小児がん克服後にやってくる「晩期合併症」とは?

公開日:2020/09/12  更新日:2020/09/11

昨今、「がんサバイバー」という言葉を目にするようになってきました。各種がんと診断された人、治療中の人、がんとの闘病を無事に乗り越えた人たちを含む、「がん経験者」のことです。そのなかで、筑波大学附属病院小児科医の福島先生によると、小児がんサバイバーは、がんを克服しても「第二の闘病」が待っているそうです。大人のがんと同列には語れない小児がんの現状を、詳しく取材しました。

福島 紘子

監修医師
福島 紘子(筑波大学附属病院 小児科医)

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筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院小児科での研修医を経て、2015年から現職。2018年には、総合的な診療・相談の外来をセットでおこなう「小児がんサバイバードック」を開設。子どものころに闘病し、克服した命を守る活動に従事している。専門は小児血液腫瘍疾患。日本小児科学会認定専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本人類遺伝学会人類遺伝専門医。

年齢は10代でも身体は40代、小児がんにかかるとどうなるのか

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編集部編集部

先生のご専門は、「小児血液腫瘍疾患」ということですが?

福島先生福島先生

簡単に言うと、小どものがんや血液疾患、遺伝を専門にしています。また、2018年に「小児がんサバイバードック」を立ち上げました。仮に小児がんを克服したとしても、後日、さまざまな全身疾患に悩まされることが多いからです。

編集部編集部

「小児がんサバイバードック」とは一体なんですか?

福島先生福島先生

小児がんの患者さんが大人になってから発症する病気のことを「晩期合併症」といいます。この晩期合併症を早期に発見し、あわせて長期のフォローアップにつなげていくような検診システムです。

編集部編集部

小児がんの晩期合併症には、どんな病気があるのでしょう?

福島先生福島先生

まさに“さまざま”です。身長や体質などを左右する成長障害、不妊や甲状腺の機能に関わってくる内分泌障害心疾患ほか各内臓疾患呼吸器・循環器の疾患骨や歯の異常免疫低下による合併症、そして二次がんなどです。

編集部編集部

これらの罹患(りかん)率が、小児がんにかかっていない人よりも“高い”ということですよね?

福島先生福島先生

はい。わかりやすいイメージとしては、大人の生活習慣病が、“20年から30年”前倒しになって現れるといったところでしょうか。加えて、通常なら起こりえないこと、例えば、小児がんによって「足を切除するケース」なども生じえます。

がんや治療そのものが、成長を抑制することも

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編集部編集部

どうして罹患率が“高い”のでしょうか?

福島先生福島先生

まず考えられるのは、小児がんが「治る病気」になってきたことです。生き延びられる、つまりサバイバーできるからこそ、次の病気へかかる可能性が生じてきました。小児がんの治癒率は、現段階で、おおむね8割前後となっています。

編集部編集部

がんの治療方法が悪影響を与えることもありますよね?

福島先生福島先生

そのとおりです。挙げられる要因としては、やむを得ず放射線治療などを用いた結果、髪の毛が抜け落ちてしまうようなケースです。また、強い抗がん剤の使用なども同様ですね。命を優先すると、場合によっては、よく知られている副作用が避けられません。

編集部編集部

子どもならではの特徴はあるのですか?

福島先生福島先生

お子さんは“成長する”んですよね。放射線や抗がん剤は、正常な細胞の成長を抑制してしまうことがあります。また、小児がんが体の左右いずれかだけに発症していると、正常な側だけ発育しますので、体のバランスを崩してしまいます。大人は“育ち終えて”いるので、その点が、成人のがんと小児がんの大きな違いといえるでしょう。

編集部編集部

子どもならではの問題点を、もう1例ほどお願いします。

福島先生福島先生

考え方ひとつですが、高齢者なら、「治療せずに、余生と折り合いをつける」という選択肢もあります。ところが、余生の長いお子さんの場合、「治療して治しきる」ことが前提になるでしょう。つまり、より“副作用の強い”治療法を選択するケースが、十分に考えられるということです。

病気のことは医師に任せて、人生を楽しむ

病気のことは医師に任せて、人生を楽しむ

編集部編集部

小児がんを克服できたと思ったら、再び闘病生活が待っているとなるとご家族も心配ですよね?

福島先生福島先生

ご本人も含め、ご家族で晩期合併症の早期発見に努められればベストです。しかし、その前段階の「小児がん」という事実が大きすぎて、克服後の生活になかなか目を向けられないんですよね。元の小学校へ戻るといった「生活上の変化」も待ち受けていますから、晩期合併症をケアする余裕がもてません。

編集部編集部

でも、現実問題として、晩期合併症のリスクはあると?

福島先生福島先生

ご自身やご家族ですべてを抱え込もうとせず、少なくとも医療の問題は、かかりつけ医へ任せてしまいましょう。年に1回程度の定期検診だけ留意しておいて、なにかあったら、主治医から連絡が来るようにしておきます。それ以外の時間は、いつもどおりの生活を送ってください。もちろん、転校や引っ越しの際には、かかりつけ医の引き継ぎを推奨します。

編集部編集部

かかりつけ医をもつとしたらどうすればいいのですか? 筑波大学まで通うのは遠いと感じる人は多いと思います。

福島先生福島先生

小児がんを治療したドクターに、成人後のことも含めていろいろ相談してみてください。理想的なのは、成人疾患を対象にしつつも、小児の病気が把握できていて、なおかつ、小児がんサバイバーへの理解もあるドクターでしょう。しかし残念なことに、小児医療と成人医療の連携が、現時点ではうまく取れていません。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

福島先生福島先生

小児がんサバイバーの方は、1年365日のうち364日を元気に楽しく生活してください。ただし、残りの1日のみ、将来の健康管理のために使っていただけないでしょうか。我々医療従事者も、小児医療と成人医療の連携確保に努め始めています。ぜひ、ご一緒に、改めるべき点を改めていきましょう。また、知らない人にもこの現状を周知していけるように、引き続き活動をしていきます。

編集部まとめ

子どもは「成長すること」が仕事。しかし、その成長を妨げかねないのが、小児がんや晩期合併症ということでした。その意味で小児がんは、ほかのがんと一線を画す「固有の疾患」といえるのかもしれません。とは言え、日々不安に悩まされるのではなく、医師に任せられる部分は丸投げし、「年に1回程度の定期検診」を心がけてください。「元気に遊ぶこと」も子どもの仕事ですから、そのためにできることを実行しましょう。

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筑波大学附属病院

筑波大学附属病院
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診療科目 内科系全般、外科系全般