【闘病】看護師が「乳がん」になって初めて知った”患者さんの大変さ”
「乳がんの初期は、症状がほとんどない」と頭ではわかっていても、実際に不調を全く感じていない人が突然「乳がんです」と診断されたら、ショックを受けてしまう人は多いと思います。話を聞いた闘病者のはづきさん(仮称)も、「精密検査」を受けるように言われた時は落ち込んだそうです。自身も医療従事者(看護師)というはづきさんに、人間ドックから精密検査、告知、治療時などの体験について話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年3月取材。
体験者プロフィール:
はづき(仮称)
1972年生まれ。奈良県在住。看護師として働きながら、2023年に右浸潤がんと診断される。現在(取材時)も治療継続中。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
「絶対にがんや! どうしよう…」
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか?
はづきさん
不調は特に感じていなかったです。45歳を超えてから毎年人間ドックで検査していたのですが、人間ドックの最後の問診で「去年までは無かった影があるのでどこか受診した方がいい」と説明されたのが最初でした。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
はづきさん
以前、石灰化で受診したことのあるクリニックでエコー検査をしてもらいました。その時に「画像が石灰化とは違うので詳しく調べた方がいい」と、精密検査で大学病院に紹介状を書いてもらいました。その日の帰りに「絶対にがんや。どうしよう……」と頭がぐるぐるして駅で階段を踏み外し、女子高生3人の前で膝をついて転んだのを覚えています。何事もなかったように立って歩きましたが、「やばい顔」をしていたと思います。そこから家に帰るまでも、ずっとモヤモヤぐるぐるしていました。大学病院の受診予約日が1ヶ月以上先だったのですが、家に帰ってから不安でどうしようもなかったです。大学病院では、その日に生検も受けました。
編集部
告知はどのような形でしたか? また、その時どのように感じましたか?
はづきさん
私自身が看護師ということもあり、告知はあっさりでした。結果を聞く日、大学病院で受付をした時に、採血以外にも色々な検査の予約が入っていたので「あー、これは術前の検査だ……。この検査が入っているって事は、やっぱりがんやってんなぁ」と。診察室に入った時に「お気づきかもしれませんが、病名は右乳がんです」と告げられました。前のクリニックの時に覚悟ができていたので「やっぱりな……」という感じでした。
編集部
どんながんだったのでしょうか?
はづきさん
乳がんの、「ルミナルB」というサブタイプで、ホルモン感受性陽性、HER2陽性で、必要とされる治療が多く比較的悪性度の高いタイプです。
看護師が患者になって、はじめて気づくこと
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
はづきさん
サイズも小さく、リンパ節転移もなく、まず化学療法と分子標的薬を使用後、手術をするということでした。手術は部分切除で大丈夫で、その後、残った乳房に放射線治療をしてホルモン剤を飲むという治療計画でした。治療をすれば全く問題のない状態なので、これ以外の治療はお勧めしませんと説明されました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
はづきさん
「うーん。それって乳がんの治療全部やん」って思いましたが、それが標準治療であり、統計学的に確立された治療なので「仕方ないか」と落ち着いていました。冷静に「長くなりそうやなぁ」とも考えていましたね。
編集部
実際の治療はどのようにすすめられましたか?
はづきさん
4月からハーセプチン(トラスツズマブ)、パージェタ(ペルツズマブ)、ドセタキセルという薬を3週おきに4回、その後エピルビシン、エンドキサン(シクロフォスファミド)を4クールおこなって、抗がん剤治療が終了しました。血管がなかなか出なくて、何度も針の刺しなおしすることがつらく、5月に上腕ポートを作成しました。9月末に右乳房部分切除術を行い、11月から放射線治療を16回約4週間通院。その間にホルモン療法の内服を開始しました。現在はホルモン剤の内服に加え、分子標的薬も3週間おきに点滴しています(取材時)。
編集部
受診から手術、現在に至るまで、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
はづきさん
看護師として働いていますが、自分が治療を受ける側になってはじめて、患者さんってすごく大変だなと感じるようになりました。治療を受けるためにも我慢しないといけないことがたくさんある事に気づきました。抗がん剤治療の時、朝8時半に病院について採血の順番を待ち、診察の順番を待ち、抗がん剤治療のベッドが空くのを待ち……と。1番遅い時は、朝8時半から夜の19時過ぎまでかかることもありました。それだけでくたくたに疲れてしまい本当につらかったです。また、こんなに多くのがん患者がいる事にも驚きました。
編集部
そのほかには?
はづきさん
あとは、個人差や術式にもよると思いますが、手術って筋肉を切らないと大して痛くないのにも驚きました。手術当日、術後2時間で自力で歩いてトイレに行ったのもなかなかの衝撃でした。自分の働いている病院は、同じ手術でも翌朝まで安静なので、病院によって違うんだなぁと感じたのを覚えています。
自分に優しくないと人には優しく出来ない
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
はづきさん
仕事柄、病気になる前は「自己犠牲ありき」が当たり前でした。ちょうどがんが見つかる前、更年期症状がひどくて身体的にはかなりしんどかったのですが、仕事を休むなんてありえませんでした。一方で、乳がんがわかって周りに伝えると「身体大丈夫なん?」と心配され、症状は何もないのに、がんが見つかったというだけで「病人」になっている私がいました。変ですよね。周りは看護師なので「更年期症状の辛さ」も「乳がんのほとんどは無症状」という知識もあるはずなのに、「これがアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)ってやつか」「結構傷つくな」と思いました。
編集部
確かに、奇妙ですね。
はづきさん
がん治療のためにお休みをもらい、自分の事だけを気にかけて生活していたら、つらかった更年期症状がほとんどなくなりました。「無理してたんだな……」とつくづく感じて、自分に優しくないと人には優しく出来ないなと改めて実感しました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
はづきさん
病気について後悔していることはありません。ゆっくり休ませてもらって、治療に専念し、自分を甘やかす事ができたので満足しています。後悔と言うなら「あんなに頑張って仕事しなくてよかったのにな」とは思います。過去の自分に「もっと自分のことを大事に。自分を甘やかしていいんだよ」と言ってあげたいです。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
はづきさん
今はホルモン剤の影響なのか左肩が痛くて腕が上がらないのと、所々関節が痛いです。体力が落ちているので、なるべく歩くように心がけているのと、家でトランポリンをしています。来月(取材時)には職場復職しようと思っており、なるべく体力をつけないといけないのでぼちぼちがんばっています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
はづきさん
通っていた病院のスタッフはとてもやさしく、「ちょっと待って」がほとんどない病院でした。患者はちょっとしたことでも、気になってしまいます。診察ではやさしく接してほしいのはもちろんですが、こちらから言い出せないこともあるので、帰る前などに「気になることはありませんか?」とか聞いてくれると嬉しいですね。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
はづきさん
日々の生活の中で、知らず知らずに無理してることが沢山あると思います。時には自分に向き合う時間を作って、「今の自分は我慢してない?」と問うてみるようにしてほしいです。あとは、治療に関して、今はさまざまな情報があるので惑わされないようにしてください。正しい情報を得られる場所から得た情報に基づいて、主治医と相談して決めてほしいです。また、様々な闘病体験談などに書いてあることは、同じ病名だったとしてもあくまで別の人のことです。自分と必ずしも同じではないということを忘れず、とくに余計な不安は持たないでほしいですね。治療中はメンタルの持ちようも本当に大事ですので、まずはしっかりと自分と向き合ってください。
編集部まとめ
「比較的悪性度の高いタイプ」「乳がんの治療全部」など、落ち込んでしまいそうな状況でありながらも、病気について「ゆっくり休ませてもらって、治療に専念し、自分を甘やかす事ができたので満足しています。」と語る姿が印象的でした。貴重なご経験を聞かせてくださりありがとうございました。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。