「仕事と家庭の両立がつらい…」ワーキングマザーが抱える心の悩み 医師が教えるメンタルケアのコツとは

仕事と家庭、どちらも手を抜けない毎日に疲れを感じていませんか? ワーキングマザーは責任の重さや時間のなさから、心が追い込まれやすくなります。無理をしすぎないためのメンタルケアのヒントについて、「渋谷365メンタルクリニック」の渡辺先生に解説していただきました。

監修医師:
渡辺 佐知子(渋谷365メンタルクリニック)
ワーキングマザーが抱える心の悩み

編集部
ワーキングマザーがよく抱えるメンタルの悩みには、どのようなものがありますか?
渡辺先生
「子どもに時間をかけられない罪悪感」「仕事のパフォーマンスが落ちている焦り」「家庭のことがきちんとできない自己嫌悪」「常に時間に追われるストレス」など、様々な悩みを抱えています。特に働き盛りの世代は、自分の中で「これくらい頑張りたい」という目標があるのに達成することができず、「やりたいのにできない」「本当はこうしたいのにできない」という自己不確実感を抱え込みやすい傾向にあります。そして、その悩みを誰にも相談できず、1人で背負ってしまう女性は少なくありません。
編集部
夫や周囲の協力が得られず孤立している人も多いのですか?
渡辺先生
はい。育児や家事の負担が偏っていると「自分ばかり」と感じやすく、孤独感につながります。共働きでもメンタル的にはワンオペ状態になっているケースが多く、これが心の不調の原因になるのです。
編集部
最近では、女性の支援に力を入れている企業や団体も多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか?
渡辺先生
たしかに、仕事と家庭の両立支援が重視されていたり、社会でも「一億総活躍社会」と叫ばれたりしていますが、ワンオペで家事も育児も背負っている女性が多いのが現実です。例えば、家族やパートナーから「手伝うよ」という声はあっても、実際に男性が動いてくれるのは少ないケースが挙げられます。また、男性自身も「どう関わったらいいのか分からない」「下手に手を出したら怒られる」と思っていることもあり、なかなか意識の改革が追いついていないのが現状です。
編集部
やることが多すぎて、慢性的に疲れている女性も多いと思います。
渡辺先生
そうですね。そのような場合の多くは、物理的に時間がないのではなく、心の余裕がない状態です。仕事・家事・育児の全てを完璧にこなそうとする責任感の強い人ほど、心がすり減ってしまいます。
編集部
無意識のうちにメンタルが限界に近づいている人もいるのでしょうか?
渡辺先生
「やる気が出ない」「物忘れが増えた」「朝がつらい」などの一見軽い不調が、うつ状態のサインである場合も少なくありません。責任感から無理を続ける人ほど、自分の疲れに気づきにくい傾向があるので要注意です。
編集部
自分でも気づかないうちに、心がどんどん疲れてしまうのですね。
渡辺先生
はい。例えば「ちょっと調子が悪いな」と、うすうす感じている中、職場では「書類、まだ出ていないよね」「ミスあったよね」なんて上司にちくちく言われてしまう。そして1on1で上司と話をして「特別にタスクが増えたわけじゃないのにどうしてミスが多いのか」と聞かれても、家庭のことはプライベートだから上司に話していいのか迷ってしまう……。そんなことを繰り返すたび、どんどん心が限界に追い込まれていくケースは多くあります。
編集部
誰にも相談できないという問題があるのですね。
渡辺先生
しかも「上司に言ったところでどうせ変わらない」と思ってしまうと、相談する気持ちも薄れて、結局言えなくなってしまいます。職場以外では、例えば家族に話しても喧嘩で終わったり、友人にはどこまで愚痴をこぼしていいのか分からなかったりして、結果的に1人で抱え込んでしまう人が本当に多いのです。
現在のメンタル状況を確認する方法

編集部
自分が今、心の限界に近いかどうか、どう判断すればいいですか?
渡辺先生
自分の状態を知るためのセルフチェックとして、「SDS:Self-rating Depression Scale(自己評価式抑うつ性尺度)」をおこなってみるのもいいと思います。検査項目には「気が沈んで憂うつだ」「朝方はいちばん気分がよい」など20項目あり、それぞれに「めったにない」から「いつも」まで4段階で回答していきます。インターネットで検索すると検査項目が見つけられるので、試してみてはいかがでしょうか。
編集部
セルフチェックすることもできるのですね。
渡辺先生
はい、そのほかにも、「K6」という精神科で使われる簡易チェックリストを使用することもできます。このテストはインターネット上でも公開されています。ただし、心配な場合は自己判断で終わらせるのではなく、産業医やメンタルクリニックで相談しましょう。
編集部
子どもの前では明るく振る舞えていても、1人になると落ち込む人も多いと思います。その場合も要注意ですか?
渡辺先生
表面上は元気でも、心の中で落ち込んでいるなら注意が必要です。特に「母親なのだから頑張らないと」「軽く振る舞わなきゃ」と自分を追い込むと、無自覚のままメンタルにダメージが蓄積されてしまいます。
編集部
「他人と比べて自分が弱いのが悪いのではないか」と思ってしまう人もいるのでは?
渡辺先生
たしかに、そのような人は多く見受けられます。しかし、他人からは見えないだけで、同じように苦しんでいる人はたくさんいます。「自分だけが苦しんでいる」「自分が悪い」など、自分ばかりに意識を向けてしまうと、かえってつらさが増すことになります。
仕事と家庭の両立がつらいときの対処法

編集部
両立が苦しいとき、まず何から始めたらいいですか?
渡辺先生
多くの人が「全部を自分で頑張らなきゃ」と思っていますが、あえて「頑張らない」「全部はやらない」と決めてしまうことも大事です。特に家事や育児は、家族で分担したり、外注をうまく利用したりして、省エネで回す工夫もできます。優先順位を整理して、「これだけやればいい」と余裕をつくることが、心を安定させる一歩になると思います。
編集部
仕事を辞めるという選択肢も考えるべきですか?
渡辺先生
仕事を辞めることが悪いわけではありませんが、感情的な判断は避けましょう。まずは職場に相談し、時短勤務や業務内容の調整など、働き方を見直す手段がないか検討をしてみてください。最近では、リモートワークを取り入れている企業も多いので、会社と相談して出社ではなく在宅勤務にしてもらうのもいいと思いますよ。
編集部
パートナーが非協力的な場合、どうすればいいですか?
渡辺先生
パートナーに話をするうち、感情的になって喧嘩してしまったパターンはよくあると思います。頑張って共有しようとしても相手からの共感や受け止めがなくて、「もう言っても無駄だな」って諦めてしまいがちです。そんなときは利害関係のない相手、例えば同じ子育て世代の女性同士で「うちも同じだよ」と愚痴を言い合うだけでも、すごくスッキリするかもしれません。ペアカウンセリングのように、同じ立場で気持ちを言い合えるだけで楽になる人もいるので、ぜひ参考にしてみてください。
編集部
なんとかパートナーに分かってもらおうとするのではなく、同じ立場にいる女性同士で話し合うのですね。
渡辺先生
そもそも身内に全部理解してもらうのは、育ってきた環境も価値観も違うので困難です。そんなときには同じ環境にいる人同士、話し合うのがいいと思います。最近では、ChatGPTのようなAIを使って、セルフカウンセリングしている人も増えています。今の時代、それも立派なセルフカウンセリングだと思います。1人で悶々と考え込むよりも、文字や言葉にして表現することで自分の課題が見えてくることもあり、AIからアドバイスをもらうことで「こういう視点もあったんだ」と気づけることもあると思います。
編集部
最近はAIを活用している人も多いのですね。
渡辺先生
とにかく大事なのは1人で抱えないこと。誰かに話を聞いてもらうには言語化することが必要なので、そうしたプロセスを経ることで頭が整理され、スッキリすることもあると思います。
編集部
心が折れそうなときは、どう乗り越えたらいいですか?
渡辺先生
「1人で耐える」必要はありません。自治体の相談窓口、保健師、母子保健サービス、子育て支援など利用できる支援があるので、そうしたサービスを利用してみるのもおすすめです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡辺先生
子育ては年単位で続く大きなタスクです。短期決戦ではないからこそ、1人で抱え込まないことが大切です。「もう無理だ」「自分はダメな母親だ」など結論を急がずに、まずは誰かに頼ってみましょう。実際に話してみると「言ってよかった」「スッキリした」と思えることは多いと思います。医師やカウンセラーに相談するだけではなく、AIなどのサポートも活用しながら、少しずつ肩の荷を下ろしていってください。子育ては完璧を目指すものではなく、続けていくための工夫と支え合いが大切です。1人で抱え込まず、ぜひ頼れるものに手を伸ばしてみてほしいと思います。
編集部まとめ
子育ては「1人で頑張るもの」ではありません。支えを求めることは弱さではなく、より良い日々をつくるための大切な選択です。家族や専門家、そしてAIの力を借りながら、自分らしい子育ての形を見つけていきましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-1-11 郁文堂青山通りビル8階 |
| アクセス | 東京メトロ「表参道駅」 徒歩6分 JR・東京メトロ・東急線「渋谷駅」 徒歩7分 |
| 診療科目 | 精神科、心療内科 |




