【闘病】排便のたびに便器が血に染まる。30代で「S状結腸がん」発症、症状を放置した結果…
日々の家庭や仕事の忙しさから、病院での検査の受診を後回しにしがちではないでしょうか? 今回お話をうかがったぽかりすうぇっとさん(仮称)も、病院から再検査をすすめられながら、育児の忙しさから自宅で様子をみていたママの1人です。早期発見できなかった後悔、抗がん剤治療の日々、そして「家族に素直になり、感謝を口に出して伝えるようになった」という現在までのお話を聞かせていただきました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。
体験者プロフィール:
ぽかりすうぇっとさん(仮称)
1987年生まれ、千葉県在住、小学生2人の母。2021年34歳の時にS状結腸がんと診断される。2024年2月現在は再発・転移なく経過観察中。
記事監修医師:
梅村 将成(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
排便のたびに便器が真っ赤に
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか?
ぽかりすうぇっとさん
30歳くらいの時です。痛みなどの自覚症状はなかったのですが、便に少し血が混ざるようになりました。近くの総合病院では「痔」と診断され、まだ若いということもあってそのまま様子を見ることになりました。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
ぽかりすうぇっとさん
最初は便に少し血が混ざっていたくらいだったのが、いつの間にか排便のたびに便器の中が真っ赤になっていました。ひどい腹痛でお腹の中にガスが溜まり、ボコボコと音がしました。お腹の左側の膨らみが目で見てわかるようになり、痛みにも耐えられず救急車で病院へ行きました。CTとエコー検査の結果「腸炎」と診断され帰宅しましたが、再検査をすすめられました。
編集部
実際に再検査されましたか?
ぽかりすうぇっとさん
当時は、自分ががんだなんて1ミリも考えていませんでした。痛みが落ち着いたこともあり、再検査へは行かずにそのまま自宅で様子を見ていました。しかし、その3ヶ月後にまた同じ腹痛が起きて便もガスも出なくなり、痛みに耐えられず夜間診療を受診しました。そこで造影剤を使ったCT検査で「S状結腸がんステージ2もしくは3」と診断されました。
編集部
「S状結腸がん」について医師からどんな説明がありましたか?
ぽかりすうぇっとさん
結腸は大腸の末端にある部分のことで、中でも「S状結腸がん」はお腹の左側にあるS字型にカーブしている部分にできる悪性腫瘍のことです。肛門に近い部分の為、血便で発見しやすいみたいです。私はさらに腸閉塞の症状も出ていました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から言われましたか?
ぽかりすうぇっとさん
まず、閉塞してしまった腸を広げるためのステント処置をしました。その後は手術が必要とのことで「どこの病院で手術をするか決め、ほかの病院でするのであれば紹介状を書きます」と言われました。その病院では、お腹を切ってがんを取り出す「開腹手術」になる可能性が高く、傷の少ない「腹腔鏡手術」をするには転院が必要だったのです。また、場合によっては人工肛門になる可能性があること、そして手術後の状態次第で抗がん剤治療をすることになるでしょうと説明を受けました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
ぽかりすうぇっとさん
子育て中だったので、「入院中、子どもたちはどうしたらいいのか」「毎日お仕事で帰りの遅い夫に育児や買い物、家事はできるのか」と、とにかく今置かれている状況の整理をするのが精一杯でした。一方で、実母がS状結腸がん経験者で現在も再発転移なく健在だったため、なんとかなるだろうという気持ちもありました。ただ、隣で夫が泣き崩れる姿を見て、命に関わる病気だとだんだん実感し、夫婦でたくさん泣きました。
食事ができるのは当たり前ではない
編集部
実際の治療はどのように進められましたか?
ぽかりすうぇっとさん
家族と話し合い、手術はがん専門の病院で受けました。腹腔鏡手術で人工肛門をつけない形で無事に終わり、目に見えるがんを全て取り除いてもらいました。手術前「ステージ2か3であれば、抗がん剤治療はしなくてもいい場合もある」との話でしたが、手術中に米粒2つほどの腹膜播種が発見され、「ステージ4」となってしまいました。そのため、術後1カ月から通院で抗がん剤治療を開始し、約半年間続けました。今は4か月に1回検査をしながら経過観察中です。
編集部
受診から手術、現在に至るまで、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
ぽかりすうぇっとさん
妊娠した辺りからずっと、氷を食べるのがやめられませんでした。妊娠を経験した女性にはよくあるとのことでしたが、それは貧血からくる「氷食症」というものです。私の場合は、がんによりS状結腸の出血が止まらず、貧血になっていたのかもしれません。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
ぽかりすうぇっとさん
がんがわかってから、食事はなるべく手作りで消化の良いもの、野菜中心を心がけるようになりました。なにより、食事ができるのは当たり前ではなく「食べられる事は幸せ」と常に感じられるようになりました。家族には対しても素直になり、感謝の気持ちを口に出して伝えるようになりました。ただ、子どもたちには病気のことをきちんと話せておらず、近所の方々にも病気のことは一切話していません。そして、病気を経験してから、周囲の楽しそうに見える人も何かしらとと戦っているんだろうなと思うようになりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
ぽかりすうぇっとさん
たくさん後悔していることがあります。「子どもに手がかかるから」と自分の受診を先延ばしにしたこと、「まだ若い」とがん保険に加入していないこと、一度診断されただけで、何年もそのままにしてしまったこと……。定期的に検査をしていれば、ステージが進む前に発見できたのではないかと思ってしまいます。大腸がんは、早期にがんを発見して治療を行うと、5年生存率が高いということが知られています。病気の早期発見はとても大事だと実感しています。
大切な人ががん検診に行ける時間を作ってあげてほしい
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
ぽかりすうぇっとさん
現在の体調はとても良く、普通に生活できています。まだ「経過観察中」ではありますが、再発や転移もなく2年半が経過しました。子どもを抱っこすることも、思いっきり走ることも、好きなものを食べることもできています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
ぽかりすうぇっとさん
入院中から抗がん剤治療中に至るまで、いつも優しく寄り添って下さった先生や看護師さんの皆さんには本当に助けられました。我慢せず素直な気持ちを吐き出せる、素直に涙を流せる環境を作って下さったことにとても感謝しています。患者さんの目線に合わせて話を聞いてもらえるのは、とても救われます。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
ぽかりすうぇっとさん
「若いから」「一度は病院に行ったから」といって、安心してはいけません。また私の場合、血便があったのにもかかわらず「鮮血は痔で、黒っぽい血だと病気。私は鮮血だからがんではない」など自分の中で決めつけてしまっていました。ですが、これはとても危険なことだったと深く反省しています。病院に行きたいけどさまざまな理由で行けない、という方もいると思いますが、そういうときこそ周囲の人が大切な人のために病院へ行ける時間を作ってあげてください。例えば夫婦などでお互いに作ってあげる、お互いを思いやる事がとても大切だと強く思いました。
編集部まとめ
「がんは早期発見が大事」と頭ではわかっていても、30代で育児や仕事が忙しい中「がんかもしれないから受診しよう」と行動できる人は少ないかもしれません。ぽかりすうぇっとさんの「大切な人が定期的に検診に行ける時間を、例えば夫婦などでお互いに作ってあげる事がとても大切」という言葉は、心に深く響きました。ぜひ、ご自身や身近な人と一緒に定期健診に行く環境づくりをしていきましょう。