小児がんとの闘いは克服後も続く! ~サバイバーに顕著な二次がんや合併症の早期発見対策~
筑波大学附属病院小児科医の福島先生によると、小児がんを克服した患者の8割弱に、なにかしらの合併症が生じるとのこと。本人や家族からしたら、「やっと治った」と考えていた矢先の試練でしょう。しかし、現実から目をそらさず、冷静に対処することが求められます。その傾向と対策について、詳しい話を伺いました。
監修医師:
福島 紘子(筑波大学附属病院 小児科医)
筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院小児科での研修医を経て、2015年から現職。2018年には、総合的な診療・相談の外来をセットでおこなう「小児がんサバイバードック」を開設。子どものころに闘病し、克服した命を守る活動に従事している。専門は小児血液腫瘍疾患。日本小児科学会認定専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本人類遺伝学会人類遺伝専門医。
健康診断では不十分、人間ドック並のウォッチが必要
編集部
まず、小児がんの罹患(りかん)数と治癒率について教えてください。
福島先生
国立がん研究センターが発表している2009年から2011年のデータによると、0歳から14歳をさす「小児がん」の罹患率は、10万人あたり12.3人となっています。日本の人口比にすると、毎年約2100人が小児がんと診断されている計算です。このうち、約8割の方が無事、治癒に至っているようです。
※参照:国立がん研究センター「小児・AYA世代のがん罹患」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0530/release_20180530_02.pdf
編集部
それでも、毎年400人以上が小児がんで亡くなっているのですよね?
福島先生
じつは、不慮の事故などを除くと、小児の病気による死亡原因の第1位は小児がんなんです。加えて、小児がんにかかった方は将来的に、二次がんや晩期合併症といわれる病気に罹患する傾向が強いとされています。小児がんの治療法そのものが、やむをえず合併症を起こすことも少なくありません。
編集部
小児がん治療そのものが合併症の原因に?
福島先生
そのとおりです。放射線治療や薬物による治療などが影響して、晩期合併症を引き起こしてしまうことがあります。これは、小児がん特有のものであるといえます。
編集部
晩期合併症を起こした患者は、小児がんとの関連性に気づいているのですか?
福島先生
人によりますね。合併症にかかりやすいことを自覚しているお子さんもいれば、完全に普段の生活へ溶けこめているお子さんもいます。せっかく楽しく過ごしているのに、病気の怖さを伝えて萎縮させてしまうのもかわいそうですよね。ですから、晩期合併症のリスクを声高に叫ぶのも考えものです。
編集部
しかし、本来なら闘病後の定期的な検診が必要だと?
福島先生
むしろ、人間ドックレベルの精密な定期検査を推奨します。必要に応じて、主治医と相談のうえ、各種オプションを追加してください。習慣付けするためにも、「人間ドックの日」を設けて、年に1度は受診していただきたいですね。オプションに関しては、必ずしも毎年の検査を必要としない項目があります。主治医と相談してください。
自分自身を「知る」、正しい情報に接する
編集部
もし、人間ドックを受けるとしたら、小児がんで受診した医療機関になるのでしょうか?
福島先生
受診しやすい最寄りの医療機関で構いません。ただし、「小児がんの晩期合併症」という観点が問われますので、検査結果を小児がんの主治医と共有するようにしましょう。引っ越しなどで、かつての主治医に相談しづらい場合は、改めて小児がんの専門医を見つけたほうがいいですね。
編集部
なにかしらの自覚があってから人間ドックを受けては、手遅れなのでしょうか?
福島先生
自覚が生じたら、検査というより、治療に進みます。なお、筑波大学附属病院で診療を受けた小児がん克服者に実施し、54名に回答いただいたアンケートによると、「人間ドックを受けたいと思っている人」は全体の90%を超えました。
編集部
みなさん意識が高いですね。説明をきちんと受けていたということでしょうか?
福島先生
アンケートの設問に、「子どものころ強い治療を受けた方は、長期的な合併症リスクが考えられます」という一文を加えました。そのうえで、人間ドックを受けたいかどうかですね。なお、アンケート回答者の中には、小児がんの告知を受けていないお子さんも含まれますので、あえて「強い治療」という表記にとどめました。
編集部
それでも、9割以上が人間ドックに関心をもったわけですよね?
福島先生
晩期合併症についての正しい情報を得られれば、健康管理の必要性に気づいていただけるということなのでしょう。ほかのアンケートでも、説明不足や情報不足に関するご不満が散見されました。医療従事者として「申し訳ない」と反省しています。
編集部
問題は費用負担です。予防目的だと保険が効かないですよね?
福島先生
小児がんで20歳以下の方は、治療や検査などに対して公的支援が受けられます。しかし、21歳以上だと、就職先の企業負担による健診や、おおむね40歳以上から開始される特定検診を除けば、原則として自費になってしまいます。企業主体の“健診”は健康かどうかのチェックであり、特定の病気を探る“検診”ではないですから、晩期合併症対策として不十分ですよね。
空白期を埋める、かかりつけ医との2人3脚
編集部
21歳から特定健診を受けられる40歳まで、ある種の費用的な空白期が生じてしまうのですね。
福島先生
そうですね。制度改正が望まれるものの、それがかなわない現状では、ぜひ、「かかりつけ医」をもつようにしてください。説明不足や情報不足がある程度は解消できますし、必要かつ効率的な検診のアドバイスも受けられるでしょう。
編集部
年代的に、健康意識が薄れる空白期でもあるような気がします。
福島先生
結婚や就職、マイホームの購入など、ライフステージに変化が訪れる年代ですからね。だからといって健康をおざなりにすると、ある日突然、晩期合併症がやってきます。その不安を、定期検診などで少しでも軽減していただけたら、医師としても嬉しい限りです。
編集部
費用負担としては、どうなってきますか?
福島先生
筑波大学附属病院小児科では2020年、「小児がんサバイバードック」の費用負担対策として、クラウドファンディングを申請しました。おかげさまで、184万7000円(達成率約123.1%)の支援をいただけました。晩期合併症が抱える問題点の周知をきっかけとして、医療政策の転換へ結びつけられるよう、これからも活動していきます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
福島先生
論点を端的に言えば、「定期検診へのモチベーションを、どう維持していくか」になるのでしょう。そのためには、正確な情報の共有が必要です。公益財団法人「がんの子どもを守る会」などのサイトを利用するほか、患者さんたちで新たに「サバイバーコミュニティ」を立ち上げてもいいでしょう。「つらい体験」を伴うので、情報共有には賛否両論ありますが、できるところから始めていきたいと考えています。
編集部まとめ
どうやら、日本の医療が想定している健康管理の道と、小児がんサバイバーがたどる健康管理の道は、それぞれに異なっているようです。その差異は、21歳から40歳までの空白期に顕著になって現れます。この間、費用の問題を含め、「どうやって検診を受け続けるか」が問われるでしょう。毎年約2000人、20年間で合計4万人の隣人が、制度的に見放されている現状。みなさんは、どう思いますか。
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