「悪化したらまた来てください」の基準とは? 医師が教える救急外来帰宅後の判断
予期せぬ事態で救急外来での治療を受け、ホッとしたのも束の間、「このあとどうしたら良いの?」と不安を感じることがあります。救急外来の後の「再診」の基準は何なのでしょうか? この記事では、救急外来にかかったあとの行動や注意点などについて、高輪みつるクリニックの髙橋充先生に解説してもらいました。
監修医師:
髙橋 充(高輪みつるクリニック)
そもそも「救急外来」って? 専門医が解説
編集部
「救急外来」について教えてください。
髙橋先生
救急外来とは、主に急な痛みや苦痛症状、外傷などのいわゆる「急性疾患」の診療を専門とする部門です。通常のクリニックや外来では対応できないほど緊急性の高い急性疾患や、通常のクリニックや病院が閉まっている夜間などに治療や処置が必要になり、緊急性は中程度でも翌朝までは待てないという場合に利用されます。
編集部
どんな症状が「急性疾患」なのでしょうか?
髙橋先生
基本的には突然発症、あるいは早い経過で明らかに症状が悪くなっていく状態であれば「急性疾患」と言っていいと思います。「救急外来」や「救急科」は、内科や外科といった診療科にとらわれず、全身の症状に幅広く対応することができます。
編集部
例えばどのような対応でしょうか?
髙橋先生
まずは現在の状態や過去の病歴などから、必要な検査や処置を判断します。その処置や検査で症状が落ち着いて、それ以上の早急な処置の必要や継続的な状態観察の必要もないと判断された場合は、そのまま帰宅できます。
編集部
そうならない場合は?
髙橋先生
手術や継続的な治療、状態観察が必要と判断された場合は入院となり、また、さらにその病院で対応ができないような高度な治療が必要な場合は医療機関を移ることもあります。
救急外来から帰宅後… どうしたら良い?
編集部
救急外来でもいろいろ判断していただけるのですね。
髙橋先生
しかしながら、救急診療では原因がわからないことがあったり、一度の受診では診断がつかないことがあったりもします。例えば腹痛で受診された場合、急性虫垂炎や腸閉塞など、しっかりとした診断をつけることができるのは約7割と言われており、3割程度は原因を特定できないとも言われています。ほかにも、頭をぶつけた時、受診時には何も異常なかったのに、後になって頭痛や喋りにくさなどの症状が出現し、頭蓋内出血や脳挫傷が判明することもあるのです。救急の現場では、受診時の状況だけでなく、その後の症状の経過を合わせて評価して初めて確定診断できる場合も多くあります。
編集部
たしかに「何かあったらまた来てください」と言われることがあります。
髙橋先生
先述のように、受診時は何もなく「帰宅して大丈夫」と言われても、あとから症状が悪化したり、新たな症状が出現したりする場合があります。一度「大丈夫」と言われたからといって安心せず、再診することになるかもしれないという心持ちでいましょう。とくに、お子さんや高齢者がそのような状態になった場合などは、周りの方がマメに状態観察をするようにしてください。
編集部
「何かあったらまた来てください」ではなく「明日、〇〇科にかかってください」と言われることもありますよね?
髙橋先生
そうですね。例えば転倒して肘を打ち、動かせないくらい痛がっていて救急外来を受診した場合、レントゲン検査で骨折の有無をチェックしますが、レントゲンには写らない微細な骨折は、経過とともにズレが出現して、初めて判断可能となる場合もあります。また靭帯の損傷などがある場合は、ほとんどの場合、救急外来ではなく整形外科などで後日確認することになります。
「悪化したら」の基準とは?
編集部
「悪化したら」とは、具体的にどんな状態を指すのでしょうか?
髙橋先生
これは文字通り、症状がひどくなったらと考えて良いでしょう。また、救急搬送の時にはみられなかった新しい症状が出現してくることも「悪化」と捉えることもできます。
編集部
では「再診」の基準がありましたら教えてください。
髙橋先生
原則、受診した理由となった症状が、処置を受けた後や薬を飲んだ後でも徐々に強くなる場合は再診を考えましょう。とくに痛みに関しては、鎮痛剤をつかっても徐々に悪化していく場合は注意が必要ですが、逆に、風邪症状は薬を飲んですぐに症状がなくなるわけではなく、数日間をかけて良くなったり悪くなったりしながら改善していきます。どの程度の期間であれば自宅で様子を見ていいかの目安を前もって医師に確認しておきましょう。また、受診時になかったような症状が出る場合も再診が必要なことが多いですね。頭部外傷などの場合、帰宅後に何度も嘔吐したり意識が悪くなったりすることもあります。こちらも、どのような症状が出たらすぐに再診すべきなのかを確認しておきましょう。
編集部
なるほど。それぞれの症状などによって異なるのですね。
髙橋先生
風邪症状 | 喉が痛くて飲み込めない、声が出ない、咳や息苦しさのせいで横になれない |
おなかの症状 | 痛みが鎮痛剤を飲んでも改善しない、なんども吐いて水分も摂れない、便が赤くなる(血便が出る)、高熱が出てくる |
そのほかの内科的症状 | 突発的に生じる痛み、食事や睡眠などができなくなるほど症状が強い、ガタガタ震えてしまうほどの寒気 |
頭や神経の症状 | 突発的に起こる強い頭痛、繰り返して吐いてしまう、意識がおかしい、しゃべれない、左右どちらかの手足の動きがおかしい |
子どもや高齢者の症状 | いつもと様子が違う、食事や睡眠ができないほどの症状がある |
怪我など | 出血が持続し10分程度圧迫しても止まらない、鎮痛剤を飲んでも強い痛みがあり動かすことができない、ほかの場所が痛くなってくる |
ここでは書ききれない症状に応じた再診の目安はたくさんあります。大事なのは、どのような症状が出た場合に、どのくらい様子を見ても改善しない場合に再診すべきなのかを救急外来で確認しておくことです。
編集部
普段から、細かなことを把握しておいた方がいいのですね。
髙橋先生
そうしておくと安心ですが、全て把握しておくのは難しいと思います。お勧めは、普段から、かかりつけ医とコミュニケーションを取っておくことです。例えば当院では、風邪や頭部打撲、胃腸炎症状などで受診された場合に「帰宅指示書」という紙をお渡ししています。受診した時点で、最も想定される病態とそのほかにも考えられる病態、帰宅後に気をつけてほしいこと、次に受診すべき症状やタイミングなどを記載した書類です。医師から口頭で注意点などを説明されても、痛みがあったり気が動転していたりする中でその内容を覚えておくことは難しいと思います。帰宅して、自分や家族の症状が少し落ち着いた時でいいので「そういえば」と読み直していただければ、「こんなこと言われたな」と思い出しやすくなると思います。もちろん、帰宅指示書を用いても医療者の伝えたかった内容を完全に理解することはできませんが、「こんな時はどうすればいいのか」といった不安は少し軽減できるのではないかと思います。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージをお願いします。
髙橋先生
救急外来はたくさんの患者さんが来ますので、同時並行で複数の患者さんの対応している医師に質問しにくいこともあるかと思います。そんな時は看護師さんに質問してみるとよいかもしれません。救急外来の看護師さんは、知識も経験も豊富な人が多く、生活上のアドバイスや注意点もたくさん知っています。ぜひ質問してみてください。また、かかりつけ医には、救急外来の医師が知らない「これまでの経過」を知っている強みがあります。救急外来受診後の再診先として、「かかりつけの先生」も思い浮かべてみてください。必ず頼りになってくれます。
編集部まとめ
救急外来から帰宅後に「悪化したらまた来てくださいね」と言われることはよくありますが、その基準を理解しておくことが重要です。自己判断だけでなく、医師からの具体的な再診の目安や注意点をしっかりと聞いておきましょう。医療機関によっては、「帰宅指示書」などの文書をいただけるところもあるようです。早期の対応が重篤な事態を防ぐ鍵にもなり得ます。躊躇せず、パニックにならず、適切な行動をとれるよう、普段からかかりつけ医とのコミュニケーションを心がけましょう。
医院情報
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診療科目 | 救急科、一般内科、外科、脳神経外科、整形外科、小児科 |