放置NG! 『鼠径ヘルニア』のセルフチェックと治療法【医師監修】

足の付け根(鼠径部)がぽっこり膨らむ、立ち上がると違和感がある。そんな症状を「たいしたことはないだろう」と放置していませんか? もしかしたら、鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)のサインかもしれません。鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、放置すると嵌頓(かんとん/腸などが穴にはまり込んで戻らなくなった状態)など重篤な状態に進行することがあります。一方で、早期に見つかれば、日帰りで腹腔鏡手術を受けられるケースもあります。見逃しやすい初期症状から治療法まで、埼玉外科クリニック院長の松下先生(日本ヘルニア学会 鼠径部ヘルニア修得医)に聞きました。
※2026年3月取材。

監修医師:
松下 公治(埼玉外科クリニック)
この症状があったら鼠径ヘルニアかも?

編集部
鼠径ヘルニアとは、どのような病気ですか?
松下先生
鼠径ヘルニアとは、足の付け根にある腹壁の弱い部分から、おなかの中の腸や脂肪などが皮膚の下にぽっこりと飛び出してしまう病気です。一般には「脱腸」とも呼ばれています。男性の3人に1人、女性の30人に1人が発症するといわれており、外科領域で頻度の高い疾患の一つです。国内では毎年13万人以上が手術を受けています。
編集部
「飛び出す」とは、どういう状態ですか?
松下先生
おなかの内臓は、腹腔(おなかの内側の空間)の中に収まっており、腹腔の周囲を腹壁という壁が覆っています。腹壁は、おなかの中の臓器を支える壁のような役割をしています。しかし、何らかの原因で腹壁が弱くなると、腸や脂肪などが壁の弱い部分から外側へ飛び出します。タイヤがパンクして穴が開いてしまったような状態をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
編集部
どのような症状が見られたら要注意でしょうか?
松下先生
最も典型的な症状は、「立ち上がったときやおなかに力を入れたとき、足の付け根がぽっこり膨らむ」ことです。膨らみはピンポン球ほどの大きさのことが多く、押すとクチュッとした感触とともにおなかの中に戻っていきます。初期段階では横になったり手で押したりすると膨らみが消えるため、「たいしたことはない」と見過ごしてしまう方が少なくありません。お風呂に入ったときに偶然気付く人も多いようです。
編集部
痛みはありますか?
松下先生
初期には痛みがないことがほとんどで、「何となく重だるい」「引きつれるような感じがする」「違和感がある」といった程度にとどまるケースが多数見られます。痛みがなく、横になると膨らみが消えてしまうため、受診をつい後回しにしてしまう人が多いのが現状です。しかし、受診を先延ばしにすることで、治療が遅れてしまいます。痛みのない初期のうちに鼠径ヘルニアを専門とする医師に相談することが大切です。
症状が進行すると、どうなるのか?

編集部
症状が進むと、どうなりますか?
松下先生
放置するとどんどん膨らんでいき、ソフトボールより大きくなることもあります。「長時間立っているのがつらい」「痛みが走ることがある」「おなかが張った感じがする」といった症状が表れるようになり、日常生活にも支障を来します。また、便秘や嘔吐(おうと)が起きることもあります。
編集部
鼠径ヘルニアを放置すると、どうなってしまうのでしょうか?
松下先生
成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることがなく、徐々に悪化していく傾向にあります。最も重篤な合併症が「嵌頓」で、飛び出した腸は腹壁の穴にはまって戻らなくなり、血流の途絶によって腸が壊死(えし)してしまうことがあります。嵌頓の状態では緊急手術が必要となり、体への負担も大きくなります。「症状が軽いから」と油断せず、早めに鼠径ヘルニアを専門とする医師を受診することが重要です。
編集部
自分で確認できるセルフチェック法があれば教えてください。
松下先生
立った状態で左右の足の付け根を見比べて、片側だけ膨らんでいないか確認しましょう。次に付け根に手を当てた状態で、咳をするかおなかにぐっと力を入れてみてください。指を押し返すような膨らみを感じれば、鼠径ヘルニアの可能性があります。膨らみが確認できた場合は、その部分を押してみましょう。クチュッとした感触とともにおなかの中へ戻るようであれば、鼠径ヘルニアである可能性がさらに高まります。少しでも気になる症状があれば、外科や消化器外科に相談してください。
鼠径ヘルニアの治療法は?

編集部
鼠径ヘルニアはどうやって治療するのですか?
松下先生
手術が唯一の治療法です。手術方法は主に、鼠径部を約5cm切開して行う「鼠径部切開法」と、約5mmの小さな穴を開けて行う「腹腔鏡手術」の2種類があります。腹腔鏡手術は傷が小さく、痛みが少なく、術後の回復も早いのが特長です。
編集部
手術の方法について詳しく教えてください。
松下先生
いずれの術式でも、筋肉の隙間(ヘルニア門)から飛び出した組織を丁寧に元の位置に戻し、メッシュと呼ばれる医療用の人工補強材でヘルニア門をふさぎます。かつては組織を縫い合わせる方法が主流でしたが、現在ではメッシュで補強する方法が標準術式となっています。腹腔鏡手術では小さな穴から細い器具を挿入して行うため、体への負担を減らすことができます。平均的には手術時間は1時間程度です。
編集部
切開法と腹腔鏡手術を選ぶ基準などはあるのでしょうか?
松下先生
はい、患者さんの全身状態や全身麻酔への耐性などが基準になります。一般に、術後の痛みや回復の早さの点では、腹腔鏡手術が選択されることが多いものの、全身麻酔が必要になります。患者さんの病状によっては、全身麻酔に耐えられないこともあるので、その場合には局所麻酔で切開法を行うこともあります。
編集部
日帰りでも受けられるのですか?
松下先生
はい、どちらの術式も日帰りで受けることが可能です。なお、海外では日帰り手術が広く行われていますが、日本ではまだ入院治療が中心です。しかし、日帰りで手術を行う医療機関も増えつつあるので、今後は欧米と同じように日帰り手術が標準になるかもしれません。
編集部
日帰り手術の場合、どれくらいの時間で帰宅できるのでしょうか?
松下先生
施設や術後の経過にもよりますが、日帰り手術では当日中の帰宅が可能です。当院では、来院から帰宅までおよそ4時間を目安としています。通院回数は施設によって異なりますが、当院では3回の受診(初診・手術当日・術後1週間)を基本としています。
編集部
高齢者でも手術を受けられますか?
松下先生
全身の状態にもよりますが、高齢の人でも手術を受けることは可能です。一般的に腹腔鏡手術は体への負担が少ない低侵襲手術であるものの、病状によっては日帰り手術ではなく、入院での手術を勧める場合もあります。いずれにせよ、放置して緊急手術になる方が体へのダメージは大きいため、全身状態が良いうちに鼠径ヘルニアを専門とする医師に相談されることをおすすめします。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
松下先生
足の付け根の膨らみや違和感は、多くの人が「たいしたことはない」と放置してしまいがちです。しかし鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、放置すれば嵌頓という緊急状態に陥るリスクがあります。一方で、早期に見つかれば、日帰りで腹腔鏡手術を受けられるケースもあります。鼠径ヘルニアの治療では、患者さん一人ひとりの年齢や病状に合わせて、適切な方法が選ばれます。少しでも気になる症状があれば、外科(鼠径ヘルニアの治療を行っている医療機関)に相談してください。
編集部まとめ
鼠径ヘルニアは「気のせいかな?」と見過ごされるケースが多いものの、放置しても良くなることはありません。気が付いたら早めの受診が肝心です。日帰り手術も可能なので、気になる症状があれば医師に相談してみましょう。
医院情報

| 所在地 | 埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-268 エイコービル3F |
| 診療科目 | 外科、消化器外科 |
| 診療時間 | 月~土9:00~17:30【完全予約制】 |
| 休診日 | 日曜日・祝日 |

