白内障手術によって「認知機能」が改善するってホント? 眼科医に聞いてみた
「白内障手術を受けると、視力が改善するだけでなく、認知機能にも良い影響がある」という研究結果が注目を集めています。視覚の回復が脳の働きに影響を与えるということなのでしょうか? そこで白内障やその治療法、白内障手術と認知機能について調べた研究結果などについて、川口前川眼科クリニック蕨院の林 雄介先生に解説してもらいました。
監修医師:
林 雄介(川口前川眼科クリニック蕨院)
白内障って?医師が解説!
編集部
白内障について教えてください。
林先生
白内障とは目の奥でカメラのレンズのような働きをしている「水晶体」が、白く濁ってしまう疾患のことです。水晶体は、本来はほぼ透明ですが、加齢とともに濁り、80歳代になるとほとんどの方に白内障が認められると言われています。
編集部
白内障になると、見え方にも影響が出るのですか?
林先生
そうですね。水晶体が濁ると、屈折度数が変化したり、光の散乱が起こったりするようになるため、視界のかすみ・ぼやけ、眩しく感じる、視力低下などの症状が出ます。
編集部
それは困りますね。
林先生
そう思いますよね。しかし、これらの症状は、本人も気が付かないほどごく軽度なところからはじまり、ゆっくりゆっくり進行するため、ある程度まで進んでも本人が全く気づいていない場合も多くあるのです。
編集部
では、どうやって気づけばいいのですか?
林先生
50歳以降くらいから、特に自覚症状がなくても、定期的に視力検査を受けることをお勧めします。そこで視力低下や見えにくさがあれば、前眼部診察や眼底検査などの精密検査を行い、これらの検査結果を踏まえた上で、白内障と診断されます。
白内障の治療にはどんなものがある?
編集部
白内障にはどんな治療法がありますか?
林先生
ごく初期であれば、点眼薬で様子をみることもありますが、あくまでも進行予防を目的とした対症療法なので、濁った水晶体が元に戻るわけではありません。症状を改善させる治療は手術加療のみとなります。行うのは濁った水晶体の代わりに、人工の眼内レンズを挿入する手術で、多くの場合日帰り手術が可能です。
編集部
どのような手術か、もう少し詳しく教えてもらえますか?
林先生
水晶体の周りにある「水晶体嚢」を切開し、濁った水晶体を超音波で乳化吸引して取り除きます。その後、新しい人工の眼内レンズを挿入します。手術自体は通常10~15分ほどで完了しますが、白内障の進行具合や目の状態によっては、もう少し時間がかかることもあります。
編集部
手術で痛みはないのですか?
林先生
手術前には点眼麻酔を行うため、手術中に強い痛みを伴うことはありません。傷口も非常に小さく目立たないですし、眼内レンズは一度挿入すると、一生使い続けることが可能です。
白内障手術をすると、認知機能が改善するってホント!?
編集部
白内障手術をすると、認知機能が改善するというのは本当ですか?
林先生
「改善することもある」と言われています。もともと「白内障の手術を受けた人は、受けていない人に比べて認知症が発症しにくくなる」といった研究データはあったのですが、最近の研究で、実際に手術後に認知機能が向上したケースが報告されています。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
林先生
例えば、順天堂東京江東高齢者医療センター眼科の研究グループが実施した研究があります。白内障手術を受けた75歳以上の認知症および軽度認知症患者88人に、白内障の手術前と手術後3カ月の時点で、「MMSE」という、認知機能レベルを調べる検査をしたところ、手術前に軽度の認知障害があったグループのMMSEスコアが有意に改善したと報告されています。
編集部
それはすごいですね。
林先生
そうですね。しかしこれはあくまでも「軽度の認知機能障害の患者さん」についての結果です。すでに「認知症」と診断されているグループでは、白内障手術の前後でMMSEスコアに統計学的な有意差は見られなかったとのことなので注意が必要です。逆にいうと、「認知症になる前の段階で白内障手術を受けるほうが、認知機能の改善が期待できる」と言えるかもしれません。
編集部
どうして、白内障の手術をすると認知機能が改善するのでしょうか?
林先生
まだ仮説の段階ではありますが、人間の五感による知覚(情報判断)の割合は80%以上が視覚によると言われていて、見え方が改善することで、同じものを見てもより多くの刺激を受けるようになったり、見やすくなることで、今までより積極的にものを見ようとするようになり、刺激が増えたりすることも一因でないかと言われています。また、見やすくなることで、見ることに伴う疲労が改善され、より集中力や注意力が維持しやすくなるといったことも期待できます。実際、今まで手術治療された方でも、ご家族などから「見えないときは一日中ボーっと過ごしていることが多かったのに、術後は積極的にテレビや新聞を見るようになり、より話をするようになった」と聞くこともあります。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージをお願いします。
林先生
白内障は日々少しずつ進行する疾患のため病状を自覚しにくい病気です。健康診断や眼科受診をすることで白内障をはじめ緑内障等の眼科疾患の早期発見につながることもあります。40歳を過ぎたら眼科検診を受けて目の健康維持につとめましょう。
編集部まとめ
近年の研究では、白内障手術を受けることが、認知機能の改善にもつながる可能性が示唆されているのだそうです。視覚情報が鮮明になることで、脳への刺激が増え、また視界がクリアになることで、日常生活の質も向上し、活動的な生活が送れるようになる点も大きなメリットです。白内障の早期発見のためにも、自覚症状がなくても定期的に眼科を受診するようにしましょう。
医院情報
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アクセス | バス停「イオンモール川口前川」下車 イオンモール川口前川店より徒歩1分 |
診療科目 | 眼科 |