生活における障害の改善を図るものであり、効果が実証された体系的な訓練の名称になります。SSTは、さまざまなストレス状況に対処し社会的役割を果たせるように、生活技能を高めて生活の質を改善し、社会生活における障害の再発防止を目的に開発された技法です。つまりSSTは、「対人関係を円滑に運ぶために役立つ技能を身につける訓練」と言えます。
編集部
SSTの適応疾患にはどのようなものがありますか?
金城さん
適応疾患としては、発達障害、うつ病、統合失調症などがあげられます。また、コミュニケーション障害、引きこもり、不登校などの問題をかかえる患者も対象です。
編集部
SSTはどのような場所で行われているのでしょうか?
金城さん
もともとは精神科領域を対象として始まりましたが、現在は教育、就労支援、矯正教育や更生保護領域、職場のメンタルヘルス対策などで行われています。
編集部
SSTはどのような職種の人によって行われるのでしょうか?
金城さん
医師、精神保健福祉士、臨床心理士、看護師、作業療法士、社会福祉士、また、法務教官など、様々な職種によって行われています。
社会生活技能訓練(SST)の方法
編集部
SSTの具体的な内容を教えてください。
金城さん
治療者と数名の患者グループで行われ、常に肯定的、かつ受容的な雰囲気を保ちつつ、提示された課題をロールプレイ(実演)していきます。課題が適切に実施された場合はポジティブフィードバックがされ、あくまでも患者の自主性を引き出すように働きかけます。適切な行動ができなかった場合は、モデリングといわれる見本を見せて行動修正を行います。
編集部
SSTにはどのような教材が使われているのでしょうか?
金城さん
SSTで使用される教材は、患者のタイプによって様々な種類があります。どの様な社会生活スキルに問題があるのかによって、使用する教材は異なるので、その選択が重要となります。例えば、発達障害をもつ子供を対象とした教材は、社会的スキルを学習するワークシート形式で実際の場面を想定した課題集などがあります。どの様な社会的スキルに問題があって日常生活において何に困っているのかを明確にし、それに対応した教材を選ぶ必要があるので、専門職のアドバイスを受けることをおすすめします。
編集部
SSTは、決められた手順や方法があるのでしょうか?
金城さん
SSTには、基本訓練モデルがあります。まず、はじめの挨拶、次に新しい参加者への紹介、SSTの目的と決まりの確認、宿題の報告、練習課題の明確化、ロールプレイ、まとめ、そして最後に終わりの挨拶と次回の予告をするといった手順で行われます。
社会生活技能訓練(SST)の具体例と活用方法
編集部
実際にSSTが行われた症例について教えて下さい。
金城さん
おもちゃを独り占めしたり、友達がおもちゃを借りようとしたりすると激しい口調で怒り叩くなど攻撃的な行動を示す園児を対象としてSSTが行われた症例があります。この症例のSSTでは、エントリースキル(適切に働きかけて仲間の輪に入ること)、適切なやりとりの仕方(仲間とのやり取りを維持するために必要なスキル)、断られた時の対処の仕方(自分の要求が通らない時に攻撃的行動に変わる以外のほかの行動を身につける)という三つを課題として行われました。
編集部
その症例は、SSTによってどのような効果が得られたのでしょうか?
金城さん
この症例はSSTによって三つの効果を得ました。一つ目の効果は、仲間への社会的働きかけと仲間からの社会的働きかけに対する応答が増加したことです。二つ目の効果は、ネガティブな行動が激減し、3ヶ月後にもその効果が維持できていたことです。三つ目の効果は、働きかける仲間の数が増えたことです。
編集部
一般的な社会活動で活用できるSSTはありますか?
金城さん
一般的な社会人として、どの程度社会的スキルを身につけているかを測定することができる「KiSS-18」という尺度があります。これは、初歩的なスキル、高度のスキル、感情処理のスキル、攻撃に代わるスキル、ストレスを処理するスキル、計画のスキルを具体的な質問項目から、5点尺度で得点化するものです。得点によって、統計的に「低社会スキル群」「高社会スキル群」に分類されます。企業の研修などでも使われている尺度であり、この質問項目を課題としたSSTを活用することは、社会的スキルを身につける上で大変有用だと考えられています。
編集部まとめ
SSTは、対人関係を円滑に運ぶために役立つ技能を身につける訓練であり、その具体的な内容や活用方法について知ることができました。また、リハビリにおいてだけでなく、全ての人に適応できるものだということもわかりました。対人関係を良好に保つためにSSTを学んでみるのもいいかもしれませんね。