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「小児在宅医療」に立ち塞がる壁 増加傾向にある医療的ケア児の現状課題と展望

 公開日:2024/07/31
「小児在宅医療」に立ち塞がる壁 増加傾向にある医療的ケア児の現状課題と展望

現在、「医療的ケア児」が増えているといいます。医療的ケア児とは日常生活を送るために医療のケアが必要な子どものことをいい、小児在宅医療のニーズも高まっています。なぜ、医療的ケア児が増加しているのか、今後の課題などについて、みしま小児科クリニック青葉台の三島先生に聞きました。

三島 芳紀

監修医師
三島 芳紀(みしま小児科クリニック青葉台)

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2009年東京医科大学卒業後、東京医療センターなど、東京都および埼玉県内のクリニックにて勤務。2014〜2022年、国立埼玉病院(現・国立病院機構埼玉病院)で小児科医をしながら、朝霞中央クリニックにて小児在宅医を兼務。2023年4月、青葉台に「みしま小児科クリニック青葉台」を開業。日本小児科学会小児科専門医、PALSプロバイダー。日本小児科学会、日本小児腎臓病学会、日本小児皮膚科学会、日本小児救急医学会。

医療的ケア児とは?

医療的ケア児とは?

編集部編集部

医療的ケア児とは、どういう子どものことを言うのですか?

三島 芳紀先生三島先生

厚生労働省の定義によれば、「医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと」とされています。

編集部編集部

もう少し詳しく教えてください。

三島 芳紀先生三島先生

簡単にいえば、日常生活を送る上で手厚い医療が必要な子どものことを言います。ただし重症度は人によって異なり、ベッドで寝たきりの子どもから普段は自分で歩くことができる子までさまざまです。

編集部編集部

何歳くらいまでを指すのですか?

三島 芳紀先生三島先生

一般的には18歳未満の子どもを指しますが、高等学校などに在籍する場合には、医療的ケア児に含まれます。当院で在宅医療を行っている医療的ケア児は、平均すると8歳くらいです。

編集部編集部

医療的ケア児が最近、増加傾向にあると聞きます。

三島 芳紀先生三島先生

はい。厚生労働省の発表によれば、医療的ケア児は近年、増加傾向にあり、令和2年で一時減少したのを除き、平成25年以降はずっと増加しています。

なぜ、医療的ケア児は増加しているのか?

なぜ、医療的ケア児は増加しているのか?

編集部編集部

なぜ、医療的ケア児は増加しているのですか?

三島 芳紀先生三島先生

大きな理由は「日本の新生児医療技術が進歩している」ということにあります。これまでであれば、出生児の疾患や障害のために死亡してしまっていたかもしれない子どもでも、医療技術が進化したことにより、命を救えるようになりました。その結果、命をつなぐために医療的デバイスを必要とする子どもが増え、結果的に医療的ケア児が増加しているのです。

編集部編集部

医療的ケア児にはどのような医療サービスが提供されるのですか?

三島 芳紀先生三島先生

最も多いのは、「日常的に医療機関を訪れて診察を受けながら、必要に応じて訪問看護や在宅看護のサービスを受ける」というパターンです。

編集部編集部

そのほかには、どのような医療サービスが提供されていますか?

三島 芳紀先生三島先生

そのほか、小児在宅医療による医療サービスが提供される場合もあります。これは医師や看護師らが医療的ケア児の自宅などに出向き、必要とする治療や診察を行うものですが、現実的に、小児在宅医療を受けている医療的ケア児はわずか数パーセントにすぎません。

編集部編集部

医療的ケア児が増加していることで、どのような課題が浮上しているのでしょうか?

三島 芳紀先生三島先生

一番は、介護者の疲労です。たとえば、気管切開を行った子どもであれば24時間吸引を続ける必要があるため、介護者は慢性的な睡眠不足に陥る場合があります。また、子どもに緊急の事態が起きたとき、相談できる医療機関が非常に限られているという問題もあります。かかりつけ医に断られたら、相談先がなくなってしまうというケースは少なくありません。

編集部編集部

そのほか、どのような課題がありますか?

三島 芳紀先生三島先生

医療技術の進化により、医療的ケア児は以前に比べて長命になってきました。その一方、成長して学校を卒業したとき、居宅支援やデイサービスなどのサービスを活用しようと思っても「キャパシティの問題などで受け入れてもらえない」といったことがあります。つまり社会的資源が不足することにより、子どもが成長するにつれて受け入れ先が狭くなってしまうのです。

編集部編集部

確かに、介護生活に対して不安を感じる家族も多いようです。

三島 芳紀先生三島先生

そのため厚生労働省は令和3年、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)を成立させ、同年9月より施行しています。これにより、医療的ケア児の家族だけでなく、国や地方自治体も医療的ケア児の支援を行う責務を負うことが明言されました。

医療的ケア児をどうサポートすべきか?

医療的ケア児をどうサポートすべきか?

編集部編集部

医療的ケア児支援法が成立したことで、何か変化はありましたか?

三島 芳紀先生三島先生

一部では確かに成果も見られているようですが、現実的にはまだ多くの課題が残されています。

編集部編集部

どんな課題が残されていると感じますか?

三島 芳紀先生三島先生

医療における地域格差の問題が挙げられます。小児在宅診療など、医療的ケア児向けのサービスを提供する医療機関の数は、都市と地方では格差がありますし、また、多くの場合、医療的ケア児は普通の認可保育所には通えないため、親が仕事を辞めてつきっきりで介護をしなければならないといった問題も残されています。

編集部編集部

今後の展望はどのようにお考えですか?

三島 芳紀先生三島先生

今後、社会の高齢化が進むにつれて、高齢者向けの在宅医療に対するニーズはますます高まると予測されます。そうなると医療資源が高齢者の医療へ集中することになり、医療的ケア児のための在宅医療は、ますます手薄になってしまうことが考えられます。たとえば、小児在宅医療を行っている医療機関に対して診療報酬の点数を上げるなど、社会的な仕組みを見直さなければ、増加傾向にある医療的ケア児に対応することは難しくなっていくと思います。

編集部編集部

社会的に、限られた医療資源の上手な活用法を考えなければならないということですね。

三島 芳紀先生三島先生

はい、現在は法律に現場の体制が追いついていないという問題があります。たとえば、普段成人を診察している訪問診療の医療機関も、必要に応じて重症度の小児を診察できるようにするなど、医療資源の不足を補う方法を考えることが必要です。また、国や自治体が小児の在宅医療を行う医療機関へ、手厚い支援をすることも大切。そうすることが、結局は保護者のサポートにつながっていくのだと考えています。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

三島 芳紀先生三島先生

医療的ケア児を家族で介護していくのは大変なことだと思いますが、医療機関ではなくとも、訪問看護師やソーシャルワーカー、「保護者を支えたい」とがんばっている行政機関は必ずあります。また、家族会をはじめ家族同士のネットワークもありますし、当院のように小児在宅医療を積極的に行っている医療機関もあります。医療的ケア児の介護で疲弊している方はぜひ、家族のなかで閉じこもらず、いろいろな社会資源や家族同士のネットワークなどに助けを求めてほしいと思います。もし冷たい対応をされたとしても助けを求め続ければ支えてくれる人に必ず会えると思います。困ったことがあったらぜひ、周囲に目を向けてみてください。

編集部まとめ

増加傾向にある医療的ケア児に対する対処法は、家族だけでなく社会全体で考えなければならない問題です。国も法整備を続けていますが、医療的ケア児やその家族だけでなく、社会全体で見守る体制を作れるといいですね。

医院情報

みしま小児科クリニック青葉台

みしま小児科クリニック青葉台
所在地 〒227-0062 神奈川県横浜市青葉区青葉台2丁目2−2 キテラプラザ青葉台304
アクセス 東急田園都市線「青葉台」駅より徒歩1分
診療科目 小児科、小児耳鼻科、小児泌尿器科、小児皮膚科

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