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【不妊治療体験】「私だけじゃない」孤立を防いだSNSと、パートナーとの共有がもたらした安心感

 更新日:2023/03/27
【不妊治療体験記】「私だけじゃない」孤立を防いだSNSと、パートナーとの共有がもたらした安心感

最終的に母になることができたものの、1年以上、自然妊娠が叶わなかったうぇいさん(仮称)。不妊治療については、周囲から余計な気を遣われそうで、両親にも打ち明けていなかったそうです。その一方で、SNSを通じた情報発信はしていました。一見すると矛盾した「心情の吐露」には、どのような背景があったのでしょうか。約半年に及ぶ不妊治療の全貌を伺いました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年9月取材。

うぇいさん

体験者プロフィール
うぇいさん

プロフィールをもっと見る

東京在住、1988年生まれ。家族構成は夫と息子との3人暮らし。子どもを授かろうと思ったのは結婚式を終えたころ。1年間子どもを授からなかったことから不妊治療クリニックを受診。その後、仕事と両立しながら、不妊治療を続けた。

うぇい旦那さん

体験者プロフィール
うぇい旦那さん

プロフィールをもっと見る

東京在住、1993年生まれ。家族構成は妻と息子との3人暮らし。子どもを授かろうと思ったのは結婚して色々と落ち着いたころ。妻と不妊治療クリニックを受診するもこれといった原因はみつからず。現在、仕事に力を入れる傍ら、新米パパとして奮闘中。

鈴木 幸雄

記事監修医師
鈴木 幸雄(産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

不妊の原因が不明なまま体外受精へ

不妊の原因が不明なまま体外受精へ

編集部編集部

今回は不妊治療についてですが、お子さんを授かろうと思ったのはいつ頃からでしょうか?

うぇいさんうぇいさん

明確な時期は決めていませんでしたが、2人で結婚前から「子どもが欲しいね」という話をしていました。個人的な希望としては「自分が35歳になるまでに2人」でしたね。お互いに2人兄弟の家庭だったので、自然にそう考えていたのだと思います。ちなみに、結婚式の前後は夫婦共にフルタイムで就業していました。

編集部編集部

どういった経緯で「もしかしたら不妊では?」と感じたのでしょうか?

うぇいさんうぇいさん

2019年に結婚式を挙げて、その後から妊活を開始したのですが、1年を経ても妊娠しなかったので、その頃からでしょうか。悲観的な心境になったというよりは、私たちより後に結婚したカップルが次々と妊娠していくので、「今の状況を真剣に捉えようか」という考え方に変わっていきました。

編集部編集部

産婦人科などの受診をしたと思うのですが、原因についての説明はありましたか?

うぇいさんうぇいさん

夫婦共に色々な検査を1カ月ほどおこないましたが、特定の原因は見つかりませんでした。これという決め手がなかったので、必然的に「タイミング法→人工授精→体外受精」というステップの話題になっていきました。ちなみに、不妊治療の受診先は仕事休みの日にお世話になるかもしれないので、「自宅からの近さ」という立地で選びました。

編集部編集部

最終的には「体外受精」まで進んだのですよね?

うぇいさんうぇいさん

はい。タイミング法をおこなった後、4回の人工授精を試みたのですが上手くいかず、2回目の体外受精でようやく「妊娠」することができました。1カ月間の検査期間を含め、約半年の間毎月、何かしらの処置をしていたという流れです。

同じ境遇のSNSだからこそ共感が生まれる

同じ境遇のSNSだからこそ共感が生まれる

編集部編集部

続いて、不妊治療の進め方についてお聞かせください。途中で転院を考えたことはありましたか?

うぇいさんうぇいさん

転院はしていませんし、病院に対する不信感もとくになかったので、全く考えていませんでした。また、インターネットなどで通院先の実績を調べていましたし、担当医師が「できることとできないことをハッキリ告げるタイプ」だったので、私の性格に合っていたように思います。私から希望する方法をもちかけてみたのですが、「その方法は後でもできるので、今はこうしましょう」とリードしていただけました。私自身、色々とインターネットで調べすぎて“前のめり”になっていたようです。

編集部編集部

旦那さんに伺います。「こういう治療で進めたい」という希望はあったのですか?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

大変なのは妻ですから、彼女の考えを尊重しました。ただ、「わかった。じゃあ、“一緒に”その方法で進めようね」という共有の姿勢を忘れないようにしました。万が一、成功しなかったとしても、それは「夫婦の結果」なんだと思うようにしました。

編集部編集部

不妊治療中、何がネックでしたか?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

色々な検査を受けても原因が特定されなかったうえに、4回の人工授精でも結果が出なかったときは、先が見えなくなりかけました。費用を含めて、いつまで続くのかという不安ですよね。そして、体外受精という最終手段が残っているのですが、「まだ頑張れることがある」というプラスの感情と「体外受精でも上手くいかなかったらどうしよう」というマイナスの感情が混ざった複雑な気持ちだったことを覚えています。

編集部編集部

費用の話が出ていましたが、このタイミングだとまだ不妊治療の保険適用前ですよね?

うぇいさんうぇいさん

はい。保険適用前で、保険が使えるようになったのは2022年の4月以降です。東京都からの助成金を受け取って費用は約半額になったものの、治療費の負担はきつかったです。ですが、親に頼りたくないという気持ちがありました。不妊治療をしていることも打ち明けてはいませんでした。なぜなら、「余計な心配や気遣いをしてほしくなかった」からです。不妊治療をしていることがわかると、周囲の目線が良い意味でも悪い意味でも変わります。

編集部編集部

周囲の目線が変わる?

うぇいさんうぇいさん

そうなんです。例えば、受精のタイミングでは禁酒ということになっています。ですから、タイミング的に大丈夫な時期でも、気を遣われてか、飲み会には誘われなくなりますよね。逆に飲み会に参加していると、「また妊娠できなかったんだ」的な視線を感じるような気がしました。そのことで周りにも気を遣わせたくなかったので、職場にも打ち明けていません。ただ、さすがに上司には、排卵の時期次第でシフトを変えてもらう必要があるので相談していました。

編集部編集部

治療中、誰か心の支えになる人物はいましたか?

うぇいさんうぇいさん

インスタグラムでつながった妊活仲間でしょうか。SNSを始めたきっかけは単なる「記録メモ」だったのですが、同じ不妊で悩んでいるフォロワーさんが多くいらっしゃって驚きました。不妊治療が上手くいかないと、「普通に生理が来る」んですよね。そういう記録を取っていたつもりが、会ったこともないフォロワーの方から「私もです」と連絡していただくと、「自分だけじゃないんだ」という気持ちになり、とても支えられました。SNSは、有益な情報の取得先というより、純粋に心の受け皿・居場所でした。

編集部編集部

旦那さんもSNS活動に参加していたのですか?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

妻ほどではないですが、ときどき投稿していました。例えば、医師から助言を受けて意識して取り組んだ「サプリメント情報」などは反響がありました。また、陰部が蒸れないように下着をブリーフからトランクスに変えたことを報告した際にも「うちのパートナーにも共有しよう」という反応が多くありました。

妊娠・出産はゴールではなく、子育てへのスタートライン

妊娠・出産はゴールではなく、子育てへのスタートライン

編集部編集部

そして、めでたく妊娠となるわけですが、そのときの印象は?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

とても嬉しくて興奮したと同時に、変に顔がひきつったことを覚えています。むしろ「出産」という本番が見えてきて、本当のゴールを知らされたというのか。この瞬間を失わないためには、何が必要なのかと考えちゃいました。「妊娠からがスタート」という気持ちはありましたね。

編集部編集部

いずれ、子育てというステージも待っているはずです。

うぇいさんうぇいさん

はい。私自身、不妊治療を経験したことからどうしても妊娠・出産がゴールに感じていましたが、実際に子育てが始まるとここがスタートだったと思い知らされました。ただ、忙しく慌ただしい毎日も、夫婦で心から願った生活だからこそ前向きにとらえて乗り越えることができています。

編集部編集部

旦那さんはどうでしょうか? 男性目線で構いません。

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

妊娠や出産は妻が「主役」です。男性からしたら、主役の負担をパートナーとしてどう支えていくかがポイントだと考えます。とくに不妊治療は「妊娠が叶わない」という落ち込みからスタートします。2人で落ち込むと“沼”ですので、意識してでも「陸地に立って引き上げる存在」にならないといけないですよね。物理的にはどうしても男性にやれることは少ないので、「私たちは妊娠して、子育てするのだ」という前向きな気持ちでサポートに徹しました。

編集部編集部

続けて旦那さんに伺います。出産に立ち会ったときの印象は?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

じつは、コロナ禍によるお見舞い規制で出産には立ち会えませんでした。妻は帝王切開で別途、入院していたのですが、その間も含めて会えませんでした。我が子に会ったのは、退院して妻の実家に行った日になります。あの瞬間は忘れません。

編集部編集部

治療を経て、夫婦の絆に何か変化はありましたか?

うぇいさんうぇいさん

新型コロナウイルスで会えなかったことが、良い意味の緊張感や見えない絆を築いたのかもしれません。夫と自由に会えないのは残念なんですけど、逆に会えたときを大切にしよう、思っていることをきちんと伝えようと。相手をより意識することで、強く正直になった印象です。もちろん、電話などの連絡は日々取り合っていて、一定の支えになりました。

編集部編集部

思うように「会えないこと」に対して、旦那さんはどう捉えていましたか?

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

電話だけだと「支えている感」はなかったですね。ただ、後で知ることになるのですが、SNSと一緒で「電話だとしても、妻に居場所がある」ということが大きかったようです。何かを解決する必要はなくて、受け皿として居続けることが大切なのかもしれません。

編集部編集部

実際に不妊治療を経験した身として、国や医療従事者へ望むことはありますか?

うぇいさんうぇいさん

私たちは間に合いませんでしたが、不妊治療が保険適用されたことで、今まで以上に困っている人に適切な治療が届くよう望んでいます。受診のハードルは間違いなく以前よりも低くなると思います。ただ、費用負担の点はありがたい一方で、実際の運用面が今後どうなるのかが気になります。「不妊治療を知られたくないので、クリニックに行きたくない」という層も一定数いらっしゃるでしょうし、必要な人がきちんと治療を受けるにはまだまだ課題がありそうですね。

編集部編集部

これから不妊治療をはじめる夫婦、もしくは治療中の夫婦へメッセージをお願いします。

うぇいさんうぇいさん

人それぞれでしょうが、私は周囲からの“妙な気の遣われ方”が重荷でした。その意味で、そこまで人的交流の少ない割に同じ立場の「SNSのフォロワーさん」は、気が楽でしたよね。良い思い出になっています。また、感情のコントロールに困ったら不妊治療の不成功をできるだけ「楽しいイベント」に置き換えてみることはいかがでしょうか。私たちは生理が来たら、思いっきりお酒を楽しんだり、お寿司を食べに行ったりと、妊娠できなかったからこそできることを探していました。

編集部編集部

旦那さんからも一言お願いします。

うぇい旦那さんうぇい旦那さん

不妊治療は「夫婦とも同じ熱量であること」が難しいですがベストだと思います。不妊治療のゴールは妊娠にとどまらず、子育てまでシームレスです。これから夫婦で不妊治療に取り組む方々が、実際に子どもが生まれてからも協力しあえる関係性を不妊治療中から構築できる状況、環境であることを願っています。

編集部まとめ

親しい間柄だからこそ、気持ちを汲もうとしてしまう。こうした配慮は、良い方向にも悪い方向にも動きえるようで、難しいですよね。その点、SNSは同じ境遇にいる「他人」と出会える場です。うぇいさんの場合「良い思い出になっている」とのことでした。また、うぇい旦那さんの「何かを解決する必要はなくて、受け皿として居続ける」という姿勢も秀逸でした。受け皿であっても、支えになっていたに違いありません。

この記事の監修医師