「不育症」を引き起こす4大原因をご存じですか? 不妊症との違いや治療法も医師が解説!

妊娠はするものの流産や死産を繰り返し、出産まで至らないことを「不育症」と言います。流産を繰り返すことで自分を責めたり、抑うつ的になったりすることもあり、医療の介入が必要です。今回は不育症治療について、「はやしARTクリニック半蔵門」の林先生に、詳しく解説していただきました。

監修医師:
林 裕子(はやしARTクリニック半蔵門)
不育症とは?

編集部
まず、不育症について教えてください。
林先生
「妊娠は成立するが、流産や死産を繰り返して生児が得られない(出産できない)状態」のことを不育症と言います。例えば、1人目の子どもを正常に分娩しても、2人目、3人目が流産や死産となった場合には不育症となります。
編集部
不育症は珍しいのでしょうか?
林先生
いいえ、決して珍しいものではありません。統計によると、日本人において不育症は5%、3回以上の連続する流産(習慣流産)は1.1%の頻度でみられることがわかっています。現在、日本に不育症の人は約3.1万人おり、そのうち6600人が3回以上の流産歴を持つ不育症と推定されています。
編集部
不育症と不妊症は何が違うのですか?
林先生
妊娠を希望する健康な男女が避妊をせずに性交をしても、一定期間妊娠しない状態が不妊症です。つまり、不妊症の場合には「妊娠することが困難」ですが、不育症の場合には「妊娠はするけれども出産には至らないケースを繰り返す」という違いがあります。実際、不育症の女性は自然妊娠できることが多いことがわかっていますし、不育症と不妊症を合併して体外受精を受けているのは不育症の女性のうち、6.1%だったとする報告もあります。
編集部
不育症ではなくても、流産は起こり得ることだと思います。
林先生
そうですね。不育症ではない女性でも、流産は妊娠の最大の合併症であり、妊娠しても約15%の女性が流産するとされています。しかし、不育症の場合には流産や死産が繰り返すという特徴があります。それにより子どもを持つまでに時間がかかったり、強い心のストレスを抱えたりして、健康に害が及ぶこともあります。困っていることがあれば、ぜひ資格を持った専門家にご相談いただきたいと思います。
不育症の原因

編集部
なぜ、不育症は起きるのでしょうか?
林先生
「抗リン脂質抗体症候群」「子宮形態異常」「夫婦の染色体異常(均衡型転座)」「胎児染色体異常」が、一般的に不育症の4大原因とされています。不育症患者を対象とした研究によると、抗リン脂質抗体陽性例10.7%、子宮形態異常形3.2%、夫婦どちらかの染色体異常保因6%の頻度であり、約70%が原因不明だったということが判明しています。さらに研究を進めたところ、原因不明の約70%のうち、41%に胎児染色体異常のみがみられ、胎児染色体が正常であり、真に原因不明だったケースは25%であったことが報告されています。
編集部
それぞれの原因について、簡単に教えてください。
林先生
抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が産生され、血栓症による血流障害を起こす病気です。「妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡」などの臨床所見があり、検査基準を満たした場合に診断されます。
編集部
抗リン脂質抗体症候群は、どのような治療をおこなうのですか?
林先生
低用量アスピリン・未分画ヘパリン療法をおこなうことで、出産率は70〜80%に上がります。治療は妊娠4週から開始され、低用量アスピリン内服とヘパリン注射を開始します。
編集部
子宮形態異常とは?
林先生
生まれつき子宮の形が正常とは異なる状態のことを、子宮形態異常と言います。子宮形態異常が疑われる場合には経腟超音波検査をおこない、さらに追加で子宮鏡、子宮卵管造影、MRIなどの検査をおこなうこともあります。
編集部
その場合、どのような治療がおこなわれるのですか?
林先生
子宮形態異常のなかで最も多いのは、子宮内腔に壁が張り出して子宮を2つに分けてしまう「中隔子宮」というものです。中隔子宮の場合、子宮鏡下中隔切除術がおこなわれるのが一般的です。ただし、手術自体が流産を減少させるかどうかについてはまだ明らかにされていません。
不育症の治療法

編集部
夫婦の染色体異常(均衡型転座)というのは、どのようなことですか?
林先生
染色体均衡型転座とは、染色体の2カ所が切れて入れ替わることを言います。卵子や精子ができるときに、染色体の分配によって遺伝子の不均衡が生じると流産になります。
編集部
その場合、治療法はあるのですか?
林先生
均衡型転座保因者の流産に対する治療としては、体外受精によって得られた胚の細胞の一部を取り出し、染色体検査で不均衡ではないと診断された胚を移植することで流産を防止する「着床前診断」があります。転座を治すのではなく、不均衡な転座を持たない胚を選択するという治療法です。着床前診断により、流産率の減少が期待されます。
編集部
最後に、胎児染色体異常について教えてください。
林先生
胎児が持つ染色体に異常が起きることで流産や死産になるものです。そもそも、妊娠の15%に流産が起こり、そのうち50〜80%に胎児・胎芽の染色体異数性(数の異常)がみられます。多くが偶発的な染色体異常です。
編集部
その場合はどうしたらいいですか?
林先生
均衡型転座保因者の流産に対する治療と同様、胎児染色体異常の場合にも着床前診断が有効です。これにより、異数性のある胚を移植しないという選択をすることができます。
編集部
胎児染色体異常は、治療の必要がないのでしょうか?
林先生
検査の結果、特別な原因のない染色体異常であることがわかれば、薬剤などによる治療はおこないません。一定の確率で出産できるとされており、平均的な年齢の患者さんが妊娠した場合、2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できると言われています。
編集部
原因にあった治療法が必要なのですね。
林先生
そうですね。不育症は正しい検査や治療をすることで、妊娠出産に至ることは十分可能です。しかし、不育症の女性は自分を責めたり、自尊心が低下したりすることが多く、抑うつ、不安障害に悩む人も少なくありません。ご自分で「不育症ではないか」と思う場合は、ぜひ不育症の専門医にご相談ください。正しく適切な治療を受けることで、妊娠出産へのサポートが得られると思います。
編集部
検査は保険で受けられますか?
林先生
はい、検査は保険診療の対象になっています。もし気になることがあれば、気軽に専門医に相談していただければと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
林先生
不育症の患者さんでときどき見受けられるのが、「繰り返す流産で妊娠をためらってしまい、多くの時間を費やした結果、年齢が上がって今度は不妊に悩むようになってしまった」というケースです。そうしたことにならないよう不育症で悩む場合は、ぜひ適切なタイミングで受診するようにしましょう。検査によって原因がわかれば、医師から次の妊娠のサポートを受けられます。健康に妊娠・出産ができる年齢には限りがあるため、時間を無駄にすることがないよう、ぜひ早めに相談してほしいと思います。
編集部まとめ
不育に関する研究は進んでおり、有効な治療法も多く確立されています。不育症に悩んでいる人は、ぜひ医療機関でご相談を。その場合には「不育症認定医」といった専門家が在籍している医療機関を受診するのがおすすめです。
医院情報
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