なぜ膵臓がんは「沈黙のがん」と呼ばれるのか 通常検査で見つかりにくい理由を医師が解説

膵臓がんは「沈黙のがん」と呼ばれ、早期発見がとても難しいがんと言われています。膵臓はおなかの奥深くにあり、食べ物の消化や血糖値の調整という大切な働きをしています。しかし、がんができても痛みなどの症状がほとんど無く、体の異変に気づいたときにはすでに進行していることも多くあります。そこで今回は、なぜ膵臓がんは見つかりにくいのか、その理由と早期発見のために知っておきたいことについてAIC八重洲クリニックの澤野先生に聞きました。

監修医師:
澤野 誠志(AIC八重洲クリニック)
膵臓の働きを知る

編集部
膵臓は体のどこにあり、どんな役割を担っているのでしょうか?
澤野先生
膵臓はおなかの奥、胃のうしろにある細長い臓器です。胃や腸などの消化管に囲まれ、外からは見えにくい位置にあります。主な役割は、食べ物を分解する消化酵素をつくることと、血糖値を調整するホルモン(インスリンなど)を分泌することです。私たちが食べたものをエネルギーに変えるうえで欠かせない臓器であり、体の代謝の司令塔ともいえる存在です。
編集部
膵臓が“消化”と“血糖コントロール”の両方に関わるといわれるのはなぜですか?
澤野先生
膵臓は、外分泌腺と内分泌腺という二つの働きをもっています。外分泌腺は、膵液という消化液を分泌して、食べ物の消化を助けます。一方の内分泌腺では、血糖値を下げるインスリンや血糖値を上げるグルカゴンといったホルモンを分泌し、血糖値を一定に保っています。このように「消化」と「血糖コントロール」という異なる働きを同時に担っていることが、膵臓の大きな特徴です。
編集部
膵臓がんができると、体にどのような影響を及ぼすのか教えてください。
澤野先生
膵臓がんができると、消化酵素の分泌が減って食べ物をうまく吸収できなくなったり、血糖値のコントロールが乱れたりします。これにより、体重減少や倦怠感、糖尿病の悪化などの症状が出ることがあります。膵臓は多くの臓器に囲まれているため、腫瘍が周囲の血管や胆管を圧迫し、皮膚や目が黄色くなる黄疸(おうだん)を起こす場合もあります。
「沈黙のがん」と呼ばれる理由とは

編集部
膵臓がんはなぜ自覚症状が出にくいのか教えてください。
澤野先生
膵臓はおなかの奥深くにあり、がんができてもほかの臓器に比べて痛みを感じにくい場所です。しかも、初期の段階では臓器の働きがある程度保たれているため、体調の変化が目立ちません。食欲不振や軽い腹部の違和感といった症状が出ても、多くの人は「疲れ」や「加齢のせい」と思ってしまうことが多く、発見が遅れやすいのが実情です。
編集部
症状が出たときには進行しているケースが多いのはなぜでしょうか?
澤野先生
膵臓がんは、がんがある程度大きくなるまで周囲の臓器や神経を刺激しません。そのため、痛みや黄疸などの明確な症状が現れるころには、がんが膵臓の外へ広がっていることが多いのです。また、膵臓の周りには重要な血管が多く、早い段階で浸潤してしまうことも進行が早いとされる理由の一つです。
編集部
膵臓がんの早期発見が難しいことには、どのような背景がありますか?
澤野先生
膵臓がんは初期症状が乏しく、一般的な健康診断でおこなう血液検査や腹部エコー検査では見つけにくい病気です。膵臓が胃や腸の影に隠れているため、超音波が届きにくいのです。加えて、早期がんを確実に見つける腫瘍マーカーもまだありません。MRI検査や造影CT検査であれば発見できる可能性が高まりますが、費用や検査時間の問題から、症状のない方全員におこなうのは難しいのが現状です。その結果、無症状のうちに進行してしまうケースが多く、「沈黙のがん」と呼ばれる理由の一つになっています。
見つかりにくいがんとどう向き合うか

編集部
一般的な健康診断で見つけにくいとされる理由について教えてください。
澤野先生
多くの健康診断では腹部エコー検査や血液検査をおこないますが、膵臓は体の奥深くに位置するため、胃や腸のガスに邪魔されて画像が不鮮明になりやすい臓器です。また、早期の膵臓がんを示す特異的な腫瘍マーカー(血液検査で測る指標)も存在しません。一般的に使われるマーカーも、進行してから上昇することが多く、早期発見には不向きです。CT検査やMRI検査であればより詳しく調べられますが、費用や時間の問題から通常の健診には含まれていません。このため、異常が見つかってから精密検査をおこなう流れが一般的です。
編集部
膵臓がんになりやすい人となりにくい人の特徴はありますか?
澤野先生
膵臓がんは50歳以降の中高年に多く、特に糖尿病や慢性膵炎のある方、喫煙習慣や多量の飲酒習慣がある方はリスクが高いとされています。家族に膵臓がんの既往がある場合も注意が必要です。また、肥満や膵臓に嚢胞(水がたまった袋)がある方も定期的な経過観察が推奨されます。一方、リスクを下げるためには禁煙や適度な運動、バランスの良い食事、適正体重の維持が大切です。これらのリスク因子を複数持つ方は、通常の健診に加えて年に一度は腹部MRI検査や造影CT検査など、より詳しい画像検査を受けることが早期発見につながります。
編集部
膵臓がんを早期に発見するために、自分自身でできることはありますか?
澤野先生
膵臓がんを完全に防ぐことは難しいですが、早期に気づくための意識を持つことは大切です。食欲不振や理由のない体重減少、背中や腰の鈍い痛み、原因不明の糖尿病発症や悪化など、小さな体の変化にも注意を払いましょう。特に50歳以降で急に糖尿病と診断された場合は要注意です。また、脂っぽい便が出る、尿の色が濃くなるといった症状も見逃さないでください。健診で異常を指摘された場合や不安な症状がある場合は、様子を見ずに消化器内科や膵臓疾患の専門医がいる医療機関で早めに相談することをおすすめします。
編集部まとめ
膵臓がんは発見が難しい病気ですが、リスク因子を知り定期的に検査を受けることで早期発見の可能性を高められます。糖尿病の悪化や体重減少など、体からの小さなサインも見逃さないことが大切です。本稿が読者の皆様にとって、膵臓がんへの理解と早期受診のきっかけとなりましたら幸いです。
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