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職場が合わないだけじゃない。『適応障害』の人が抱える困難と正しい支援

 公開日:2026/03/21
職場が合わないだけじゃない。『適応障害』の人が抱える困難と正しい支援

適応障害の人は、仕事や家庭などの環境変化にうまく対応できず、強いストレスから心身のバランスを崩してしまいます。集中力の低下や不安、不眠など、日常生活に支障を来すことも少なくありません。今回は、本人が抱える困難と、周囲ができる具体的なサポート方法などについて、アンジェロ三田クリニックの岩谷先生に教えてもらいました。

※2025年11月取材。

岩谷 泰志

監修医師
岩谷 泰志(アンジェロ三田クリニック)

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1990年、筑波大学医学専門学群(現・筑波大学医学群)卒業。京都大学医学部附属病院麻酔科で麻酔科標榜医取得。1992年、東京慈恵会医科大学精神医学講座に入局し、同大学附属病院および関連病院に勤務。2003年に心療内科・神経内科「いわたにクリニック」を開業。2022年には、医療法人社団和啓会「ペディ汐留こころとからだのクリニック(現・アンジェロ三田クリニック)」院長に就任。日本精神神経学会会員、日本精神分析学会会員。

適応障害の人は、どんな困難を抱えるのか?

適応障害の人はどんな困難を抱えるのか?

編集部

適応障害の人が、仕事に取り組む際の特徴はありますか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

適応障害の人は、環境との「認識のズレ」が生じやすく、仕事の本質的なポイントをつかむのが難しくなることがあります。上司が求めている方向性や、組織が重視している価値観が読み取りにくくなるため、本人は真面目に取り組んでいても「やることが違う」「方向性がずれている」と指摘されやすいのです。その結果、アウトプットが求められる基準から外れやすく、修正や再提出が増えてしまうことが多いとされています。

編集部

仕事の抱え込みや過重労働につながるケースもあるのでしょうか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

はい、適応障害の人は「自分の中だけで何とかしよう」と抱え込んでしまい、残業時間が増えやすくなる傾向があります。また、他者とのコミュニケーションも苦手なことが多いので、相談やすり合わせのタイミングが遅れがちです。本質が理解できていないまま作業量だけ増やしてしまうため、時間をかけても成果につながりにくいという「負の循環」が起こります。このズレが続くと努力が報われず、ますます抱え込みが加速し、心身の負担が大きくなります。

編集部

頑張りが報われない状況はつらいですね。

岩谷 泰志先生岩谷先生

そうですね、適応障害の人が最も苦しみやすいのが「頑張っているのに評価が下がる」という状況です。これは、本人が感じている職務課題と、上司の見ている本質的な課題の不一致が原因で起こります。本人は頑張っているのに、努力と成果の結びつきが極端に弱くなってしまう……。さらに、評価まで下がると強い理不尽感を抱くわけです。

編集部

上司にとってもストレスの種になりそうですね。

岩谷 泰志先生岩谷先生

はい。上司からすると「こちらの指示が伝わっていない」「なぜ違う方向へ行くのか」と感じ、双方に不満が募る悪循環になります。どちらか一方が理不尽なのではなく、認識のズレによって双方が困難に直面している、すれ違いの状態ですね。これが続くことが、適応障害の大きなつらさの一つになっています。

適応障害は「環境を変えるだけ」で解決しない?

適応障害は「環境を変えるだけ」で解決しない?

編集部

適応障害の原因として「職場が合わないから」という意見をよく耳にします。本当でしょうか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

適応障害の原因は、単純に職場が合わないからだけではありません。発症の背景には、本人の認知機能の弱さや偏りが大きく関わっています。特に、状況を俯瞰(ふかん)して理解するメタ認知能力が低下していると、指示の意図や職場の暗黙ルールが読み取りにくくなり、認知のズレが生じ、結果としてストレスが過剰にかかります。

編集部

転職したり、部署異動したりして、働く環境を変えてもうまくいかないのでしょうか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

残念ながら、ただ職場を変えるだけでは、根本的解決には至らないことも多いですね。大事なのは、自分の認知特性と、どのような場面でストレスがたまりやすいのかを理解すること。“性格の問題”ではなく脳の特性によるものということを踏まえた上で、関わり方や働き方の調整が必要です。

編集部

どのような職場や仕事内容だと、適応障害になりにくいのでしょうか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

メタ認知能力や対人調整が求められる職場では、認知機能に弱さがあると負担が大きくなります。例えば「上司の意図を先回りして理解する」「状況に応じて柔軟に振る舞う」「複数の人と交渉しながら仕事を進める」といった環境下では、認知のズレが積み重なりやすく、適応が難しいケースがあります。一方で、「マニュアル化されていて次にやることが明確な仕事」「自己裁量で淡々と進められる業務」「対人交渉が少ない職場」では、ストレスが大きく減り、能力を発揮しやすくなります。働く場所との相性が非常に重要で、職場環境選びが症状の予防にもつながります。

編集部

今の職場が明らかに合わないと感じる場合、どうすればよいですか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

まずは一人で耐え続けないことが大切です。認知特性と職場のミスマッチが大きいと努力しても改善しにくい上に、上司も「パワハラと誤解されるのを恐れて指導できない」という状況になることがあります。そのため、本人も上司もストレスを抱え、悪循環に陥りやすいのです。該当する場合は、産業医や適応障害に詳しい精神科医に早めに相談することを強くおすすめします。認知特性の評価を行い、どの環境なら適応できるか、またどこに負荷がかかりやすいかを一緒に整理していきましょう。

適応障害のサポート方法と治療法

編集部

適応障害になった場合、まずはどのような対処が必要ですか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

最も重要なのは、ストレスとなっている状況から距離を取ることです。休職や配置転換などで一度環境から離れ、心身が緊張状態から回復する時間を確保しましょう。その上で、何がストレス要因だったのかを丁寧に見極めて「どんな対策が立てられるか」を考える――これが治療の本質です。

編集部

薬物を使った治療を行うこともありますか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

薬物療法はあくまでも補助で、抗不安薬の頓服に加え、緊張のベースラインを下げる薬(SSRIや抗うつ薬など)、認知機能を向上させる薬(非定型抗精神病薬など)を状況に応じて使います。最終的には、環境へのアプローチと認知的理解の向上が回復の鍵になります。

編集部

“認知的理解の向上”のため、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

多くの臨床の現場で行われるのが、認知行動療法です。一般に、認知行動療法は「オールオアナッシング」「べき思考」「心の深読み」といった認知のゆがみを修正する療法といわれます。実際には、これらのゆがみは適応障害と関わりが深く、本人の特性を理解しながら治療を進めていきます。認知の偏りを修正することでメタ認知の力が向上し、「仕事の本質は何か」「上司は何を求めているのか」といったポイントを正しく捉えられるようになります。

編集部

ほかに、どのような治療が行われるのですか?

岩谷 泰志先生岩谷先生

アサーション(適切な自己表現)ですね。これを学ぶことで誤解が少なく自分の考えを上手に伝えられ、ストレスを軽減することができます。また、優位性志向(他人からの評価を求める気質)が強い人は、自己愛性パーソナリティの傾向と関わるケースもあり、人間関係のストレスを抱えやすくなります。該当者には関連の書籍を薦め、自分でマネジメントする能力を身に付けることをサポートします。あと大事なのは、上司をマネジメントするスキルを身に付けることです。認知特性の偏りがあると、上司の意図が本人へ届かず、双方がイライラを募らせパワハラ問題に発展してしまうこともあります。しかし、自分の特性を上司に理解してもらえると、上司も「できないことを要求しない」という調整が可能になり、自分に向いている業務をアサインしてくれるかもしれません。こうした“上司を上手に扱うスキル”は、環境への適応を高め、再発を防ぐための重要なセルフマネジメントになります。

編集部

マネジメント能力を身に付けることも大事なのですね。

岩谷 泰志先生岩谷先生

はい。適応障害は、認知の偏りや気質によるところが多いので、マネジメントスキルを身に付けなければ再発しやすくなってしまいます。精神科の医師や産業医は、そうしたストラテジー(長期的な方針・戦略)を一緒に考えてくれる、頼もしい存在です。困っていることがあれば、いつでも遠慮なく医師に相談してほしいと思います。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

岩谷 泰志先生岩谷先生

適応障害の治療では、環境調整だけでなく「自分自身の特性を正しく理解すること」が欠かせません。そのためには、本人の認知傾向やパーソナリティを丁寧に分析する必要があります。近年はFFS(5つの因子とストレス値で定量化する性格・ストレス分析ツール)やSPI(適性検査)のような診断ツールが注目されがちですが、それだけで「性格が完全に分かる」と考えるのは誤解です。部下や同僚に「適応障害の人がいる」という場合には、ぜひ疾患への理解を深め、適切なサポートをしてあげてほしいと思います。

編集部まとめ

適応障害の改善には、本人の特性を丁寧に理解し、それを踏まえたマネジメントが欠かせません。FFSやSPIはあくまで参考情報であり、特性を深くつかむには専門家の説明や書籍・動画での学習が効果的です。多角的に本人を知ることが、症状改善のための確かな礎になるでしょう。

医院情報

アンジェロ三田クリニック

アンジェロ三田クリニック
所在地 東京都港区芝5-27-5 山田ビル2F
診療科目 心療内科、精神科
診療時間 月金 9:00~14:00/15:00~19:00
火 14:30~20:00
木 9:00~14:00/15:00~20:00
土 9:00~15:00
休診日 水・日・祝

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