漢方薬の「副作用」をご存じですか? どういう漢方医なら安心して診てもらえる?【医師解説】

「自然由来だから安心」と思われがちな漢方薬ですが、じつは、副作用が起こることがあります。安全に服用するために欠かせない、漢方を出してくれる医師の専門性の高さの重要性について、医療法人仙豆会いこいクリニックの岩崎先生に詳しく教えてもらいました。

監修医師:
岩崎 鋼(医療法人仙豆会いこいクリニック)
漢方薬による危険な副作用

編集部
漢方薬による副作用とは、どのようなものですか?
岩崎先生
漢方薬を使用して体にトラブルが生じた場合、2つの状況が考えられます。一つは、正しく漢方薬を処方したにもかかわらず、漢方薬に含まれる生薬が原因となって有害事象が出現したというもの。もう一つは、そもそも処方した漢方薬が正しくなかった、というものです。このうち、「漢方薬の副作用」とは前者のことを意味します。
編集部
前者の場合のみというのですね。
岩崎先生
そうです。誤解されがちですが、そもそも漢方薬の選択が誤っていることが原因で有害事象が出たものは、副作用とは呼びません。
編集部
どのような漢方薬で副作用が起こりやすいのでしょうか?
岩崎先生
代表的なものが附子(ぶし)です。これはトリカブトの根を加熱し、毒性をほぼ取り除いた生薬で、痛み、しびれ、冷えの症状などに用いられます。しかし、過量に服用すると危険です。初期症状は口の周りのしびれで、進行すると不整脈、血圧低下、ショック、呼吸困難を引き起こし、最悪の場合は死亡にいたります。
編集部
そのほかにはどのような漢方薬で副作用は起こりやすいですか?
岩崎先生
甘草(かんぞう)は医療用漢方の約7割に含まれる代表的な生薬で、胃腸薬や抗炎症薬として広く使われています。ただし、長期多量に服用すると「偽アルドステロン症」を起こすことがあります。これは血圧上昇やむくみなどを引き起こし、また、利尿薬の一種であるループ利尿薬と併用することで心不全が増悪するとされています。
編集部
甘草はとても有名な生薬ですよね。でも、副作用もあるのですね。
岩崎先生
はい、偽アルドステロン症で注意したいのは血中カリウムの数値です。従来、偽アルドステロン症は血中カリウム低下が特徴とされていましたが、最近ではカリウムが正常な偽アルドステロン症もあることがわかっています。そのため、漢方薬を飲んで血圧が上がったり、むくみが出たりした場合は偽アルドステロン症の可能性を疑い、服用を中止することが重要です。
専門医ではない医師が処方する漢方薬には、大きな危険が潜むことも

編集部
いろいろな危険もあるのですね。
岩崎先生
以前、「高血圧の薬を飲んでいるのに血圧が下がらない」と私のところへ受診した患者さんに話を聞いてみると、毎日3回、葛根湯を飲み続けていたのです。葛根湯には麻黄(まおう)という生薬が含まれているのですが、これには血圧を上げる作用があるため、高血圧の人が常用するのは危険です。本来、葛根湯は肩こりやかぜの初期に短期間使うもので、継続的に飲む薬ではありません。
編集部
それでも医療機関で処方されていたのですよね?
岩崎先生
はい。残念なことに、漢方薬を処方する医師の中には「どの方剤(複数の生薬を組み合わせて作られた薬剤)に、どの生薬が入っているか」を意識せず、患者さんに薬を処方している人もいます。しかし、漢方薬にはそれぞれ固有の副作用があるため、どんな生薬が含まれているかを確認することが大切なのです。
編集部
そのほかにも、漢方薬による副作用はありますか?
岩崎先生
生薬の副作用に関する研究が進んでいて、最近新しく発見されたものに、黄芩(おうごん)による膀胱炎があります。黄芩に間質性肺炎を起こす危険性があることは以前から知られていましたが、近年、膀胱炎も引き起こす可能性があることがわかってきました。
編集部
「漢方薬は長く服用する」というイメージがありますが、知らないうちに副作用で体にダメージを与えていることも多いのかもしれないですね。
岩崎先生
はい。たとえば山梔子(さんしし)は、炎症や熱を冷ます目的で用いられる生薬で、加味逍遙散(かみしょうようさん)など、多くの女性向け漢方処方にも含まれています。しかし、数年〜十数年にわたり継続服用すると、静脈硬化性大腸炎を起こすことがあると報告されています。
編集部
飲み続けるのは危険なこともあるのですね。
岩崎先生
はい。漢方薬も西洋薬と同じく副作用のリスクがあるため、漫然と長期に飲み続けるのではなく、定期的に漢方の専門医に相談しながら使用することが大切です。
医師を正しく見極めるには?

編集部
漢方薬を処方してもらうとき、どうやって医師を見極めればよいのでしょうか?
岩崎先生
漢方の専門医と名乗っていても、資格の有無だけで実力を判断することはできません。一番の目安は、「両手の脈を見る」「舌を観察する」といったことをおこなうかどうか。これらは漢方の基本的な診察法であり、こうしたことをおこなう医師はきちんと漢方を学んでいる証拠です。漢方薬を安心して使いたいなら、そうした診察をきちんとおこなう医師を選ぶことが重要です。
編集部
受診する時に気をつけることはありますか?
岩崎先生
受診の際には、必ずお薬手帳を持参しましょう。現在服用している薬やこれまでの治療歴がわかることで、漢方薬と西洋薬の併用による副作用や相互作用を防ぐことができます。
編集部
現在、漢方薬を処方されている人で、「どこか体調がおかしいな」と感じている場合には、どうしたらよいでしょうか?
岩崎先生
いったん、漢方薬の使用を中断してみましょう。それによって体調が改善すれば、漢方薬による副作用だったという目安になります。あわせて、漢方薬に詳しい専門医に相談してみましょう。
編集部
最後に、読者にメッセージをお願いします。
岩崎先生
漢方薬を正しく使うためには、処方する医師の知識と姿勢がとても重要です。単に「風邪だから葛根湯」といった決まりきった処方をするのではなく、「この漢方薬にはどの生薬が含まれており、どのような副作用のリスクがあるのか」まで、医師は理解している必要があります。これから漢方を処方してもらう際には、ぜひ、そうした知識のある医師を選んでほしいと思います。同時に、医師自身も漢方薬に対する学びを深め、効果的に漢方薬を患者さんへ届けられるよう努めなければならないと思います。
編集部まとめ
漢方薬は「自然だから安全」と思われがちですが、副作用や相互作用のリスクもあります。附子や甘草、麻黄、黄芩、山梔子など、よく使われる生薬でも注意が必要です。処方を受ける際は必ずお薬手帳を持参し、漢方診察(脈・舌)をおこなう専門医を選びましょう。
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