「経口での妊娠中絶薬」の正しい使い方、安全性、費用などを医師が解説
人工妊娠中絶は、多くの女性にとって、そしてカップルにとって非常にデリケートでありながら、選択にタイムリミットもあるという複雑な問題です。さらに、方法にもいくつかの選択肢があります。そこでそのうちの1つで、2023年4月に承認されてから日も浅い経口中絶薬について、産婦人科医の矢谷達樹先生(たつきクリニック院長)に解説してもらいました。
監修医師:
矢谷 達樹(たつきクリニック)
妊娠中絶について産婦人科医が解説
編集部
妊娠中絶にはどんな方法がありますか?
矢谷先生
外科的処置である中絶手術と、内科的処置である経口中絶薬による方法があります。手術には「掻爬(そうは)法」と「吸引法」があり、さらに吸引法には手動での吸引(MVA/手動真空吸引法)と、機械を使った吸引(EVA/電動吸引法)があります。
編集部
2種類の術式について、違いなどを教えてください。
矢谷先生
掻爬法は、スプーン状の器具や鉗子で子宮内容物を掻き出す手術、吸引法はストロー状の器具で子宮内容物を吸い出す手術です。吸引法のほうが手術時間が短く、子宮内膜を傷つけるリスクも少ないということもあり、現在は掻爬法を行っている医療機関は少なくなっています。WHOでは吸引法の中でも細かな調整ができるEVAを推奨しています。
編集部
中絶手術は妊娠何週まで受けられるのですか?
矢谷先生
中絶手術が受けられるのは妊娠21週6日までと「母体保護法」という法律に規定されています。また「母体保護法」では中絶手術を受けるための条件なども細かく定められています。当院の場合は、12週未満(11週6日まで)をお受けしています。
経口中絶薬って何? 使える時期はいつまで?
編集部
経口中絶薬についても教えてください。
矢谷先生
海外ではすでにおよそ30年前から薬による中絶が一般的でしたが、日本では2023年4月に「メフィーゴパック」という経口中絶薬の使用が初めて承認されました。「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」という2つの薬剤を使用する方法で、日本では妊娠9週0日以下で使用が認められており、それ以降は外科的手術の適応となります。
編集部
妊娠初期のみ使えるのですね。
矢谷先生
そうです。WHOでは妊娠11週6日以下で使用可能とされているため、海外ではもう少しあとの時期まで使用可能なのですが、薬による妊娠中絶が今回日本で初めて承認されたということで、安全性を考え、体に負担の少ない期間が設定されています。
編集部
具体的にどのように服用するのですか?
矢谷先生
2種類の薬を時間差をつけて服用します。初めに「ミフェプリストン」を飲みます。これは、妊娠を継続するホルモンの働きを抑えて妊娠の進行を止める薬です。その36〜48時間後に「ミソプロストール」を服用(経口)します。こちらは、子宮の収縮を促して子宮の内容物を排出する薬です。ミソプロストールはすぐに飲み込まず、奥歯と頬の間に置いて、30分間かけて口の中で溶かしたあとに水で飲み込みます。
編集部
なぜ、口の中で溶かして飲むのですか?
矢谷先生
普通に飲み込んで胃から吸収されるよりも、口の中の粘膜からのほうが、吸収が速いからです。舌下や膣内の粘膜からだとさらに速く吸収されますが、現時点では奥歯と頬の間で溶かして吸収させる、とされています。2剤を服用する間隔は、海外だと24時間が一般的です。
経口中絶薬の安全性は?
編集部
承認されたばかりの薬ということで、安全性も気になります。
矢谷先生
日本で経口中絶薬が承認される前に、中絶を希望する女性120人に対し行われた臨床研究では、58%にあたる69人に下腹部痛やおう吐などの症状が出ましたが、いずれも軽度〜中等度だったそうです。中絶が完了したあとに子宮内出血や子宮内膜炎・出血性貧血などの重い症状を訴えたのは4人(約3.3%)でした。
編集部
なるほど、そのような研究があったのですね。
矢谷先生
はい。例えば当院でも、180例に対し妊娠中絶薬を処方しましたが(2024年4月末現在)、感染症や、重度の子宮出血などはなく、強い吐き気(悪阻)で救急外来を受診し、嘔吐剤の注射を受けて帰宅した方が2名おりました。外科的手術に移行した方は2名いて、1例は妊娠悪阻で1剤目服用後10分以内に薬をもどした方、もう1例は妊娠9週目前の方で、夕方近くになったため、手術を希望した方です。まだ新しい中絶法のため不安があるかもしれませんが、欧米、カナダ、オーストラリアでは70%の方が中絶薬を選択しています。
編集部
費用についても教えてください。
矢谷先生
例として、当院の場合は中絶薬5万5000円+処置5万円(税込)となります。内服前の検査や処置の費用や、外科的手術に移行した場合の手術料は無料です。
編集部
経口薬での妊娠中絶について、注意点などはありますか?
矢谷先生
薬が処方できるのは「母体保護法指定医であること」そして「有床診療所であること」と定められています。必ず、これらに当てはまる医療機関であることを確認して受診してください。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
矢谷先生
経口中絶薬が承認され、中絶の選択肢が増えたことには少しホッとしていますが、産婦人科医として日本が海外から30年も遅れてしまったことは無念さも感じます。海外では妊娠12週前まで使用可能だったり、公費での補助があったりなど、使用についての環境も整っています。将来的に日本もそうなっていくことを望みます。
編集部まとめ
経口薬での中絶は、海外から遅れてやっと選択肢の一つとなりました。安全性は検証されていますが、正しい使い方や安全性に関する理解がとても大切です。取り扱っている医療機関も調べることができますので、気になる方は一度「メフィーゴパック」で調べてみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-16-14 ミクラ西新宿ビル 2F |
アクセス | JR「新宿」駅西口より徒歩7分 都営地下鉄大江戸線「新宿西口駅」D5出口より徒歩3分 西武新宿線「西武新宿」駅正面口より徒歩5分 |
診療科目 | 産婦人科、皮膚科、内科 |