「体外受精で後悔しないコツ」を専門医が解説 始める前に気をつけるポイントとは
体外受精は、不妊治療の中でも最も高度な医療技術を駆使する方法の一つです。この治療法に希望を抱きながらも、結果が伴わない場合や不安を感じる方も多いのではないでしょうか。体外受精で子どもを授かるためには、治療に関する正しい知識を持ち、医療機関選びや自身の心身の状態を整えることが大切です。本記事では、体外受精でよくある失敗例とその回避方法を放生先生のアドバイスとともに解説していただきました。
監修医師:
放生 勲(こまえクリニック)
体外受精のプロセスとその重要性
編集部
はじめに体外受精とはどのような治療か教えてください。
放生先生
体外受精は、自然妊娠と異なり、人工的に“体の外”で卵子と精子を受精させる治療法です。具体的には、4つの主要なプロセスがあります。まず、排卵誘発剤を用いて卵巣内にある数多くの卵子を成熟させます。これにより、自然妊娠で排卵される1個の卵子ではなく、複数の卵子を成長させることが可能になります。ただし、排卵前に採卵する必要があるため、排卵をストップさせる薬を併用します。
編集部
その後は何をおこなうのですか?
放生先生
次に採卵をおこない、卵巣から可能な限り多くの卵子を採取します。この時点での卵子の質が後の妊娠率に大きく影響します。その後、採取した卵子に精子をふりかけて受精させるプロセスに移ります。受精は自然な状態に近づけるために卵子の周りに精子を泳がせる方法と、元気な精子を卵子に直接注入する顕微授精という方法があります。
編集部
最後のプロセスについてもお願いします。
放生先生
最後に受精卵を培養します。培養期間は通常4〜5日で、胚盤胞と呼ばれる自然妊娠に近い状態まで育てます。この間に細胞分裂が進む中で、多くの受精卵が脱落しますが、質の良い胚を選んで移植します。移植後は子宮内で胚が着床し、妊娠が成立することを目指します。
編集部
医療機関の設備が重要と言われていますが、具体的にはどのようなものですか?
放生先生
例えば、タイムラプス培養器は、卵子を安定した環境で管理しながら細胞分裂の進行をリアルタイムでモニタリングできる最新設備です。この装置があることで、卵子に余計なストレスをかけずに培養できるため、胚盤胞まで成長する確率が上がります。また、培養士の技術や経験も大きな要因です。医師が採卵や移植を担当しますが、その間の胚の培養をおこなうのは培養士です。質の高い胚を育てるには、医療機関全体のインフラが整っている必要があります。
編集部
設備以外で注意すべき点はありますか?
放生先生
設備だけでなく、治療法やプロセスも妊娠率に影響します。例えば、強い排卵誘発をおこなうと、卵巣に過度な負担がかかり、結果的に良質な卵子を得られないことがあります。過剰な排卵誘発を避け、採卵前の卵巣の状態を整える「卵巣セラピー」をおこなうことで、卵巣の負担を軽減し、質の良い卵子を育てることが可能です。卵巣セラピーには、ビタミンDの補給やミネラルバランスの調整など、全身の健康をサポートするアプローチが含まれます。治療前の準備をしっかりおこなうことが、妊娠率を上げる鍵となります。
よくある失敗とその回避方法
編集部
体外受精で妊娠が難しい場合、どのような要因が考えられますか?
放生先生
最も大きな要因は女性の年齢です。卵子は年齢とともに質が低下し、妊娠率が著しく低下します。40歳女性の生産率(出産に至る確率)は10%、42歳では5%になります。このため、年齢が上がるほど、体外受精を成功させるのが難しくなります。また、医療機関の設備や治療の質の違いも大きな要因です。卵子の培養技術が低い場合、受精卵が胚盤胞に育たなかったり、着床が成功しなかったりするケースが増えます。
編集部
医療機関選びで失敗しないためのポイントについても教えてください。
放生先生
妊娠率や費用だけを基準にせず、医療機関の設備や技術力をしっかり確認してください。タイムラプス培養器が導入されているかどうか、培養士の経験や医師の治療方針が明確に説明されているかを確認することが重要です。また、医療機関が患者一人ひとりに合った治療計画を立てているかもチェックポイントです。信頼できる医療機関は、治療の進行や選択肢について丁寧な説明がおこなわれ、患者が納得した上で治療を進めることができます。
編集部
心理的な要因も影響するのでしょうか?
放生先生
心理的な要因も妊娠率に影響を与える重要な要素です。不妊治療は肉体的にも精神的にも負担が大きいため、ストレスやプレッシャーを抱えるとホルモンバランスが乱れ、治療効果が低下することがあります。治療中もリラックスして過ごすことを心がけ、治療を「人生の一部」として捉えることが大切です。例えば、治療を一時中断したタイミングで妊娠したというケースも珍しくありません。気持ちを切り替え、無理のないペースで進めることが成功への近道です。
妊娠率を高めるためにできること
編集部
妊娠率を高めるためにできる具体的な行動はありますか?
放生先生
健康的な生活習慣を維持することが、妊娠率向上の基本です。バランスの取れた食事を心がけるとともに、適度な運動で体調を整えることが重要です。特に、ビタミンDや亜鉛、銅のバランスを意識したサプリメントの摂取が推奨されます。また、妊娠を急ぐあまり、自分を追い詰めるのは避けましょう。夫婦で支え合いながら治療に向き合うことで、妊娠につながりやすくなります。
編集部
治療に行き詰まった場合の対処法は?
放生先生
治療が行き詰まった場合は、セカンドオピニオンを求めることをお勧めします。また、治療を一時中断して心身を休めることも選択肢の一つです。心と体に余裕を持つことで、次の治療に向けて新たなエネルギーをチャージすることができます。治療を一時休止することでプレッシャーが軽減され、リフレッシュできて、自然妊娠する例も少なくありません。
編集部
心構えとして意識すべきことはありますか?
放生先生
妊娠は「追いかけると逃げていく」と言われることがあるくらいで、治療に没頭しすぎると、焦りやストレスが積み重なり、結果的にホルモンバランスや体のリズムに悪影響を与えることがあります。重要なのは、治療そのものを「目的」とせず、「夫婦で共に取り組むプロセス」として捉えることです。例えば、夫婦の絆を深めたり、妊娠以外の目標を持ったりすることで、気持ちに余裕を持つことができます。また、どんな結果でも自分たちの努力を肯定的に評価する心構えが必要です。心の余裕が、妊娠を呼び込む大きな鍵となります。
編集部まとめ
体外受精は、多くの夫婦にとって希望の治療法である一方、技術や設備、治療方針の違いによって結果が大きく変わる医療行為とのことです。放生先生のアドバイスにもあるように、適切な医療機関選びと生活習慣の改善、そして夫婦間の支え合い、そして心の余裕を持ちながら治療に向き合うことが大切なようです。本記事が、体外受精を検討している方々にとって、迷いや不安を解消する一助となれば幸いです。
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