「大腸がんの早期発見」のために! 「便潜血検査」を受けるメリットを医師が解説
大腸がんのほとんどは症状が無いまま進行していく場合が多いようです。大腸がんの早期発見には「便潜血検査」が重要であると専門家は指摘します。しかし、健康診断で便潜血検査を受けても、検査の本当の意味を理解していなかったために、検査後に適切な行動ができず重症化してしまったというケースもあるようです。今回、そのような大腸がんを予防する「便潜血検査」の基本や検査の意味について、つくば消化器・内視鏡クリニック院長の鈴木英雄先生に詳しく解説していただきました。
監修医師:
鈴木 英雄(つくば消化器・内視鏡クリニック)
便潜血検査の基本
編集部
便潜血検査をすると何がわかるのでしょうか?
鈴木先生
便潜血検査は糞便から微量の血液を検出する検査で、大腸がんのスクリーニングを目的とした検査です。大腸がん死亡率減少効果が科学的に確認されている検査で、大腸がん検診として広くおこなわれており、大腸がん検出率は進行がんで60〜75%、早期がんで30〜40%ほどです。また、毎年この検査を受けることで大腸がん死亡リスクが60〜70%減少すると推定されています。
編集部
便潜血検査は、大腸がん以外の疾患に発見に役立つことはあるのでしょうか?
鈴木先生
大腸がん以外にも、大腸ポリープや痔、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患でも便に血液が混ざるため陽性になり、これらの疾患が発見されることがあります。
編集部
便潜血検査はどのようにおこなう検査ですか?
鈴木先生
専用容器のキャップについた採便スティックで便の表面をこすって少量の便を採取します。水洗トイレで水たまりに落ちた便から採取すると便器洗浄液が混入して偽陰性となることがありますので、水たまりはトイレットペーパーで覆う、便がすぐ落ちないように便座に前後逆で座る、などの工夫をすると良いでしょう。1日1回2日間を1セットとして提出します。必ずしも連続的に出血しているとは限らないので,2日間検査することで検出率が10〜15%程度向上します。
編集部
便潜血検査は食事の影響は受けないのでしょうか?
鈴木先生
便潜血検査には化学法と免疫法という方法があり、大腸がん検診で用いられるのは免疫法です。免疫法とはヒトのヘモグロビンに対する抗体を用いる方法で人間の血液のみに反応し、豚や牛あるいは魚類の血液には反応しないため食事の影響がありません。しかし、胃酸や胃・膵液由来の消化液によりヘモグロビンが変性する上部消化管出血は検出できないため、胃がん検診には使えません。
検査後に取るべき行動とは?
編集部
便潜血検査の結果はどのような形で出るのでしょうか?
鈴木先生
便潜血検査の結果は通常、「-」または「+」で報告されます。2日法では「-,-」「-,+」「+,-」「+,+」の4パターンになりますが、1回でも陽性が出れば全体としては陽性と判断します。
編集部
便潜血検査が陽性の場合、次に取るべき行動について教えてください。
鈴木先生
陽性の結果が出た場合、通常は次の検査として大腸内視鏡検査がおこなわれます。CTコロノグラフィや大腸造影検査がおこなわれることもありますが、これらで異常が見つかった場合も診断を確定するために大腸内視鏡検査が必要になります。もう一度便潜血検査をおこなうことは無意味なのでおこなわないでください。
編集部
詳しく教えてください。
鈴木先生
健常な方が便潜血検査を受けると約5%の方が陽性となりますが、がんが見つかるのはそのうち約3%です。つまり陽性となってもほとんどの方はがんではありません。しかし、陽性で大腸内視鏡検査を受けた方の30〜50%にポリープ(腺腫)が見つかります。大腸がんは、腺腫が数年の経過で進行して形成されることが多いと言われています。欧米では5mm以下であってもすべての腺腫を内視鏡的に切除することで大腸がん発生が70~90%抑制できること、大腸がんによる死亡を約50%抑制できることが報告されています。
編集部
便潜血検査が陰性の場合、次に取るべき行動について教えてください。
鈴木先生
陰性の結果が出ても、特定の疾患や病気を完全に除外できるわけではありません。便潜血検査は、感度(大腸がん患者を「がん」と判定できる割合)が約50〜60%、特異度(大腸がんでない人を「がんがない」と判定できる割合)が約90%とされています。つまり、便潜血検査は大腸がんのスクリーニングに適していますが、陰性の結果が出ても、必ずしも大腸がんがないとは言い切れません。よって、毎年受けることが大事になります。
便潜血検査の精度を上げるためには?
編集部
痔がある場合でも、便潜血検査を受ける意味はあるのでしょうか?
鈴木先生
痔がある場合でも、便潜血検査をおこなうことで、痔以外の出血性疾患(大腸がんやポリープ、炎症性腸疾患など)からの出血を確認することができるので、便潜血検査は一定の意味があります。
編集部
便潜血検査をするタイミングとして、不適切なタイミングはありますか?
鈴木先生
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗血小板薬は便潜血検査の結果に影響を与える可能性があるので注意が必要です。その他、女性の場合は生理中に微量の血液が便に混ざってしまう可能性があります。検査のタイミングに関して疑問がある場合は、医師と相談して最適なスケジュールを確認しましょう。
編集部
その他、便潜血検査を受ける上で、私たちが気を付けることはありますか?
鈴木先生
血液は糞便中に均等に混じっているわけではないので,数か所から採取します。少なすぎても多すぎてもダメなので、説明書に書いてある適切な量にしてください。採取した便は直ちに冷暗所で保管します。これは腸内細菌によりヘモグロビンが分解されるためで,室温で保存すると1日放置しただけでも偽陰性となることがあるので、特に夏場の保存には注意してください。
編集部まとめ
「便潜血検査」は大腸がんの死亡率減少に寄与し、大腸ポリープや炎症性腸疾患などの疾患が見つかる場合もある重要な検査であると教えていただきました。検査結果が陽性の場合、大腸内視鏡検査を受ける必要があるとのことです。一方で、検査の特性上あくまでもスクリーニングに適した方法のため、もし結果が陰性でも毎年「便潜血検査」を受けることが推奨されるようです。本稿が読者の皆様にとって、「便潜血検査」の意味や大腸がん予防を学ぶきっかけとなりましたら幸いです。