凍結卵子を「融解」する時にダメージはないの？ 医師が詳しく解説

矢野先生

「融解」とは、凍結保存していた卵子を常温に戻し、受精や培養が可能な状態に戻す工程を意味します。急激な温度変化をコントロールしながらおこなう繊細な作業で、正確な技術が必要とされます。

矢野先生

はい。融解時には細胞内の氷晶形成や浸透圧の変化により、卵子の構造が損なわれることがあります。特に未授精卵子は膜がデリケートなため、受精率や発育率が下がるリスクがあります。

矢野先生

卵子の変性、細胞膜の破損、細胞質の変質、染色体の異常などが報告されており、慎重な扱いが求められます。

矢野先生

一般的に受精卵（胚）の方が、凍結・融解に対する耐性が高いとされています。未授精卵子は構造が不安定であり、特に染色体や紡錘体が損傷を受けやすく、技術的な難しさが伴います。

矢野先生

理論的には起こり得ますが、実際にそのようなトラブルはほとんどないと考えてよいと思います。かつてアメリカのカリフォルニア州で、凍結卵子の保存タンクが故障する事故が起こり、賠償問題になったことがありますが、そうしたケースは非常に稀。日本ではそのような報告は聞かれていません。

矢野先生

もちろん卵子凍結に限らず、医療の領域で事故が起きる確率はゼロではありません。しかし、必要以上に心配することはないと考えています。

矢野先生

「長期保存された卵子は、融解後の生存率が低下することがある」という報告はあります。保存状態が安定していても、年数の経過による影響がまったくないとは言えず、使用前の説明が重要になります。

矢野先生

はい。凍結・融解の技術は施設ごとに経験や手法に差があり、成功率に影響します。施設選びは慎重におこなうべきです。

矢野先生

まずは信頼できる実績のある医療機関を選ぶことが大切です。また、クリニックでのカウンセリングでは凍結や融解の成功率、過去の事例などについてしっかり質問し、十分な情報提供を受けたうえで判断しましょう。

矢野先生

凍結卵子を使った生殖補助医療の実績は日本ではまだ少ないので、単純に成功率を比較することはできません。そのため、その施設の一般的な生殖補助医療（不妊治療）の実績がどうかを確認し、信頼できるところを選ぶことをおすすめします。

矢野先生

凍結保存には期限がある場合が多く、定期的に更新手続きが必要です。医療期間の多くは患者さんの自主的な申し出に任せており、うっかり更新手続きを忘れてしまった場合には、期限切れで卵子が破棄されるリスクもあります。そのため医療機関とのコミュニケーションを密におこない、スケジュール管理を怠らないことが大切です。

矢野先生

採卵にあたっての体調管理にも注意が必要です。年齢やホルモン状態によって卵子の質は異なります。凍結に適したタイミングを逃さないこと、凍結前の説明を十分に受けることが、将来のトラブル回避につながります。

矢野先生

日本では凍結卵子を使った生殖医療補助に関する歴史がまだ浅く、不明なことや不安なことも多いかもしれません。そのような中、2022年4月から生殖補助医療に保険適用が拡大されました。卵子凍結は自費診療となりますが、東京都など一部の自治体では助成金制度が始まっており、社会の情勢も刻々とうつり変わっています。これからの変化に目を向けつつ、一人ひとりが納得のいく選択をできるよう、正しい情報と冷静な判断が求められています。ぜひ、信頼できる医師とともにご自分のライフプランを考えてほしいと思います。