その関節・筋肉の痛み、“姿勢の乱れ”が原因かも!? 体のプロが実践する「痛みを防ぐ日常の習慣」

関節や筋肉の痛みを根本から改善するには、どうしたらいいのでしょうか。身体の構造と機能に精通した専門家は、日々どのようなことを実践して痛みを予防しているのか気になるところです。今回は「肩こりラボ学芸大学」の丸山太地先生に、シンプルながら効果的なセルフケア法と日常での意識づけについて詳しくお話を伺いました。

監修鍼灸師:
丸山 太地(鍼灸師)
関節や筋肉が痛くなる原因

編集部
関節や筋肉の痛みは、なぜ起こるのでしょうか?
丸山先生
様々な要因がありますが、代表的なのは「使いすぎ」「使わなさすぎ」「間違った使い方」の3つです。長時間同じ姿勢を取り続けたり、急な運動をおこなったり、骨格が歪んだ状態で体を動かすなど、筋肉や関節に過度な負荷がかかることで炎症や緊張が生じます。そのほかにも、加齢による変化、ストレスなども痛みを悪化させる一因となります。
編集部
姿勢の悪さが原因になることもあるのですか?
丸山先生
はい、姿勢の乱れは非常に多くみられる原因です。猫背、反り腰、骨盤が後傾した状態などは、特定の筋肉や関節に過剰な負荷をかけやすく、慢性的な痛みにつながりやすくなります。全身のバランスが崩れることで、局所に負担が集中してしまうのです。
編集部
運動のしすぎでも痛くなりますよね?
丸山先生
そのとおりです。体が運動できる状態にない(=可動域が低かったり適切な筋力が発揮できなかったりする状態)なかで、急に動いたり無理な負荷をかけたりすると、筋肉や筋膜、靭帯、関節などに損傷が起きやすくなります。また、体の深層にある「インナーマッスル」という筋肉や体幹に近い筋肉が適切に働いていなかったり、可動域が狭かったりすると、本来とは違う筋肉や関節に負担が集中し、痛みを引き起こすことがあります。日頃から運動をおこなっていて「自分は筋肉がある」と思っていても、“正しい筋肉”が使えていないことによって痛みや不調が出てしまうことは多々あります。
編集部
「正しい筋肉が使えていない」とはどういうことですか?
丸山先生
動作には本来使うべき筋肉がありますが、フォームが正しくても実際にその筋肉がきちんと使えていないことがあります。また、インナーマッスル(深層の筋)が働いたうえで、アウターマッスル(手で触れられる表層の筋)が働くのが理想とされますが、そのバランスが崩れてしまっていることもしばしばあります。その結果、別の部位に余計な負荷がかかり、慢性的な不調や痛みを招いてしまうのです。
編集部
年齢による影響もありますか?
丸山先生
加齢によって柔軟性が低下したり、骨の変形、関節の変性、筋肉量の減少などが生じやすくなったりします。ただし、画像所見上、骨や軟骨など体の構造部分に変化があっても、無症状の患者さんも多くいらっしゃいます。問題となるのは「柔軟性や筋力の低下」「筋肉がうまく使えなくなること」です。これは年齢に関わらず、非常に重要なポイントです。
編集部
加齢による影響も大きいのですね。
丸山先生
はい。加齢に伴って組織の耐久性や回復力が低下します。若い頃と同じ動きをしても、体が受ける負担やダメージは若い頃と同じではありません。そのため、年齢に応じた体の使い方や日常的なケアが必要になります。
専門家が自分の体に痛みを生じさせないために実践していること

編集部
体のことを熟知しているプロは、一体どのように痛みをケアしているのですか?
丸山先生
まず大切なのは、「痛みが出ないような生活習慣」を意識することが大切です。特別なトレーニングでなくても、隙間時間を使って身体を軽く動かすことでも効果的です。
・肩甲骨を意識した腕回し(肩より高く上げて動かす)
・背伸びをしながら体を横に倒す運動
・股関節のストレッチ(鼠径部や太もも裏のストレッチ)
・肋骨と背中を意識した深い呼吸
こうした簡単な動きでも、血流を促進することにつながり、ひいては関節や筋肉などの柔軟性を高めることや、インナーマッスルの改善が期待できます。
編集部
こまめに体を動かすことが大事なのですね。
丸山先生
はい。特に姿勢が崩れていることに気づいたら、すぐにリセットする意識が重要です。頭が上から引っ張られているような感覚で姿勢を保ちつつ、ゆっくり長く息を吐くことで、お腹のインナーマッスルである腹横筋が働きやすくなります。また、椅子に座っているときは、息を吐きながら地面を踏みしめるように意識すると、大腰筋が働いて体幹が安定します。こうした日々の小さな積み重ねが、痛みの予防と改善につながるのです。
編集部
そのほかにも、日常で意識していることはありますか?
丸山先生
首・肩こりを予防するには、生活リズムを整えることも欠かせません。毎日の食事や就寝時間をできるだけ一定にすることで体のリズムが安定し、自律神経のバランスも保たれやすくなります。また、自分がどんな場面でストレスを感じやすいかを把握し、早めに対処する習慣を持つことも大切です。
編集部
痛みが出たときには、どうするのですか?
丸山先生
痛みが出たというのは、あくまで結果であるため、その背後にある原因を見つけることが大切です。ただ痛みに対処するだけではなく、「なぜ痛みが出たのか」を考えてみましょう。姿勢や動きの癖、関節の可動域など、自分の体を丁寧にチェックすることが重要です。原因に気づくことで、 同じ痛みを繰り返さない対策が見えてきます。
編集部
重点的にケアすべき体の部位はありますか?
丸山先生
人間は直立して生活しているため、体幹の安定が非常に重要です。体の土台となる下部体幹(腹部・骨盤・股関節)の機能がきちんとしていないと、脚や上半身に無理がかかり、姿勢の乱れや肩・首の不調にもつながります。下部体幹には重要な部位がたくさんあるので、何が1番重要かは言い切れませんが、あえて例として出すとインナーマッスルである大腰筋や腹横筋です。これらがしっかり働くことで、姿勢や動作は自然と安定します。加えて、肋骨の動きも大切です。肋骨の動きが悪くなると呼吸が浅くなり、無意識に体を力ませてしまうこともあります。肋骨をきちんとコントロールして動かすことができないことによって、肩こりや腰痛につながることも少なくありません。
体の痛みが出にくくするには?

編集部
関節や筋肉が痛くならないように、普段からできることはありますか?
丸山先生
まずは、こまめに動き、同じ姿勢を長時間取り続けないことが基本です。1時間に一度立ち上がる、軽く体を伸ばすなど、日頃のこまめな動作の積み重ねが痛みの予防につながります。可能であれば、無理のない範囲でインナーマッスルを鍛えるエクササイズや可動域を広げるためのストレッチも日常に取り入れるといいでしょう。
編集部
ほかにできることはありますか?
丸山先生
呼吸への意識もとても大切です。無意識で浅くなったり、止めてしまいがちだったりする呼吸は、知らず知らずのうちに体の緊張を生み出します。頭が上から引っ張られているような感覚で姿勢を保ちつつ、ゆっくり長く息を吐くことでインナーマッスルが使われ、力んでいたアウターマッスルの力が抜けて、リラックスと姿勢安定につながります。「運動していないのに肩がこる」という場合、じつは日常的に呼吸で体を力ませていることがあります。自分の呼吸が緊張を生んでいないか、意識を向けることも大切です。
編集部
仕事が忙しくて運動する時間が取れない人は、どうしたらいいのでしょうか?
丸山先生
忙しくても、休憩時間を利用してストレッチをしたり、通勤時間の歩行姿勢を見直したりすることで変わってきます。具体的には、信号待ちをしているときにかかと上げをしたり、デスクワーク中に肩甲骨を回したりするなど、まずは隙間時間に少しでも体を動かすよう心がけるのがおすすめです。しかし、それよりも大事なのは「忙しくて時間が取れない」ではなく、「忙しいけれど、体のこりや痛みを改善するために時間を確保する」というようにマインドを変えてみることです。そうすることで自然と体との向き合い方が変わり、症状が改善されることもあります。
編集部
日常生活での注意点はありますか?
丸山先生
座り姿勢の際の骨盤の傾きに注意をしましょう。スマートフォンやPC使用時など、骨盤を後傾させて座っている人が少なくありません。骨盤が後傾すると、自ずと背中が丸まり、頭が前に出て、猫背になりがちなので、どんなに姿勢を正そうしても、正すことができません。そのため、座り姿勢の際は、骨盤を立てて座る、つまり骨盤を前傾させるよう意識しましょう。ここで大切なのは、どのようにして骨盤を前傾させるかです。腰を力ませて骨盤を前傾させるのではなく、重心を前方にシフトさせ、脚に荷重し、脚で支えるようにすると腰に負担をかけることなく、骨盤を前傾させることができます。ただし、腰痛持ちの場合は、脚で支えるようにしても、腰に負担を感じることもあるので、無理せずに背もたれを使って座るのがよいでしょう。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
丸山先生
誰にでも、不調に陥りやすいパターンやウィークポイントがあるはずです。まずは自分の体調の変化や生活の癖を振り返り、自分なりに分析してみましょう。例えば「疲れると姿勢が崩れる」「忙しくなると呼吸が浅くなる」といった傾向に気づけると、それを改善するための手だてや突破口が見えてくることもあります。まずは自分を知ること、知ろうと努めることが、健康への第一歩です。ちょっとした意識の変化が、不調の改善・予防につながります。
編集部まとめ
「バランスの取れた食事」「リズムのとれた睡眠」「正しい姿勢」「適度な運動」「ストレスのコントロール」、こうした日々の小さな心がけの積み重ねが関節や筋肉への負担を和らげ、自律神経の働きを整えて健やかな体づくりへとつながっていきます。普段からの蓄積が健康の基盤となるため、無理なく続けられる習慣を身につけましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒152-0004 東京都目黒区鷹番3丁目6−8 学大 Y.Sビル3F |
| アクセス | 東急東横線「学芸大学駅」 徒歩1分 |
| 診療科目 | 鍼灸マッサージ |




