咳のタイプ別診断 痰・熱・喉の痛みの「あり」「なし」でわかる病気の違い【医師解説】

「咳が出る」と一口にいっても、さまざまな症状があり、痰が出る、熱もある、喉に痛みがあるなどの違いによってある程度、疾患の鑑別ができることもあります。そこで、宮澤内科・呼吸器クリニックの能美先生に疾患の違いによる咳のタイプや重症度、気をつけたい症状について、話を聞きました。

監修医師:
能美 詩穂(宮澤内科・呼吸器クリニック)
咳にもいろいろある

編集部
なぜ、咳が出るのですか?
能美先生
咳や痰は、体内に侵入したウイルスや細菌、ほこりなどの異物を体から追い出すために自然と起こる防御反応です。「自分はあまり痰が出ない」という人でも、気づかないうちに痰が出て飲み込んでいることは少なくありません。
編集部
咳でもゴホゴホというものやコンコンというものなど、いろいろな種類がありますよね。
能美先生
- 乾性咳嗽(かんせいがいそう):コンコン、ケンケンなどの乾いた咳のこと
- 湿性咳嗽(しっせいがいそう):ゴホゴホ、ゲホゲホなどの湿った咳のこと
これらは痰が絡んでいるか、いないかの違いがあります。痰が絡むと湿性、絡まないと乾性になります。
編集部
それぞれどのような原因があるのですか?
能美先生
乾いた咳が起きるのは、アトピー咳嗽、気管支喘息、胃食道逆流症などが原因となることが多いですね。そのほか、マイコプラズマ肺炎や間質性肺炎などで見られることもあります。一方、湿った咳が出るのはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺気腫、気管支拡張症、肺結核などで起きることがあります。
編集部
どのような咳が出るかだけで、疾患を鑑別することはできるのですか?
能美先生
いいえ。健康な人でも急にほこりを吸い込んだときや香りにむせたときなどに咳が出ることもあり、咳だけではなかなか疾患を鑑別することはできません。また、風邪やインフルエンザにかかったときは、初期には乾いた咳が出て、次第に湿った咳になっていくというように、病期によって変化するものもあります。そのため咳だけでなく、ほかの症状や所見を考慮しながら鑑別することが必要です。
咳に熱や喉の痛みが加わる場合にはどのような病気が考えられるのか?

編集部
咳だけでなく、熱や喉の痛みが見られることもあります。この場合にはどのような疾患が考えられるのですか?
能美先生
咳に加え、発熱や喉の痛みが見られる場合には、主に感染症が原因であると考えられます。たとえば風邪や新型コロナウイルス感染症などは、そのような症状を引き起こします。また、肺炎も発熱、咳、痰が主な症状であり、風邪と見分けるのが困難という特徴があります。
編集部
咳などの症状で受診した場合には、どのような検査がおこなわれるのですか?
能美先生
まずは聴診をおこないます。疾患の鑑別において聴診は非常に重要です。たとえば気管支喘息の場合には、特徴的な音が聞こえますし、気胸が起きている場合には呼吸音が聞こえないこともあります。
編集部
そのほかにはどのような検査をおこないますか?
能美先生
レントゲン、採血などをおこないます。レントゲンは肺炎、肺がん、気胸などの鑑別に役立ちますし、採血は肺炎の鑑別に有効です。また、FeNO(呼気中一酸化窒素濃度)を測定することもあります。これは吐いた息に含まれる一酸化窒素(NO)濃度を測定する検査で、気管支喘息の診断に有用です。そのほか、モストグラフといって気道の状態を評価する検査をおこなうこともあります。これは、COPDや気管支喘息の診断に有効です。
咳で受診する際の注意点

編集部
咳が続く場合や、咳だけでなく熱や喉の痛みがある場合には、どのような目安で受診すればよいでしょうか?
能美先生
一般に、咳が2週間以上続く場合には呼吸器科を受診することが勧められています。もちろん2週間以内であっても、咳のために夜眠れなかったり、仕事や勉強に支障が及んでいたりする場合には、早めに受診しましょう。
編集部
そのほか、「こんな症状が出たら要注意」というものはありますか?
能美先生
たとえば血痰や色の濃い痰が出る場合には要注意。肺がんや肺結核、非結核性抗酸菌症などの可能性が考えられます。また、熱がないのに咳が続くという場合は感染症、気管支喘息、COPDなどのほか、肺がんや肺結核の可能性も考えられます。そのほか胸痛を伴ったり、呼吸が苦しくなったりする場合にも早めに受診してください。
編集部
そのほか、咳で受診する際の注意点を教えてください。
能美先生
逆流性食道炎でも咳が出ることがあります。その場合、食事後や横になったときに咳が出やすくなるという特徴があります。また、高血圧の治療薬によっても咳が出ることがあります。もし高血圧で薬を常用している場合には、咳の症状で呼吸器科を受診する際に、おくすり手帳を持参するとスムーズです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
能美先生
咳や痰といった症状はつらく、日常生活にも支障をきたします。早く症状を改善するためにも専門科で早期に適切な診察、治療を受けましょう。昨今デジタル化した検査は多数あります。そんな中で、アナログと思われるかもしれませんが、聴診は何よりも大切です。たとえば、喘息では息を吐いたときにヒューヒューといった高い音が聞こえたり、COPDが増悪するとグーグーといったいびきのような音が聞こえてきたりします。冬場は厚着をしていたり、時には羞恥心もあったりするかと思いますが、診断に必要ですのでできるだけ聴診にご協力ください。
編集部まとめ
咳が長引くと仕事や勉強に集中できなくなったり、眠りが浅くなったりして生活の質が低下することもあります。困っていることがあれば、ぜひ呼吸器科へ相談を。また、どんなときに咳が出やすいかなど、日頃から症状を確認しておくと診断がスムーズに進むかもしれません。
医院情報

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| アクセス | 東急田園都市線「たまプラーザ」駅南口より徒歩3分 |
| 診療科目 | 内科、呼吸器内科 |



