「認知症」になったとき周囲に知っておいてもらいたいサポートの基本とコミュニケーションの注意点
身近な人が認知症。そんな場面に直面したとき、私たちはどうすればいいのでしょうか? そこで、家族や友人が認知症になったらどのようにサポートしていけば良いのかや、コミュニケーション上の注意点について、神経内科専門医の岩田誠先生(メディカルクリニック柿の木坂院長)に解説してもらいました。
監修医師:
岩田 誠(メディカルクリニック柿の木坂)
認知症ってどんな病気?
編集部
「認知症」はどんな病気ですか?
岩田先生
認知症とは病気の名前ではなく、なんらかの原因によって脳の細胞が壊れてしまい、認知能力が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を意味する言葉です。
編集部
例えばどんな原因で起こるのですか?
岩田先生
認知症の原因は様々で、病名だけで何十種類もありますが、いくつかの代表的な原因疾患によって分類されています。
編集部
認知症の分類について詳しく教えてください。
岩田先生
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症の3つが比較的多いとされ、それに前頭側頭型認知症を加えた4つが代表的な認知症の原因疾患と言われています。また、レビー小体型認知症や脳血管性認知症、前頭側頭型認知症にも、アルツハイマー病変が加わっているものが多いと言われています。
認知症になるとどんな症状が出るの? 医師が解説
編集部
認知症になると、どのような症状が表れるのですか?
岩田先生
認知症の種類によって少しずつ異なりますが、いわゆる「物忘れ」などは、共通して見られる症状です。日常的に「物忘れ」という言葉を使う人もいますが、実際は、忘れているのではなく、新しい出来事の記憶が形成されない状態です。ほかには「日付や曜日、場所がわからなくなる」「言葉を発しにくくなる」といったことも多くみられます。ただし、前頭側頭型認知症の中には、物忘れや日付、場所の認知能力は保たれていながら、同じパターンの行動を取るといった症状を呈するケースもあります。
編集部
いろいろな症状があるのですね。
岩田先生
そうなのです。ほかにも「家事や趣味など、今まで普通にできていた作業が難しくなった」「怒りっぽくなった」、逆に「おとなしく、無気力になった」という場合など、一見認知症とはわかりにくい症状もあります。
編集部
確かに、症状によっては気づきにくいもしれません。
岩田先生
特に当事者本人は、初期の段階では気がつかないことがほとんどです。しかし、認知症は早期に発見し、早期に対応することで進行を遅らせたり、症状を出現させにくくしたりすることが期待できますので、周りの方が早い段階で「今までとちょっと違うな」と気がつき、早期に対応できると良いのです。
家族や友人が認知症になったらどうしたら良い?
編集部
家族や友人が認知症になったと感じたら、どうしたら良いでしょうか?
岩田先生
まずは、専門医に相談することが大事です。進行を遅らせる治療が可能なこともありますし、生活習慣や関わり方などについてアドバイスをもらえたり、周りがしてあげられるサポートについても教えてもらえたりすると思います。
編集部
例えばどんなサポートの仕方が良いでしょうか?
岩田先生
私はよく「二人称で話してみて」とお伝えしています。例えば、相手が理解できない言動をとったとしても「私だったらそんなことしない(一人称)」とか、「徘徊」「帰宅願望」などといった三人称的表現で語るのではなく、患者さんが何故そのような行動をとったのかを理解しようと試みてほしいのです。
編集部
コミュニケーションの注意点などもあれば教えてください。
岩田先生
患者さんが事実と思っていることを否定しないということも大事です。例えば認知症の方が施設入所した直後や、娘や息子の家に引き取られた時などに、「家に帰らなきゃ」と出て行こうとしてしまうという悩みをよく聞きます。そんな時は「いや、ここが家ですよ」と言うのではなく「じゃあ一緒に帰りましょう」と、まず一緒に外に出てあげ、暫く一緒に歩いてから、「それじゃあ、そろそろ家に帰りましょう」と言って、新しい住処に帰って下さい。新しい住居に移った時は、そこに帰宅するという習慣づけをしてほしいのです。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
岩田先生
家族やご友人などの身近な人が認知症になると、関わり方がわからずに困ってしまう方も多いと思います。しかし「二人称で話す」「否定せず、一旦同じ目線に立つ」などのちょっとした工夫で、お互いに気持ちよく過ごしていけるのではないかと思います。認知症の方との関わりは、子育てとも共通する部分が多いと感じています。いきなり上手にはできなくても、徐々にコツをつかんでいただけたらと思います。
編集部まとめ
今までしっかりしていた人が、つい数分前のことを覚えていなかったり、理解できない言動を取るようになったりすると、誰しも戸惑うはずです。しかし、ちょっとしたポイントを知っておくことで、認知症の方とその周囲の人々の意思疎通が少しずつスムーズになることが期待できます。認知症の方に寄り添える、より温かな社会になると良いですね。
医院情報
所在地 | 〒152-0022 東京都目黒区柿の木坂1-15-15 |
アクセス | 東急東横線「都立大学」駅より徒歩4分 |
診療科目 | 総合内科、神経内科 |