「認知症患者との会話」で注意することをご存知ですか? 会話のコツを介護福祉士に聞く
家族や友人が認知症になったとき、会話に不安を感じる方は多いでしょう。認知症はコミュニケーションによって発症や進行を遅らせることができます。身近な人が認知症の場合も、会話の機会を設けることが大切です。今回は、認知症初期の高齢者と会話するときのコツについて、介護福祉士の西山さんに伺いました。
監修介護福祉士:
西山 繭子(介護福祉士)
認知症の初期症状 会話に表れる特徴は?
編集部
認知症初期の方は、会話にどのような特徴がありますか?
西山さん
認知症の初期には、「同じ話を繰り返す」「物の名前を忘れる」「つじつまが合わないことを言う」「話があちこちに飛ぶ」といった特徴があります。本人に症状の自覚がなく、身近な人が「おかしいな?」と気付くケースも多くあります。
編集部
高齢者との会話中、どんな変化があれば認知症を疑えばいいのでしょう?
西山さん
認知症で起こりうる変化は、「怒りっぽくなる」「ふさぎ込みがちになる」「身だしなみが不自然」「好きだったものへの興味がなくなる」「ATM操作など簡単な手続きや生活習慣を忘れる」などです。ただし、高齢者によっては耳が遠かったり、会話するのを億劫に感じていたりする場合もあります。物忘れの可能性もあるため、すべての言動が一概に認知症による症状とは言えません。
編集部
認知症なのか物忘れなのか、会話を通じて見わける方法はありますか?
西山さん
認知症と物忘れには症状の違いがあると言われています。認知症は「体験自体を覚えていない」「忘れている自覚がない」のが特徴です。物忘れは、体験したことの一部を忘れています。例えば、認知症の方は食事したこと自体を覚えていません。物忘れは、食事したことは覚えているのにメニューが思い出せない、などの症状です。なお、認知症か物忘れか、はっきりさせたいときは受診をおすすめします。
編集部
認知症の疑いがある場合、どうしたらいいのですか?
西山さん
「おかしいな?」と感じたら、早期にかかりつけ医や専門医に相談することが大切です。認知症は、治療や周囲の働きかけによって、症状の進行を遅らせる可能性があります。症状によっては要介護認定を受け、介護サービスの利用を検討しましょう。
認知症の症状がある高齢者との会話方法 気を付けたいポイントは?
編集部
認知症の症状がある高齢者との会話で気を付けることはなんですか?
西山さん
相手のペースに合わせた会話を心がけましょう。認知症の方でも感情は残っており、相手の言葉や態度から気持ちを察することができます。叱責や強い否定は、高齢者に怒りや孤独感を与え、混乱を招きます。
編集部
相手のペースに合わせた会話とは、どのような方法ですか?
西山さん
伝えたいことを短い文章で話すと、認知症の方でも理解しやすい傾向にあります。伝わりにくい話し方の例は「昨日はいい天気だったけど、今日は雨だから傘が必要だね」など、複雑な文章です。「今日は雨だね」「傘が必要だよ」など、短い言葉にすると会話がスムーズに進みます。認知症になると、相手の話すスピードが速く聞こえるため、高齢者の返答や表情などで理解度を確認しながら話すと、伝わりやすくなります。
編集部
認知症の症状がある高齢者と話す際の注意点を教えてください。
西山さん
自尊心を傷つける行動や態度は、症状を悪化させる事態になりかねません。例えば、無視、頭ごなしの否定、子ども扱いなどはNG行動です。認知症になっても感情があることを忘れず、相手を大切に思う気持ちのまま接することが重要です。
編集部
会話をスムーズに進める方法はありますか?
西山さん
静かな場所は会話に集中できるため、認知症の方でも考えをまとめやすい環境といえます。家族や介護者自身もストレスをためないよう心がけ、穏やかな気持ちで高齢者に接しましょう。穏やかで明るい雰囲気が、会話をスムーズに続けるコツです。
認知症に人との会話が大切な理由とは
編集部
認知症の方にとって、会話が大切な理由はなんですか?
西山さん
会話は、認知症の予防や症状の進行を遅らせると言われています。認知症の進行を遅らせるには、脳へ刺激を与えることが大切です。会話の「言葉を聞いて理解する」「自分から話そうとする」という過程は、脳をたくさん使います。また、会話はストレス解消や信頼関係を確認できる行為です。会話には、認知症高齢者が抱く「コミュニケーションがとりづらい」という孤独感をやわらげる効果が期待できます。
編集部
認知症の方でも楽しく会話できる内容はありますか?
西山さん
過去の出来事や思い出話は、認知症の方にとって話しやすい話題です。認知症の方は最近の記憶に障害が出ている一方で、昔の出来事はよく覚えています。認知症が進行しても、過去に飼っていた愛犬の名前を覚えており、犬と触れ合うことで記憶力に改善が見られた事例もあります。
編集部
ストレスなく会話を続けるために、どのような配慮が必要ですか?
西山さん
体を動かしながら会話すると脳が活性化し、高齢者にも自分にもよい影響があります。近所を散歩する、料理好きな人と一緒に調理するなど、無理のない範囲で体を動かし、楽しい雰囲気で会話しましょう。本人の気分転換や介護者の休息のため、社会資源の活用も視野に入れてください。
編集部
会話の機会を増やすために、どのような社会資源が利用できますか?
西山さん
介護認定を前提とするなら、デイサービスを活用しましょう。デイサービスは、日中に介護施設へ通い、健康チェックや食事、入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられます。介護保険外なら、認知症カフェがおすすめです。認知症カフェは、認知症の方が外出する機会や、介護者間の繋がりを作る取り組みです。自治体や民間団体の主催で月に数回開催されるケースが多いため、住まいの市区町村などに確認しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
西山さん
認知症になると、会話のすべてを理解できず、おかしな回答をする場合があります。会話は相手のペースに合わせ、短い文章にしましょう。認知症になっても感情があることを忘れないでください。ご家族や介護者自身もストレスをためず、あたたかい気持ちで高齢者と接すると、会話がうまくいきます。
編集部まとめ
認知症の初期段階は、周囲との会話がかみ合わないことに高齢者自身が混乱している可能性があります。楽しい会話ができると「自分は受け入れられている」という安心感が生まれ、認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。家族や介護者自身も無理をせず、必要に応じて相談機関を頼りましょう。まずお茶とお菓子を準備し、穏やかな雰囲気で会話を始めてみませんか。