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子どもを「水難事故」から守る! 救急医が語る水難事故の重症化を防ぐ方法とは

 更新日:2024/07/30
子どもを「水難事故」から守る! 救急医が語る水難事故の重症化を防ぐ方法とは

川や海での楽しい時間が、一転して命の危機に直面することもあります。水難事故は、子どもの死因でも非常に多くを占め、その背景には事前の準備不足や無防備な行動が潜んでいることも多いのです。水難事故を防ぎ、重症化を防ぐためにはどのような対応が必要なのでしょうか。今回は、水難事故の原因や防止策、重症化を防ぐ方法、緊急時の対応に至るまで、国際医療福祉大学救急医学講座教授の志賀隆先生に詳しく解説していただきました。

志賀 隆

監修医師
志賀 隆(国際医療福祉大学救急医学講座 教授)

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2001年千葉大学医学部卒業。学生時代から総合診療・救急を志し、東京医療センター初期研修後、在沖米国海軍病院,浦添総合病院救急部での勤務を経て渡米。米国メイヨー・クリニックでの救急研修後、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医として勤務。2011年東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長就任。2017年7月から国際医療福祉大学医学部救急医学講座准教授/同大学三田病院救急部長。2020年6月より現職。安全な救急医療体制の構築、国際競争力を産み出す人材育成、ヘルスリテラシーの向上を重視し日々活動している。

水難事故について知る

水難事故について知る

編集部編集部

はじめに、水難事故はどのような場所で起こるのか教えてください。

志賀 隆先生志賀先生

川や海で多く発生し、そのような場所に慣れていない方が巻き込まれやすいですね。例年、水難事故で最も多いのが「魚釣り中の事故」で、全体の約40〜50%に及びます。時季では夏場に多く発生しており、台風などの悪天候への注意が必要です。海の場合は、カレント(潮の流れ)に逆らい海岸に向かって動くことはとても危険で、カレントに対して横に動くと自然に海岸に戻れます。

編集部編集部

水難事故は子どもに多いのでしょうか?

志賀 隆先生志賀先生

子どもの水難事故は子どもの死亡原因の中でも多いものです。溺水は、世界中の小児および若年者における死因の上位10位以内に入っています。特に子どもが海や川で遊ぶ場合には、ライフジャケットの使用を強くお勧めします。私も子どもの頃、川で溺れそうになったことがありますが、水辺での活動は大人が必ず付き添うこと、大人であっても一人は危険であることも改めてお伝えしたいですね。警察庁の統計によると、令和5年夏期(7~8月)における水難事故は、水難者568人(前年対比70人減)、うち死者・行方不明者236人(前年対比8人増)。このうち、中学生以下の事故発生件数49件(前年対比1件減)、水難者106人(前年対比14人減)、うち死者・行方不明者16人(前年対比7人増)であったとのことです。

編集部編集部

どのような活動をしている人が水難事故に遭いやすいのでしょうか?

志賀 隆先生志賀先生

川や海で環境に慣れていない方が活動すると事故が起こりやすいですね。具体的には、魚釣りやマリンレジャー、船舶関連、水泳の順に割合が高くなっています。特に、お酒を飲んでの活動は避けるべきです。また、飛び込みもケガ(特に骨折や脊髄損傷)の原因になるため避けましょう。

水難事故で重症化する要因

水難事故で重症化する要因

編集部編集部

溺れてから「何分以上たつと危ない」という目安はありますか?

志賀 隆先生志賀先生

心肺停止から4分以内に心肺蘇生法を開始すれば,救命率は40〜50%といわれています。5分を超えると救命率は25%以下となり、救命の可能性が低い状態になってしまいます。

編集部編集部

水難事故に遭った人は、どのような臓器で問題が起こりやすいのですか?

志賀 隆先生志賀先生

一番はです。溺水した場合、誤って海水や淡水を飲み込んでしまうため、細菌感染による肺炎や化学性肺炎(肺に有毒な物質が入り込んで起こる肺炎)になりやすいのです。また、溺水により呼吸ができず、脳に必要な酸素が行き渡らないため、低酸素脳症という状態になる場合があります。さらに、冷水に長時間浸かっている事で低体温症になる場合もあります。

編集部編集部

溺れた人は、病院でどのような治療がおこなわれますか?

志賀 隆先生志賀先生

肺炎を発症している場合には抗菌薬を使ったり、酸素と投与したりして呼吸状態の回復を待ちます。重症の場合には気管挿管といって口からチューブを入れて麻酔により眠ってもらいICUに入院して人工呼吸器を用いて集中的な治療をおこなうこともあります。治療は、声かけに対する反応、脈拍の有無、呼吸音などに基づく溺水の重症度分類をもとにおこなわれる事も多いですね。

水難事故の重症化を防ぐための方法とは

水難事故の重症化を防ぐための方法とは

編集部編集部

志賀先生が水難事故に遭い治療された中で、とくに印象深かったエピソードを教えてください。

志賀 隆先生志賀先生

特に印象的なのは、沖縄でサンゴ礁がある浅い海に飛び込んで脊髄損傷になった方がいました。ほかには、沖縄で泳いでいたら失神してしまい浮いているところを助けられた人です。この方は溺れていた時間が短く、すぐにCPR(心肺蘇生法)が始められたため、意識が回復し、肺炎を発症した程度で済みました。また、お酒を飲んで川で泳いで溺れた方が、時間が経ってから心肺停止の状態で発見され、助からなかったという出来事もありました。悲嘆した親御さんの鳴き声が非常に心に残っています。

編集部編集部

溺れている人に遭遇したとき、私たちがまず取るべき行動について教えてください。

志賀 隆先生志賀先生

溺れている人を見つけた場合には、むやみに助けに行くのではなく、まずは助けを呼ぶことを考えましょう。ライフジャケットや浮き輪がなく、救助法に慣れていない場合にはペットボトルやTシャツ、ズボンなどを使って簡易の浮き輪をつくる方法もあります。もし海で溺れた場合には、カレント(潮の流れ)に逆らって海岸を目指すのではなく、カレントに従って横に移動していくことを覚えておきましょう。

編集部編集部

重症化を防ぐために、救出後の対応としてとくに気を付けることはありますか?

志賀 隆先生志賀先生

基本的にはABCの順番で対応します。Airway(気道確保)、Breathing(呼吸)、Circulation(循環)の順におこないます。具体的には、まず気道を確保し、呼吸と心臓の動き(脈拍)を確認し、その後心肺蘇生をおこないます。もし心肺停止の状態であれば、すぐに救急車を呼び、CPR(心肺蘇生法)とAEDで対応してください。その後、回復体位(横向きで、上側の手の甲をあごの下に入れ、下あごを軽く前に出して気道確保し、上側の脚を前に出した体位)をとって救急車を待ちましょう。

編集部まとめ

水難事故は、川や海での活動中に起こりやすく、子どもの死因でも高い割合を占めているとのことでした。事前の準備や安全な行動が不可欠で、ライフジャケットの着用やアルコールの摂取を避けることが重要です。また、子どもだけでの活動にならないように大人が付き添いましょう。万が一の場合には、早急な救助と適切な応急処置が生命を救う、重症化予防には非常に重要と教えていただきました。読者の皆様が、本稿をきっかけに水難事故を防ぐための知識を身につけて頂けますと幸いです。

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