「卵子凍結の妊娠」と「自然妊娠」の成功や流産の確率に違いはある?【医師解説】
医療技術の進化により、卵子凍結の成績も向上しています。一体、自然妊娠と卵子凍結ではどのような違いがあるのでしょうか? 妊娠の成功率の違いとは? Shinjuku ART Clinicの阿部先生に詳しく教えてもらいました。
監修医師:
阿部 崇(Shinjuku ART Clinic)
目次 -INDEX-
卵子凍結とは?
編集部
卵子凍結とはなんですか?
阿部先生
「卵子(未受精卵)凍結」とは受精前の卵子を、文字通り凍結することをいいます。不妊症治療として体外受精をする場合と同様に、排卵誘発剤を用いて卵巣内でいくつかの卵子を発育させ、採卵し、卵子を未受精の状態で凍結保存します。
編集部
なぜ、卵子を凍結する必要があるのですか?
阿部先生
未受精卵の凍結には、医学的適応と社会的適応という2つの考え方があります。医学的適応とは、がんや白血病などの悪性腫瘍の治療の過程で、薬の副作用により将来の妊娠する力が損なわれる危険がある場合に、前もって卵子を凍結しておくことをいいます。未受精卵を凍結することにより、患者さんが未婚であっても、また、パートナーが不在であっても、妊娠する力を温存できるというメリットがあります。
編集部
一方、社会的適応とはなんですか?
阿部先生
年齢が進むにつれて卵子の数が減少し、また、卵子の質が低下する可能性が高まります。そのため、今すぐには結婚や子どもを作る予定はないけれど、少しでも若いうちに将来に備えて未受精卵を凍結しておくというのが社会的適応による考え方です。
編集部
卵子凍結は何歳まで行うことができるのですか?
阿部先生
当院では、妊娠した際の母体、胎児への影響や凍結卵子の妊娠の可能性から卵子凍結は20~39歳までを基本として行っています。36歳以上になると凍結卵子数を20個以上増やしても出生率が上がらないと報告されていますので、卵子凍結を行うなら少しでも若いうちがよいと思います。また卵子凍結は妊娠のはじめの一歩であり、その後の妊娠、出産という流れを考えると、凍結卵子を用いて妊娠にトライするのも、できるだけ若いうちに行った方がよいと考えています。
卵子凍結の妊娠成功率
編集部
卵子凍結ではどれくらい、妊娠できる確率があるのですか?
阿部先生
日本産科婦人科学会の報告によると、2020年に行われた未受精の凍結卵子を用いた胚移植での妊娠率は29.0%だったことがわかっています。ただし、卵子を凍結した年齢によって妊娠の成功率は違い、年齢が若くなるほど数値は高くなることもわかっています。
編集部
自然妊娠と比較すると、どちらが妊娠成功率は高いのですか?
阿部先生
自然妊娠との単純な比較できませんが、一般的なタイミング法での妊娠率は15〜20%程度と想定されますので、胚移植ができれば凍結卵子を用いたほうが妊娠率は高くなると考えられます。
編集部
流産の確率に違いはありますか?
阿部先生
一般に、自然妊娠と卵子凍結による流産の可能性は、あまり違いがないとされています。しかし、卵子凍結の場合には、若い時に保存した卵子を用いるため、妊娠する時に高齢であっても、流産の可能性は卵子凍結を行った際の年齢相当に抑えることができます。
卵子凍結の注意点
編集部
卵子凍結を行うには、どのような注意点がありますか?
阿部先生
まず理解しておいていただきたいのは、卵子凍結が必ずしも将来の妊娠や出産を約束できるものではないということです。年齢や個々の条件により異なりますが、海外の研究によると、採卵から出産に至るまでの推移は採卵率(89.9~96.9%)、凍結融解後に受精に臨める率(86.0~96.8%)、受精率(71~79%)、着床率(17~41%)、胚移植当たりの妊娠率(36~61%)となり、最終的に卵子1個あたりの妊娠率は4.5~12.0%と報告されています。そのため、卵子凍結を行っても、確実に将来の出産へ辿り着けるわけではないということには注意しておく必要があります。
編集部
ほかに注意点はありますか?
阿部先生
卵子をどれくらいの数凍結すると、赤ちゃんを得られるのかはわかっていません。凍結保存しておいた卵子数と一人以上の赤ちゃんが得られる確率を年齢層別に見ると、凍結保存卵子の数が多いほどその確率は上昇していきますが、年齢によってその確率は変わります。36歳未満であれば、20個の卵子があれば70%、25個あれば95%の確率で一人以上の赤ちゃんを得ることができます。しかし36歳以上なら、20個の卵子でも一人以上の赤ちゃんを得ることができる確率は50%ですし、それ以上卵子があっても出産率はあまり高くなりません。
編集部
まだわかっていないこともあるのですね。
阿部先生
そうですね。若い時に凍結した卵子で妊娠しても、高齢妊娠の場合、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった母体の合併症や、それに伴う胎児の発育遅延や早産などのリスクも高まります。また、凍結することは多少なりとも卵子への負担となりますし、費用の問題も重要です。そうしたこともすべて考慮して、卵子凍結を選択することが大切です。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
阿部先生
現時点で妊娠する予定はなくても、卵子の質と量は時間とともに低下していきます。卵子凍結は将来の妊娠を約束するものではありませんが、正しい知識を持ち、卵子凍結も自身のライフプランの一つとして捉え、考えていきましょう。
編集部まとめ
生殖に関する医療は進化しており、卵子凍結の技術も向上しています。今の時点で妊娠や出産を希望しなくても、長期的な視点で考えると卵子凍結には大きなメリットがあるはず。女性に与えられた一つの選択肢として、卵子凍結を考えてみるのもよいかもしれません。
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診療科目 | 婦人科 |