「脳卒中」の初期症状・原因はご存じですか? 脳卒中の疑いで倒れたときの正しい対処法も医師が解説
「芸能人が脳卒中で倒れた」というニュースが報道されることもあり、脳卒中は怖い病気という認識は多くの人が持っていると思います。しかし万が一、自分の家族や知人が脳卒中を発症したら落ち着いて対応できるでしょうか? 今回は、脳卒中の症状やいざというときのために覚えておきたい対処法について、「関東脳神経外科病院」の清水先生に詳しく教えていただきます。
監修医師:
清水 暢裕(関東脳神経外科病院)
脳卒中の症状とは?
編集部
まず、脳卒中について教えてください。
清水先生
脳卒中とは脳血管障害の1つで、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つに分類されます。脳梗塞は脳の血管が詰まることで起こり、脳出血とくも膜下出血は脳の血管が破れることで発症します。
編集部
脳卒中というと非常に危険なイメージがあります。
清水先生
そうですね。脳卒中によって一度死滅した脳の細胞は元に戻らないため、後遺症として半身麻痺や言語障害が残ってしまったり、場合によっては死に至ったりすることもあります。現在、日本において脳卒中は寝たきりになる原因の第1位とされています。
編集部
なぜ、脳卒中を発症するのですか?
清水先生
脳卒中の原因は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のどれが発症したのかによって異なります。
編集部
まず、脳梗塞の原因を教えてください。
清水先生
脳梗塞は「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳梗塞」「ラクナ梗塞」という3種類に細かく分けることができます。アテローム血栓性脳梗塞は動脈硬化が主な原因であり、心原性脳梗塞は不整脈の一種である心房細動が主な原因となります。また、ラクナ梗塞も動脈硬化などが原因となって発症しますが、アテローム血栓性脳梗塞と違ってラクナ梗塞は脳の太い血管から分岐している細い血管が詰まることで起こります。そのほか、原因不明で脳梗塞が起きる場合もあります。
編集部
脳出血やくも膜下出血のように、血管が破れるタイプの脳卒中の原因はなんですか?
清水先生
脳出血にも様々な原因がありますが、多くの場合は動脈硬化や長年の高血圧によって、脳内の細い動脈が脆くなって破綻し、出血が起きることで発症します。一方、くも膜下出血は「脳動脈瘤(脳の動脈がコブ状に膨らんだもの)」が突然破裂することによって発症します。
編集部
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のなかで、最も多いのはどれですか?
清水先生
現在、日本で最も多いのは脳梗塞のタイプです。以前は脳出血が多かったのですが、高血圧治療が進んだことや、欧米型の食事が広まったことにより、脳梗塞が最も多くなっています。
脳卒中の初期症状
編集部
脳卒中を発症すると、どのような症状が表れるのですか?
清水先生
- 片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる(手足のみ、顔のみの場合もある)
- 呂律が回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
- 力はあるのにバランスが取れなくて立てない、歩けない、フラフラする
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
- 経験したことのない激しい頭痛がする
編集部
様々な症状があるのですね。
清水先生
ただし、細かく言えば、障害された脳の部位によって症状が異なります。脳梗塞と脳出血は症状がよく似ていますが、くも膜下出血の場合には突然、激しい頭痛が起きることが最大の特徴です。
編集部
頭痛が激しい場合は、くも膜下出血が疑われるのですね。
清水先生
「バットで殴られたような」と表現されることもあるような激しい頭痛が突然、起こります。多くが吐き気や嘔吐を伴い、意識が朦朧としたり、意識を失ったりすることもあります。
編集部
発症する前に前兆はあるのですか?
清水先生
多くの場合、前兆はありません。ただし、一部の脳梗塞では、同様の症状が一時的に表れることがあります。これを「一過性脳虚血発作(TIA)」と言い、発症後に脳梗塞を引き起こす可能性があります。また、くも膜下出血の場合には事前に「ものが二重に見える」「まぶたが落ちる」などの症状がみられることもあります。
脳卒中の疑いで倒れたら……緊急時の対処法を医師が解説
編集部
身近な人が突然倒れて脳卒中が疑われる場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
清水先生
一刻を争う状態なので、すぐに救急車を呼ぶことが大切です。また、救急隊員が到着したら「いつまで普通の状態であったか」ということを詳細に伝えましょう。もし倒れた瞬間を見ていなかった場合には、「知る限り、最後に元気だった時間」を伝えましょう。その時間によって治療法が変わるので、これらの情報はとても重要です。
編集部
そのほか、伝えることはありますか?
清水先生
既往症や現在服用している薬があれば、その内容も伝えてください。できればお薬手帳や、薬の現物を見せるといいでしょう。
編集部
救急隊員が来る前にやるべきことはありますか?
清水先生
倒れたときに体や頭を強く打っていないかを確認します。また、ネクタイやベルトなどを緩め、呼吸を楽にしてください。それから、水平に寝かせ、毛布などをかけて体が冷えないようにしましょう。
編集部
そのほかにも、気をつけることがあれば教えてください。
清水先生
風呂場やトイレなどで倒れた場合には、救急隊員が搬送しやすい場所に運び、安静にしてください。もし、家族がすぐ病院へ連れていける場合には、車で搬送しても構いません。ただし、本人が運転するのは危険なのでやめましょう。
編集部
どのような姿勢で寝かせればいいのですか?
清水先生
嘔吐した場合には、吐いたもので窒息することがないよう「回復体位」にします。回復体位は、横向けにして、上側の手を顎から顔の下に入れ、下顎を軽く前に突き出した姿勢のことです。これをすることで気道が確保され、呼吸が楽になります。体が後ろに倒れないよう、上側の足を前に出し、膝を90度くらい曲げておきましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
清水先生
脳卒中の治療は、時間との勝負。万が一発症した場合、できるだけすぐに治療を開始することが重要です。そのために重要なのは、脳卒中の初期症状について理解し、脳卒中を疑うのに必要な知識を身につけることです。いざというときの対応なども覚えておくと、身の回りの人が倒れたときに役立つでしょう。
編集部まとめ
脳卒中の治療は一分一秒を争います。もし身近な人が倒れた場合には、たとえ脳卒中かどうか判断がつかなくても、急いで救急車を呼びましょう。あわせて病気に対する理解を深め、動脈硬化や高血圧など脳卒中の危険因子を普段から改善しておく努力も必要です。
医院情報
所在地 | 〒360-0804 埼玉県熊谷市代1120 |
アクセス | JR「熊谷駅」 バスで20分 |
診療科目 | 脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科、内科、外科、放射線科、麻酔科、歯科口腔外科 |