入浴後の保湿は3分間が勝負! アトピー改善に保湿が欠かせない理由はご存じですか?
現在、アトピー性皮膚炎に悩まされる子どもが増えています。症状の改善のため、さまざまなことを努力している保護者も多いと思いますが、その中でも大切なのは保湿。特に「入浴後の保湿は3分間が勝負」と言われますが、その意味とは? 武蔵小杉皮ふ科の山本先生に教えてもらいました。
監修医師:
山本 亜偉策(武蔵小杉皮ふ科)
アトピー性皮膚炎はなぜ発症するのか?
編集部
アトピー性皮膚炎はなぜ、発症するのですか?
山本先生
考えられる原因は主に三つあります。一つが皮膚を守るバリア機能の異常。二つ目がアレルギー免疫反応。そして三つ目が皮膚のかゆみです。
編集部
それぞれ詳しく教えてください。
山本先生
アレルギー体質は一部、遺伝が関係していることがわかっています。たとえば親がアトピー性皮膚炎や気管支喘息である場合、子どももその体質を受け継ぎ、アレルギーを起こしやすくなることがあるのです。ただし、親がアトピー性皮膚炎だからといって必ずしも子どもも発症するわけではなく、食生活や生活習慣、生活環境などさまざまな要因が重なって発症するとされています。
編集部
「皮膚を守る機能が低下する」とはどういうことですか?
山本先生
皮膚の表面は角質層で覆われており、その表面は皮脂膜という油の膜で覆われています。皮脂膜はトリグリセリドや遊離脂肪酸、スクワランなどで構成されており、肌を潤しながら外部からの刺激をブロックしたり、皮膚の水分が蒸発するのを防いだりする働きを担っています。しかし、アトピー性皮膚炎の肌では皮脂膜や角質層の機能が低下しており、バリア機能が弱まっています。そのため、外部からの刺激で肌が炎症を起こし、かゆみなどの症状が出現してしまうのです。
編集部
なぜ、皮脂膜や角質層の機能が低下しているのですか?
山本先生
さまざまな原因が考えられます。たとえば最近の研究で、フィラグリンというタンパク質が少ないと皮膚の中にある天然保湿因子という保湿成分がしっかり産生されないことが明らかになったことから、フィラグリンの遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の発症の一つの原因ではないかと考えられるようになっています。そのほか、角層内部の水分を繋ぎ止める働きを持つセラミドが不足することで、肌から水分の蒸散が盛んになり、細胞の間に隙間ができることも、バリア機能が低下する原因となっています。
保湿が重要と言われるのはなぜ?
編集部
アトピー性皮膚炎では保湿が重要と言われるのはなぜですか?
山本先生
皮膚のバリア機能が低下すると皮膚からどんどん水分が蒸発し、乾燥肌になってしまいます。さらに乾燥するとかゆみが増し、掻きこわすことでますますバリア機能が破壊されて乾燥が進むというような悪循環になってしまいます。そのためアトピー性皮膚炎では保湿が重要なのです。
編集部
どうやって保湿したら良いのでしょうか?
山本先生
主にワセリンやヘパリン類似物質、ヒルドイドなどといった保湿剤を使います。市販もされていますが、医療機関で処方してもらうこともできます。これらの保湿剤を1日に数回に分けて使用します。
編集部
保湿剤でアトピー性皮膚炎を治すことはできるのですか?
山本先生
いいえ、保湿剤はあくまでも皮膚の乾燥を改善するためのものです。アトピー性皮膚炎による炎症や、それに伴うかゆみなどの症状を改善するには、ステロイドをはじめとする治療薬や、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬などの内服薬を使用する必要があります。
編集部
保湿剤を使うときのポイントはありますか?
山本先生
アトピー性皮膚炎の治療のポイントは、皮膚を清潔にし、皮膚を労わるスキンケアを行うということ。そのため毎日シャワーや入浴をして、皮膚についた埃やハウスダスト、細菌などの異物をきれいに洗い流すことが必要になります。しかし、シャワーや入浴のあとにはそのままにせず、すぐに保湿をすること。そのままにしておくとたちまち皮膚が乾燥し、ますます症状がひどくなってしまいます。
症状改善のための生活習慣のヒント
編集部
入浴後の保湿はどんなことに気をつけたら良いでしょうか?
山本先生
必ず気をつけてほしいのは、保湿のタイミングです。入浴後の皮膚からは水分がどんどん蒸発しており、乾燥しやすくなっています。そのためお風呂から上がったら、できるだけ早く保湿をすることが重要です。
編集部
「入浴後の保湿は3分間が勝負」という言葉も耳にします。
山本先生
そうですね。特に冬はお風呂場と脱衣所の寒暖差が大きいため、お風呂から上がるとどんどん水分が失われていきます。そのため、脱衣所で体を拭いたらすぐに保湿をすることが大切。3分と言わず、できるだけ早く保湿をして水分の蒸発を防ぎましょう。
編集部
その際にはどんな薬を使ったら良いのですか?
山本先生
保湿剤には、皮膚からの水分喪失を防ぐものと皮膚の水分を保つものの2種類があります。よく知られているワセリンは皮膚をコーティングして、水分の蒸発を防ぐ効果があります。一方、ヘパリン類似物質は皮膚が水分を離さないよう、水分保持を助ける効果があります。簡単にいうと、ワセリンはラップのようなものであり、皮膚の表面を覆って乾燥を防ぎます。一方、ヘパリン類似物質には水分を補う力があります。ただし、乾燥がひどい場合にはヘパリン類似物質とワセリンを重ね塗りすることもあります。両方使ってみて、合った保湿剤を継続することが大事です。
編集部
そのほか、日常生活で気をつけるべきことはありますか?
山本先生
先述のお風呂上がりだけでなく、肌を乾燥させないようこまめに保湿をすることが大事です。また、保湿薬を塗るときにはゴシゴシこするような、皮膚に摩擦を与えるのを避けて、優しく手のひらで伸ばすようにしましょう。
編集部
入浴やシャワーで気をつけることはありますか?
山本先生
熱すぎるお湯は肌の乾燥を加速させます。適温に調整するようにしましょう。また、石鹸やシャンプーは香料や合成添加物、界面活性剤などができるだけ含まれていない、肌にやさしいものを選ぶようにしましょう。
編集部
保湿が本当に大事だということがよくわかりました。
山本先生
現在、アトピー性皮膚炎に対する保湿剤はたくさんの製品が市販されているので、どれを選んだら良いか迷う人も多いかもしれません。選ぶ上での原則は「使用感が良いもの」「価格面などを考慮して継続しやすいもの」を選択するということ。一般に、弱酸性のものは比較的刺激が少なく、好ましいと言われていますが、そもそも肌の状態はこまめに変わるものです。ある時は乾燥が激しく、またある時は炎症が強いということも少なくありません。そのため、そのときの自分の症状を考慮しながら、保湿機能が優れたものを選ぶべきか、あるいは、抗炎症成分などが配合されているものを選ぶべきかなどを検討すると良いでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山本先生
これらの保湿やスキンケアを毎日行っても、症状が改善しない場合は、医療機関での治療が望ましいと思います。近年、アトピー性皮膚炎の領域において多くの新薬が登場しました。非ステロイドの抗炎症作用がある塗り薬や、生物学的製剤(注射)、JAK阻害薬(飲み薬) などさまざまな種類があります。現在、行っている治療で良くならない方には、より根本治療に近い、新しい治療も選択することができます。アトピー性皮膚炎でお困りの方は、ぜひ、皮膚科専門医がいるクリニックにご相談ください。
編集部まとめ
強いかゆみに悩まされることも多いアトピー性皮膚炎。症状が強ければ日常生活に支障が生じることもあるかもしれません。症状に困っているときには、まず保湿をしっかりすることが肝心。それでも改善できない場合には早めに専門医に相談するようにしましょう。
医院情報
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アクセス | 東急東横線・目黒線「武蔵小杉」駅より徒歩1分 |
診療科目 | 皮膚科 |