目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 病気Q&A(医科)
  4. 「適応障害の薬」にはどんな種類がある?副作用となる症状も解説!【医師監修】

「適応障害の薬」にはどんな種類がある?副作用となる症状も解説!【医師監修】

 公開日:2025/10/07
「適応障害の薬」にはどんな種類がある?副作用となる症状も解説!【医師監修】

適応障害は、強いストレスが原因で心や身体にさまざまな不調がみられる病気です。憂うつな気分や不安、不眠などが続き、日常生活に支障をきたします。治療の基本はストレスの原因から離れることですが、薬によるサポートが行われることもあります。本記事では、適応障害とはどのような病気か、薬物療法の種類や効果、副作用などを解説します。

前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

プロフィールをもっと見る
島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

適応障害の概要

適応障害の概要

適応障害とはどのような病気ですか?

適応障害は、明らかなストレス因子に対する反応として、感情面や行動面に著しい不調が現れる精神疾患です。具体的には、次のような症状がみられます。

  • 憂うつな気分(抑うつ気分
  • 不安感
  • イライラ
  • 集中力の低下
  • 不眠

抑うつ気分とは、絶望感・虚しさ・悲しみなどを伴う強い憂うつな気分をいいます。このような精神症状のほか、食欲不振、倦怠感、動悸などの身体症状が生じることもあります。また遅刻や欠勤、集中力低下によるミスなど、職場や学校で問題が起こる場合もあります。こうした症状により日常生活に支障を来たし、本来その方が持っている社会的・職業的な能力が発揮できない状態を適応障害といいます。

適応障害の原因を教えてください

適応障害の原因はストレス因子(ストレスが強くかかる出来事)です。具体的には、仕事上のトラブル、失業、人間関係の悪化、転居、離婚、介護疲れなどです。本人にとって大きな心理的ストレスとなる出来事であり、単発であったり、複数の出来事の積み重ねであったりします。症状の現れ方はさまざまですが、基本的にははっきりと認識できるストレス因子が存在します。また、一見ポジティブなこと(結婚や昇進、出産など)でも、環境の大きな変化を伴えばストレスとなり、適応障害を引き起こす場合があります。

適応障害の治療で用いられる薬の種類と効果、副作用

適応障害の治療で用いられる薬の種類と効果、副作用

適応障害の治療ではどのような薬が使われますか?

適応障害の治療はセルフケア、精神療法、そして薬物療法を組み合わせて行われます。ただし、適応障害そのものを治す薬はなく症状に応じて薬物療法が選択されます。不眠や強い不安感、抑うつ気分などに対する対症療法として、医師の判断で薬の処方が検討されます。

なかなか寝つけない(入眠困難)、眠ったものの途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)など不眠の症状がある場合、睡眠薬が使用されます。現在、睡眠薬には多くの種類があります。従来はベンゾジアゼピン受容体作動薬といわれる薬剤が主に使用されていました。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、化学構造の違いによりベンゾジアゼピン系非ベンゾジアゼピン系の薬剤に分類されます。

また、近年異なる作用機序の睡眠薬が登場し、広く使われるようになっています。ベンゾジアゼピン受容体作動薬以外に、次のような睡眠薬があります。

  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬

メラトニン受容体作動薬は、メラトニン受容体に作用し、睡眠のリズムを整える薬です。オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒に関与するオレキシンの働きを妨げることで睡眠を促す薬です。これらの薬剤は、患者さんの症状に応じて、使い分けられます

不安が強い場合は、抗不安薬が使われる場合があります。代表的な薬剤としてベンゾジアゼピン受容体作動薬が挙げられます。

抑うつの症状に対して、抗うつ薬が選択されることがあります。抗うつ薬は、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを改善する薬剤です。代表的なものは次のとおりです。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

SSRIとSNRIは名前のとおり、セロトニン、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、抑うつ症状の軽減を図る薬です。これらの薬剤は、医師の判断により必要な際に使用されます。

適応障害の薬物治療で得られる効果を教えてください

睡眠薬は、入眠困難や中途覚醒を減らすことで睡眠の質を改善する効果があります。不眠の状態が続くと、身体的にも精神的にも負担が大きくなります。良好な睡眠が確保できるとそのほかの症状にもよい影響を与える可能性があります。抗不安薬は不安な気持ちや緊張を和らげます。抗不安薬は服用を始めてから、早期の効果が期待できます。抗うつ薬は抑うつ気分や不安症状の軽減、意欲の回復などが期待できます。効果が出るのに約2~4週間かかることが多いとされます。

適応障害の薬には副作用はありますか?

適応障害の薬に限らず、すべての薬で肝機能障害、腎機能障害やアレルギーなどの副作用が現れる可能性があります。そのほかに起こりうる特徴的な副作用を解説します。

睡眠薬は、眠気やふらつきがみられることがあり、特にご高齢の方では転倒に気をつけます。抗不安薬でも、睡眠薬と同様に眠気やふらつきなどの症状がみられる場合があります。また、身体に力が入りにくくなったり、一時的な記憶障害を認めたりするケースもあります。抗うつ薬の副作用で代表的なものは次のとおりです。

  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、便秘、下痢)
  • 眠気
  • めまい
  • 賦活(ふかつ)症候群

賦活症候群とは、抗うつ薬の内服後に不安や焦燥感が一時的に強まる状態を指します。希死念慮(漠然と死んでしまいたいと考えること)や、衝動性がみられることがあります。自傷行為や自殺企図(自殺しようとする行動)といった深刻な症状が現れる可能性もあるため、内服前に患者さんや周囲の方が副作用を理解しておく必要があります。特に、抗うつ薬の服用開始時や増量した際にこういった症状がないかを注意します。

適応障害の薬物治療はどの程度の期間続きますか? 

適応障害で薬物治療が選択された場合、どの程度の期間続くかはそれぞれの患者さんで異なります。ストレス因子から離れることで症状が速やかに改善すれば、医師と相談して早期に薬物治療が終了する可能性もあります。

一方で症状がなかなか軽減しない場合には、薬物療法が継続されることが少なくありません。適応障害は通常、ストレス因子がなくなってから6ヶ月ほどで症状が改善するとされており、6ヶ月が一つの目安です。ただし、個々のケースで違うため、薬物治療終了のタイミングは必ず医師と相談して決めます。

適応障害の患者さんが薬と上手に付き合う方法

適応障害の患者さんが薬と上手に付き合う方法

適応障害の薬に依存性はありませんか?

適応障害で使用する薬の種類によって、依存性のリスクは異なります。通常、抗うつ薬は依存性は少ないとされています。一方でベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は、依存性がみられる場合があります。身体依存の状態となると、薬の量を減らしたり、中止したりする際に、離脱症状を生じることがあります。離脱症状には、イライラ感や不安などの精神症状と、ふるえや発汗、頭痛などの身体症状があります。

適応障害の薬を飲むときの注意点を教えてください

適応障害の薬では、眠気やふらつきなどのリスクがあるため転倒に気をつける車の運転・危険作業などを行わない、などの対策が必要です。また、ベンゾジアゼピン系の薬剤は、複数の併用や、長期間の服用が依存の危険因子とされています。可能な限り、複数の薬剤の併用や長期間の内服は控える方がよいといわれています。ただし、注意点は個々の患者さんや薬剤の種類によっても違いがあるため、医師に注意点を確認しましょう。特に、肝機能障害や腎機能障害がある方妊娠中の方や、授乳中の方は相談が必要です。

なお、過度に副作用を心配せず、医師の指導の下、適切な量を適切な期間服用することが大切です。

適応障害の薬を飲み忘れたときはどうすればよいですか?

適応障害の薬を飲み忘れた場合、まずは落ち着いて状況を確認しましょう。もともとの服用時間からそれほど経っていない場合は、気付いた時点でできるだけ早めに内服します。ただし、どの程度の時間まで内服可能かなど、飲み忘れたときの対応については、薬の種類や個人の状況により異なるため、医師や薬剤師に相談してください。自己判断での対応は避け、専門家の指示に従います。あらかじめ、内服が始まる際に医師や薬剤師に相談しておくとよいでしょう。

編集部まとめ

編集部まとめ

適応障害は、誰にでも起こりうる身近な病気です。治療の基本はストレス因子から離れ、休養することですが、必要に応じて薬物療法が選択されます。睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬は症状を和らげ、生活を立て直す助けとなります。ただし、すべての薬には副作用のリスクがあり、適応障害で使用される薬も例外ではありません。また、一部の薬では依存のリスクもあるため、使用する際は必ず医師の指示に従うことが大切です。不安や疑問があれば自己判断をせず、早めに専門家に相談します。必要なときは適切に薬を使用しながら、少しずつ回復を目指しましょう。

この記事の監修医師