「在宅看取り」で後悔しないために 介護者が知っておくべきことを医師に聞く
「最期は自宅で過ごしたい」と病気の本人が希望する一方、ご家族としては不安になることも少なくないと思います。家族に自宅で最期まで過ごしてもらうためには、何を知っておき、どのようなことに注意して進めるといいのでしょうか。病院での看取りとどのような違いがあり、自宅で受けられる医療にはどのようなものがあるのかも気になります。在宅医療に詳しいTOWN訪問診療所城南院長の宇都宮誠先生に詳しく話を伺いました。
監修医師:
宇都宮 誠(TOWN訪問診療所城南院)
自宅での看取りは特別なこと?
編集部
日本で「自宅での看取り」は特別なことなのでしょうか?
宇都宮先生
※厚生労働省「人生の最終段階における医療・介護」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001104699.pdf
編集部
病院での看取りと自宅での看取りの大きな違いは何ですか?
宇都宮先生
死は誰にでも必ず1回訪れるものです。やはり後悔はしたくありません。適切な医療を受けた上で結果としてお亡くなりになるとしても、残された家族としては「もっとやれることがあったのではないか」「あのときにこうしておけばよかった」と後悔の念は必ず感じてしまいます。そうならないためにも、死期の近づいている患者さんがいる家族は、少しでも異変があれば入院を希望されることが多いですね。しかし、入院での看取りというのは、患者本人にとっては100%希望通りの最期とはなりません。清潔な病室も無機質に感じるかもしれませんし、丁寧なケアをおこなってくれる看護師だって所詮は他人です。感染症の拡大のリスクもあるため近年ではご家族の面会も厳しく制限されています。思いでの詰まった我が家、慣れ親しんだ布団、愛する家族に囲まれた最期とは少し違うかもしれません。
編集部
自宅で看取るためには、何か特別な準備が必要なのでしょうか?
宇都宮先生
最期まで自宅で過ごしたいという希望を叶えるために何か特別な準備は必要ありません。サポートしてくれる先生やケアマネジャーさん、訪問看護師など地域で探してみましょう。最も重要なのは「主治医の先生」です。普段から訪問診療をしてくださる先生をみつけましょう。ケアマネジャーさんや訪問看護師さんについては市区町村の介護保険課もしくは地域包括支援センターに相談するといいでしょう。
編集部
家族としては何を考えておけばいいのか教えてください。
宇都宮先生
何よりも大切なことは「患者さん本人の希望をきちんと確認すること」と「そのことを家族が共有し尊重すると心に決める覚悟」です。本人にとって自宅で最期を迎えたいと言っても、最期の時を迎えるまで様々な状況の変化があります。熱が出たり、食事が摂れなくなったり、痛みや苦痛が出るときもあるかもしれません。どのような状況が今後起こりえるのか、どのような対処が有りそれは自宅で可能なのか、どのようなときには病院へ行き、どのような状況ならじっと様子を見ていいのか。将来起こりえる変化に慌てることなく対処する冷静さと準備が必要になってきます。
自宅で看取るために知っておくべきこととは?
編集部
自宅で看取ると決めたとき、まずどこに相談するといいのでしょうか?
宇都宮先生
まずは主治医の先生に相談してみましょう。現在かかっている病院やクリニックの先生に自宅での看取りに協力してもらえるのか伺ってみて、必要であれば在宅医療をおこなっている医療機関を紹介してもらってください。訪問してくれる主治医の先生が見つかれば、どのような状況になればどのように対応してくださるのか確認しましょう。夜間を含めて24時間で対応してくれるのか、どのような検査や治療なら自宅でおこなってくれるのかしっかりお話しをして、信頼して任せられる主治医なのか判断してください。訪問看護師のサポートも重要となります。ケアマネジャーさんと介護サービスについてよく相談しておきましょう。
編集部
病院でおこなっている医療的な処置や緩和医療は、在宅でもできるのでしょうか?
宇都宮先生
もちろん在宅でも様々な医療行為をおこなうことができます。一般的な血液検査や点滴程度であれば多くの医療機関でおこなうことができるはずです。先生によっては気管切開や胃瘻(いろう)・人工肛門への処置や床ずれに対する外科的な治療、在宅酸素や人工呼吸器の管理なども対応してもらえます。緩和医療に精通した先生なら麻薬を用いた緩和ケアも受けることができます。
編集部
自宅で看取ると一度決めてから、やはり不安になって入院するという相談も可能ですか?
宇都宮先生
長い介護生活では、患者さんの病状だけでなく本人の気持ちやご家族の気持ちにも変化が出てきて当然です。一度自宅での看取りを希望したとしても入院を希望することは可能です。
看取りだけではない? 在宅医療の役割
編集部
看取りの場合以外も、自宅へ医師に来てもらうことはできますか?
宇都宮先生
在宅の主治医は定期的に訪問してくれます。病状の変化・自覚症状の有無について普段から相談しましょう。病状に変化があった場合、例えば熱が出た・便秘で苦しいなど様々な変化が生じることもあります。そんなときにはすぐにでも主治医の先生に相談してください。どんな場合でもすぐに診察に来てくれるかどうかは、地域の事情や先生の方針にもよるでしょうが、必要に応じた対応をしてくれるはずです。
編集部
看取り以外にどの様な治療が可能なのでしょうか?
宇都宮先生
在宅医療は決して看取りの時のためだけに存在するわけではありません。何らかの事情で通院が難しい場合には、条件さえ整えば在宅医療を受けることは可能です。高齢になって活動性の落ちてしまった高齢者や足が悪くなって通院が難しくなってしまった方は、在宅医療を検討すべきだと思います。高血圧や糖尿病など一般的な内科疾患だけでなく、専門性を活かした医療を提供している医療機関も多くあります。
編集部
医師による診察や治療以外に、在宅で受けられる医療にはどのようなものがありますか?
宇都宮先生
近年では訪問診療に対応してくださる歯科クリニックも増えてきています。活動性を少しでも維持・向上するためにリハビリが重要ですが、訪問でおこなわれるリハビリも積極的におこなわれています。薬を取りに行くのが難しい、薬を飲むのを間違えてしまうという患者さんには訪問で対応してくれる薬剤師さんや薬局さんもいます。
編集部まとめ
日本ではまだまだ自宅で最期を迎えるということは特別なことだと思われがちで、割合は低いとのことでした。自宅での看取りに対して不安を抱くのは仕方がないことだと思いますが、一度自宅での見取りを希望したとしても、再度入院を希望することができるというのはぜひ多くの人たちに知っていただきたいです。また、自宅での看取りでは主治医やサポートスタッフとの連携が重要であること、専門的な医療処置や緩和医療が受けられる場合もあると教えて頂きました。本稿が読者の皆様にとって、自宅で受けられる医療を知るきっかけとなりましたら幸いです。