昔話、写真、音楽…認知症のリハビリ「回想法」がもたらす5つの効果【専門家解説】
昔の思い出やなじみのあるアイテム、音楽を聴くなど認知症のリハビリを目的に実施する「回想法」。認知症の方に繰り返し実施することで周辺症状の出現頻度の減少、自尊心の向上が期待できます。さらに、回想法によって人生を肯定的に捉えることができるようになるとのことです。そこで今回は、回想法の5つの効果や実践する際のポイントを介護福祉士の山下さんに解説していただきました。
監修介護福祉士:
山下 有輝(介護福祉士)
目次 -INDEX-
回想法の5つの効果 認知症を改善・予防することはできる?
編集部
まず、回想法の目的は何ですか?
山下さん
認知症のリハビリでもある回想法の目的は、人生を肯定的にとらえて再評価をおこない、自尊心を向上させることです。人生を肯定的にとらえるためには、対象者の生きてきた過去や思い出を振り返ることが大切です。また、自尊心が向上すると、意欲向上や表情が明るくなる、言葉を発する機会も多くなります。認知症のリハビリでは、自己認識の改善や他者との社会性の維持・回復が目的となります。
編集部
回想法にはどのような効果がありますか?
山下さん
回想法には、自尊心の向上、社会性の維持・回復、脳の活性化、自立度向上、周辺症状の軽減効果が期待できます。例えば、対象者が以前できたことや思い出に残っていることを思い出して、介護者と喜びを分かち合うことなどです。もし、今はできないことがあっても、以前を思い出し「昔はできていたから、また始めてみようかな」と前向きな気持ちへ導きます。回想法は1回で効果を期待できるものではなく、繰り返し実践することで効果が期待できる方法です。
編集部
回想法は認知症を改善・予防することはできるのでしょうか?
山下さん
認知症による心理的な周辺症状として、下記の4つがあります。
・不安
・抑うつ
・無気力
・幻覚・妄想
行動的な周辺症状には下記の5つがあります。
・徘徊
・焦燥性興奮
・易刺激性
・攻撃性
・脱抑制
周辺症状は、認知症を発症すると必ず起こるわけではありません。しかし周辺症状が出現すると、社会性、意欲、自立度などを低下させる原因となります。回想法を繰り返して実践することで、不安や抑うつ状態から解放され、周囲の高齢者と積極的に会話できるようになる、表情が明るくなる、周辺症状の出現が減少する、穏やかに過ごせる時間が増加するという研究結果もあります。
回想法の正しい方法を介護福祉士に聞く 個人だけでなくグループで取り組むこともある?
編集部
回想法の正しい方法はなんですか?
山下さん
個人回想法は、その名の通り、介護者と対象者が1対1でおこなう方法です。個人回想法は、自宅で実践することが多い方法であり、対象者の生活史について時間をかけて思い出せるメリットがあります。
グループ回想法は、病院や施設で実施されることが多く、介護者が2人、対象者が4~6人でおこなう方法です。複数の対象者と話せるため、同じ経験をした他者と想いを共有・共感できるメリットがあります。デメリットは、対象者が大勢の方といると精神的に落ち着かない場合は難しい、時間をかけて自分のことを思い出せないといった点です。
編集部
回想法を始めるにあたって必要な物はありますか?
山下さん
対象者の生活史に合わせた音楽や本、写真、おもちゃなどを準備して、五感に働きかけましょう。生活史とは、対象者の生きてきた過去のことです。そのため、対象者の生活史を本人や周囲の家族から調べておくことが大切です。音楽はリラックスできるもので構いません。リラックスできる環境を作ると、会話も弾みます。物以外にも、認知症の程度やコミュニケーションの方法を確認しておきましょう。
編集部
回想法を初めておこなうときのポイントはありますか?
山下さん
対象者の話を聞く際は、批判的な意見をせず共感・受容を心がけましょう。初めての回想法で対象者の回想を批判した場合、対象者は回想法をしたくないと感じてしまいます。回想に対して共感・受容すると、対象者は次回も回想法に参加したいと感じるでしょう。また、認知症の方は自分の言葉での表現に時間がかかることがあります。介護者は対象者の言葉を待ち、ゆっくり思い出せる時間を作りましょう。
回想法の注意点を解説 介護者は何に気をつけたらいい?
編集部
回想法に取り組む際、介護者側に注意点はあるのでしょうか?
山下さん
介護者は、対象者のプライバシー保護、対象者の意思を尊重する、代名詞は使用せず名詞を使う、話し始めるタイミング、ネガティブで終わらせないことなどに気をつける必要があります。対象者には触れられたくない話題がある可能性を考慮し、事前の調査で避ける話題を決めます。グループ回想法の場合は、複数の話題を避ける必要があるため、より注意しておこなう必要があります。また、対象者が回想する時間を介護者が遮ると、対象者は「私の話は聞いてくれない」と感じます。対象者の回想は最後まで聞くようにしましょう。
編集部
なぜ最後はネガティブに終わらせるといけないのでしょうか?
山下さん
回想法で思い出した最後の内容がネガティブな場合、回想法終了後も暗い気持ちになってしまうからです。暗い気持ちで終了すると、次回の回想法への意欲が低下しやすく、また目的である自尊心の向上が果たせません。さらに、暗い気持ちが続いて不安に変わると、認知症の周辺症状である徘徊や攻撃性、抑うつなどが出現するリスクになるからです。明るい話題で終わるよう心がけましょう。
編集部
自宅や病院・施設など場所ごとの注意点はあるのでしょうか?
山下さん
自宅で回想法をおこなう場合、集中できる環境設定が重要です。車の音やほかの人の話し声が聞こえると集中できなくなります。静かな環境は過去を思い出すことに集中でき、対象者が回想法を楽しく過ごせる時間を提供できます。病院では、プライバシー保護が重要です。施設や病院での回想法は多くの人が関わります。あなたが対象者から聞いた内容を他者に話すと、信頼を裏切る行為になってしまいます。ほかにも、対象者同士の関係性に注意しましょう。グループ回想法の場合は、人同士の合う・合わないがあるため、普段の生活を観察することが大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山下さん
回想法は、継続して実践することで認知症の改善・予防が期待できる非薬物療法です。対象者の過去を思い出し、共有することで自尊心の向上や意欲の向上に期待できます。自宅や施設で過ごす高齢者に自分らしく生活してもらうためのリハビリとして、回想法を導入してみてはいかがでしょうか?
編集部まとめ
今回は、認知症に対する回想法の効果やポイントを解説していただきました。認知症に対するリハビリである「回想法」には、対象者の自尊心の向上や社会性の維持・回復、脳の活性化、自立度の向上と5つの効果が期待できるとのことでした。回想法で大切なことは、対象者の生活史を知り、時間をかけて関わることです。回想法は1回で効果を期待できないため、繰り返し実施して認知症の改善・予防に努めていきましょう。