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「認知症の予防に効果的な生活習慣」をご存じですか? 最新の治療法を併せて医師が解説

 公開日:2025/04/15
「認知症の予防に効果的な生活習慣」をご存じですか? 最新の治療法を併せて医師が解説

近年、高齢社会が進んでいる日本では、認知症の患者数が急増しています。現在、日本には400万人以上の認知症患者がいるとされ、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)は600万人に達すると言われています。認知症予防は国民的な課題であり、医療分野では新たな治療法や予防法が注目されています。今回は慶應義塾大学予防医療センター特任教授の三村將先生に、認知症の最新の予防策と治療法について詳しく伺いました。

三村 將

監修医師
三村 將(慶應義塾大学 名誉教授・予防医療センター特任教授)

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1984年慶應義塾大学卒業。同年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。1992~1994年までボストン大学医学部行動神経学部門・失語症研究センター・記憶障害研究センター研究員として研究に従事。帰国後は東京歯科大学市川総合病院精神神経科講師として臨床および研究をおこなう。2000年より昭和大学医学部精神医学教室に勤務。講師、准教授などを経て、2011年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授。2023年より慶應義塾大学名誉教授および慶應義塾大学予防医療センター特任教授に就任。現在、日本精神神経学会理事長、日本高次脳機能学会理事長、公益財団法人医療科学研究所理事長を兼任。

認知症と加齢による物忘れの見分け方

認知症と加齢による物忘れの見分け方

編集部編集部

認知症と加齢による物忘れはどう見分ければいいのでしょうか?

三村 將先生三村先生

認知症による物忘れは、単に忘れるだけではなく、「日常生活が障害されているかどうか」が判断の基準になります。例えば、認知症では一人で安全に日常生活を送れなくなります。物忘れがあっても日常生活に支障がなく仕事や家事をこなせるレベルであれば、それは加齢による自然な物忘れやMCIである可能性が高いでしょう。ただし、自分自身や家族が物忘れの進行に不安を感じる場合や、客観的に見ても明らかに記憶力が落ちている場合は、早めに専門機関を受診するのが望ましいですね。

編集部編集部

MCIは認知症とは違うのでしょうか?

三村 將先生三村先生

MCIは認知症の前段階にあたる状態です。認知症との違いは、日常生活への支障の程度にあります。認知症では、日常生活を一人で安全に送ることが困難になります。一方、MCIでは記憶力の低下など認知機能に問題が見られますが、日常生活は基本的に自立しておこなえるという特徴があります。

編集部編集部

MCIから認知症に進行することはあるのでしょうか?

三村 將先生三村先生

MCIの状態から認知症へ進行する人もいれば、そのまま維持したり改善したりする人もいます。疫学的には、MCIの方は認知症の方よりもはるかに多く存在し、日本では認知症の患者さんが約400万人に対してMCIは600万人程度いると推定されています。認知症予防では、このMCIの段階で早期に対策を講じることが重要視されています。

最新の治療法「抗アミロイドβ抗体薬」の可能性

最新の治療法「抗アミロイドβ抗体薬」の可能性

編集部編集部

最近話題の「抗アミロイドβ抗体薬」について教えてください。

三村 將先生三村先生

抗アミロイドβ抗体薬とは、認知症の中で最も多い「アルツハイマー病」に対する新しいタイプの治療薬です。アルツハイマー病では、脳内に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質が蓄積することで発症すると考えられています。この薬は脳に溜まったアミロイドβを減らし、病気の進行を遅らせることを目的としています。日本では現在、「レカネマブ(商品名:レケンビ)」と「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」の2種類が認可されており、すでに治療が始まっています。

編集部編集部

どのような方が対象となりますか?

三村 將先生三村先生

認知症の一歩手前である軽度認知障害(MCI)の方、または軽度のアルツハイマー型認知症の方です。これらの薬剤は、認知症の進行を止めるのではなく進行を緩やかにする役割を持っています。治療を開始するためには、脳内にアミロイドβが蓄積しているかをPET検査や髄液検査で確認する必要があります。最近では、血液検査でも高精度な予測が可能となってきており、将来的にはさらに多くの人が早期から予防や治療を始められるようになることが期待されています。

編集部編集部

治療を受けるための検査はどのようなものがありますか?

三村 將先生三村先生

アミロイドPETという画像検査か、腰椎穿刺による髄液検査が必要です。現在は保険適用され、薬剤の適応を確認するために使われています。

編集部編集部

アミロイドPETとは、人間ドックでおこなうPET検査とは別のものでしょうか?

三村 將先生三村先生

アミロイドPETとは、脳内に蓄積する異常なたんぱく質「アミロイドβ」を画像として視覚化できる検査方法のことです。一般的な人間ドックでおこなわれるPET検査(FDG-PET)は、がんなどの診断に使われるものであり、アミロイドPETとは異なります。アミロイドPETは通常、人間ドックには含まれておらず、自費診療での費用はおよそ30万円以上と高額ですが、現在日本では「抗アミロイドβ抗体薬」の治療対象となる患者さんを確認する目的であれば保険適用されます。

認知症予防のための具体的な生活習慣改善法

認知症予防のための具体的な生活習慣改善法

編集部編集部

認知症予防のために普段の生活でできることは何でしょうか?

三村 將先生三村先生

予防策としては、適切な睡眠時間の確保、バランスの良い食事、日常的な運動習慣、社会参加や趣味活動が推奨されています。これらを実践することで脳の健康を維持し、認知症のリスクを減らすことが可能です。

編集部編集部

サプリメントなどの利用についてはどうでしょう?

三村 將先生三村先生

サプリメントに関しては必ずしも科学的なエビデンスが十分でないものも多く、注意が必要です。むしろ日常生活の基本的な改善が確実な効果をもたらします。

編集部編集部

今後の認知症の治療や予防はどのように発展すると考えられますか?

三村 將先生三村先生

最近は血液検査によって高精度に脳内のアミロイド蓄積を予測できるようになってきています。将来的には、この血液検査がより一般的になり、早期診断が容易になると考えられています。また、認知症の前段階(MCI)やそのさらに前段階である「前臨床期アルツハイマー病」の人を対象にした抗アミロイドβ抗体薬の治験も進められており、これが成功すれば認知症の「治療」から「予防」へと医療の枠組みが大きく変わる可能性があります。

編集部まとめ

取材を通じて、認知症予防や治療の進展に驚きました。とくに「抗アミロイドβ抗体薬」の登場は画期的で、早期介入が重要であることを再認識しました。一方で、生活習慣の見直しというシンプルな方法が最も身近で有効だという点も印象的でした。正しい情報を得て、日々の生活から認知症の対策を進めていきたいと思います。

この記事の監修医師