【実物初公開】佐野慈紀「糖尿病」で手足切断。合併症で「壊死した指」とは(2/2ページ)
佐野慈紀、糖尿病で合併症の連続。“命の危機”乗り越え障害抱えた現在の姿
薗田先生
糖尿病の治療をして生活習慣も改善したにもかかわらず、血糖コントロールがつかなかったのですか?
佐野さん
HbA1cが11%を超えた後、薬をもらうために定期通院をしていました。血糖値は350mg/dLから200mg/dL程度に下がったものの、200mg/dLを切ることはなく、インスリン治療を始めました。その約2年後、肺に水が溜まっていると言われ、身体も辛いと思ったら心不全を発症しており、緊急入院したことがありました。約1年間で5回も心不全を起こしました。
薗田先生
心不全のコントロールがすごく難しかったのですね。
佐野さん
初めて心不全になったときに心臓バイパス手術の必要性があるかもしれないと言われましたが、風船(バルーン)を入れる手術をして血流は改善しました。しかし、その後も4回心不全になりました。
薗田先生
やはり遺伝の要素が強く関係していると考えられます。佐野さんの場合、おそらく狭心症または心筋梗塞の状態で細い血管を風船で膨らます治療を行ったと予想します。
佐野さん
心臓の病気と糖尿病が関係しているのですか?
薗田先生
心臓などの血管系と糖代謝、脂質代謝の異常には動脈硬化が関係しています。リスク因子としては、血圧とコレステロール、中性脂肪、タバコ、血糖値、遺伝も要因の一つと言われています。
佐野さん
そうなのですね。
薗田先生
佐野さんは腕と足の指を切断されていますが、右腕は利き腕ですよね。実生活への影響や足の状態はいかがですか?
佐野さん
足は中指を切断していますが、生活で大きな問題はありません。しかし、手と足を比べると、手だと小さな傷に気づきやすいですが、足の傷は気づきにくいと思いました。
薗田先生
おっしゃる通り、一般的に手よりも足の切断の方が圧倒的に多いですね。腕を切断しても、足は無事という方はあまり出会ったことがありません。
佐野さん
そうなのですね。具体的にどのような原因で切断になってしまうのですか?
薗田先生
合併症の一つである神経障害で足の感覚が無くなることに加えて、汗が出にくくなります。乾燥して、ひび割れや傷ができると菌が体に入ってしまい、感染を起こすことで切断に至る方が多くいらっしゃいます。
佐野さん
僕の場合は、石油ストーブの前でうたた寝して低温火傷したことがきっかけでした。通院治療をして治ってきていましたが、最終的には感染症にかかっており、その場で足の指を切断する必要がありました。
薗田先生
腕の切断は何がきっかけだったのですか?
佐野さん
人差し指の先に小さなかさぶたが2つほどできて、なかなか治らないことがきっかけでした。
薗田先生
何か治療はされなかったのですか?
佐野さん
入院中だったので血流改善のためにカテーテルで血管を広げる治療をしましたが、治りきらずに傷が広がり真っ黒になりました。感染症の可能性があったので毎日処置してもらいましたが、進行が早く、感染を止めるには指を切断するしかないと言われ、その場ですぐに2本切断することを決意しました。
薗田先生
その後は少し落ち着いたのですか?
佐野さん
イタチごっこのように感染が止まらず、腕にまで症状が広がってくると、自分の腕を見ながら「バイオハザードみたいだな」と思っていました。洗浄も痛いので地獄のような時間でしたね。
薗田先生
最初の指先はそこまで痛くなかったのですか?
佐野さん
痛くなかったです。
薗田先生
痛みを感じる神経が障害されていたのではないかと思いますが、腕まで上がってくると、かなり痛かったのではないですか?
佐野さん
すごく痛かったです。
薗田先生
指が黒くなってから腕の切断まではどのくらいの期間だったのですか?
佐野さん
指を洗浄し始めてから1週間で腕を切断しました。
薗田先生
早いですね。
佐野さん
感染を心臓に飛び火させないためには、腕を切断するしかない状態になりました。指先から始まって1週間かからない間に感染が腕まで広がっているので、考える猶予もなく即断即決で決める必要がありました。そうでなければ、最悪の場合は肩から切断することになると言われ、最終的に肘から下を切断することになりました。
薗田先生
似たようなエピソードは足の切断をする方でも多く見られます。
佐野さん
僕は透析をしていますが、糖尿病のほかの合併症にはどのようなものがあるのですか?
薗田先生
糖尿病の合併症で有名なのは「し・め・じ」といい「神経・目・腎臓」の3つの合併症があり、これらは血糖値が明らかに関連しています。加えて、大血管疾患の合併症として「え・の・き」といい「壊死・脳梗塞、脳出血・虚血(狭心症)」があります。「し・め・じ」は細い血管に関係しており「え・の・き」は太い血管に関係しています。
佐野さん
神経と腎臓は全然関係ないように思いますが、どういうことなのですか?
薗田先生
血糖値は細くて小さい血管に影響する特徴があります。具体的には、腎臓は細い血管でろ過作業をしていますが、神経の細い血管が障害されることと同様に、腎臓の細い血管も障害されて体の中の老廃物を外に出せなくなります。
佐野さん
ほかにはどのような症状がでるのですか?
薗田先生
身体の中の電解質、特にカリウムの数値が上がると不整脈を起こし、直接命に関わる場合や体調が悪くなるといった症状が出る場合があります。そこで、血液の中の余分な電解質を浄化するための透析が必要になります。
佐野さん
僕は最終的には透析することを決断しましたが、初めの頃は透析になったら「人生終わる」と思い「絶対嫌だ。透析は絶対にしない」と話していました。
薗田先生
その決断は本当に難しいですよね。
佐野さん
言い方は大げさかもしれないですが、生きるか死ぬかの選択で、生きたいのであれば、正しい選択をしないといけないと思いました。
薗田先生
週に3回透析をしているとのことですが、透析のある生活はとても大変ではないですか?
佐野さん
大変です。暇ですし痛いことをするわけでも無いので、最初のうちはとても長いと感じていました。僕の場合は肩の方からバイパスを通して透析をしており、針を刺すことはないので通常の方よりは痛くないです。
薗田先生
シャントは一回も作っていないのですか?
佐野さん
一度左腕に作りましたが、指先にささくれができて傷口がなかなか治らなかったことがありました。原因を探ると、血流がシャントの方に持っていかれている状態になっていて、壊死しないようにバスキャスカテーテルを作りました。
薗田先生
そうなのですね。透析は通常であれば、シャントを作る手術をして腕に2本大きな針を刺し、おこないます。
佐野さん
僕の場合は血管の構造的に作ることができず、腹膜透析に一瞬変えてみたことがありました。
薗田先生
腹膜透析もしていたのですね。透析には2種類あって、通常の血液透析と自分自身の腹膜を用いて浄化する腹膜透析があります。腹膜透析はいかがでしたか?
佐野さん
体との相性が良くなくて最終的にバスキャスカテーテルを作ることになりました。
薗田先生
そうなのですね。透析前と透析後でどのぐらい体重は違いますか?
佐野さん
2〜3kg程度です。
薗田先生
3L程度水分を抜くのですね。結構辛くないですか?
佐野さん
最近はきついです。最初の頃は透析後の体重を74kg程度にしていましたが、心臓のことも考慮しながら除水量を増やして、体重を下げ、今は透析後の体重は60kg程度です。
薗田先生
そうですよね。透析をしないと体の中に水が溜まってしまい、心臓に負担がかかってしまうので3L程度の水を抜いて体重を軽くする必要があります。心臓弁膜症はいつ頃から言われていたのですか?
佐野さん
2年前に足の治療が終わり、退院してから1週間経たないうちに、透析病院で「何か心臓チクチクするな」と思って大きな病院に戻り検査をしたところ心臓弁膜症の診断をされました。
薗田先生
実は糖尿病と透析と弁膜症はとても関連が深く、心臓弁膜症とは心臓を4つの部屋に小分けにしている心臓の弁が機能しなくなってしまう病気です。動脈硬化が原因で弁の周りが緩くなったり、透析によって体の中にカルシウムとリンが溜まってしまったり、リン酸カルシウムという石灰化成分のようなものが弁についてしまったりすることが原因の一つです。
佐野さん
透析も影響しているのですね。
薗田先生
そうなんです。糖尿病は関連する動脈の病態によって全身に傷がついてしまうことが一番の問題なので血管病などと呼ばれることもあります。
佐野さん
心不全で入退院を繰り返しているとき、糖尿病の合併症に対する恐怖心はほとんどありませんでした。改めて考えると、自分の体に寄り添うことができていなかったことが一番の問題だと感じました。
薗田先生
年1回の健診に行き血糖値とHbA1cを測るタイミングを作ることと、早期発見・早期治療が重要であると伝えたいです。
佐野さん
その通りですね。正直、病院に行くことは面倒くさいと思います。しかし、その面倒くさい1日だけでも寄り添うことが重要だとすごく思います。
薗田先生
佐野さんは今後やりたいことはあるのですか?
佐野さん
僕自身はここまでなってしまいましたが、落ち込んだり、ネガティブになったりしたくないと強く思います。自分は野球人なので、野球に関わることをやりたいと思った結果、左投げで投げることに挑戦したいです。子どもの野球に関わっているので、野球教室やキャッチボールで交流したいなと考えています。
薗田先生
最後に何か伝えたいことはありますか?
佐野さん
改めて糖尿病の怖さを痛感しました。健康を維持することは本当に難しくて、なかなかできないことですが、生きていく上では、寄り添うことがすごく大事で年1回、月1回でも、ちょっと自分でおかしいなと思ったら病院に行くことが大切だと思います。その1日が、その先の10年20年につながることを今となってすごく痛感しています。少しでも体が何かおかしいなと思ったら病院に行ってほしいと思います。糖尿病は本当に恐ろしいです。
編集部まとめ
今回、糖尿病や合併症の恐ろしさについて佐野さんのご経験をもとに対談していただきました。糖尿病は生活習慣だけでなく、遺伝や体質も影響することが明らかになってきています。また、血管病とも呼ばれ、放置すると命に関わる様々な合併症を引き起こすことがあります。一方で、自分の体に寄り添い、早期発見・早期治療を行うことが重要であると学ぶことができました。この対談を通じて、糖尿病とその予防についての理解が深まり、皆様の健康管理に役立てていただけることを願っています。