【闘病】生まれた娘は「左心低形成症候群」。それでも手術・大量の薬の服用を乗り越える理由
出産を乗り越えたと安心するのもつかの間、生後4日目に「左心低形成症候群」という心臓の病気と診断され、闘病生活を続けているお子さんの母である「S. H」さん。絶望を感じていた日々から、前向きに娘さんと病気に向き合えるようになった背景には、どのような思いがあるのでしょうか? 出産から現在に至るまでのお話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年11月取材。
体験者プロフィール:
S.H(仮称)
新潟県在住の5人家族。2015年9月に出産した三人目の子が、生後4日目に大学病院へ転院し、バンディング手術やノーウッド手術、グレン手術など、多くの手術を受けることになる。2019年3月にてんかんを発症、2020年3月にはペースメーカー植込み術を実施。現在は小学生になり、月1回の外来受診と内服治療、夜間のみ在宅酸素を使用している。
記事監修医師:
木村 眞樹子(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
心雑音があり、生後4日で大学病院へ転院
編集部
お子さんの病気が判明した経緯について教えてください。
S.Hさん
3人目の出産だったので、退院までの一通りの経過を想像していたのですが、出産後の酸素飽和度が低くてなかなか保育器から出ることができず、不安な日々が続きました。出産した小児科の診療で、生後4日目に「心雑音があるから大きな病院で診てもらったほうがよい」と言われ、大学病院へ転院することになりました。
編集部
大学病院ではどのように診断されたのですか?
S.Hさん
「左心低形成症候群」という先天性心疾患の中でも重症度の極めて高い病気だと診断されました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明があったのでしょうか?
S.Hさん
「最低でも4回の手術が必要であり、完治はしない」と言われました。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
S.Hさん
絶望で、未来を想像することができませんでした。手術前日には神社へお参りに行きましたが、周りには七五三の家族がおり、我が家だけ白黒になったような気持ちになっていました。
家族・友人の支えがあったから、娘の入院生活を乗り越えることができた
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
S.Hさん
入院期間中、付き添いのために夫婦のどちらかが病院に行く必要があったので、家族バラバラの生活が始まりました。当時、小学1年生と小学4年生だった兄姉には寂しい想いをたくさんさせました。ですが、家族や友人などたくさんの方に支えてもらい、数カ月の入院生活を乗り越えられました。退院後も娘中心の生活ではありましたが、家族の絆は深くなったと思います。
編集部
闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
S.Hさん
家族の存在はもちろんですが、私は一番初めの医師から説明を受けた際に言われた言葉をずっと心の支えにしていました。それは「スポーツ選手にはなれないけれど、ランドセルを担いで学校へ行けます」という言葉です。小学校へ入学し、娘がランドセルを担いで登校した姿を見た時は、感慨深い気持ちでいっぱいになりました。
編集部
もし昔の自分や娘さんに声をかけられたら、どんな助言をしますか?
S.Hさん
「未来は明るいよ」と伝えたいですね。闘病を通して、子どもの可能性は無限大だということを、身をもって実感しました。
「当たり前」の毎日にこそ、たくさんの幸せがある
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
S.Hさん
現在の娘の体調は落ち着いています。生まれてからしばらくは24時間在宅酸素をしていましたが、保育園入園と同時に、夜間のみ在宅酸素の使用に切り替えました。内服薬は10種類以上ありますが、朝・晩頑張って飲んでいます。小学校入学時は普通のクラスに在籍しましたが、体力面など考慮して2年生から娘のために「特別支援学級病弱児クラス」を新設していただき、転籍しました。生活の中で制限などもありますが、娘のペースで小学校生活を送ることができています。
編集部
お子さんの病気を意識していない人に一言お願いします。
S.Hさん
「当たり前」というものはなく、一瞬の時間はかけがえのないものだと思います。そして、日々の生活にはたくさんの幸せがあるということをお伝えしたいですね。今、目の前にあるものを大切にしてほしいです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
S.Hさん
命を救ってもらい、感謝しかありません。私自身も看護師ですが、尊敬の想いが強くなりました。そして落ち着いたら私も仕事に復帰して、恩送りしたいと思っています。また、闘病生活の初めの頃は分からないことが多い上に誰にも相談できず、孤独でした。そんな時、気軽に話を聞いてもらえる体制があれば、もう少し精神的に楽になれたのかなと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
S.Hさん
娘が10年早く産まれていたら助けられなかった命だったかもしれません。いまだに根治術はなく、未来が確約されていない、難しい病です。娘は痛くて辛い経験もたくさんしてきましたが、その分、誰よりも強く優しい女の子に育ってくれました。だから今ある命に感謝し、助けてくれた医療従事者の方々や支えてくれた周りの方への感謝を忘れないようにします。そして、これから先も与えられた命を精一杯輝かせられるよう娘を支えていきたいと思います。
編集部まとめ
S.Hさんのお話の中で、「我が子を失うかもしれないという恐怖」という言葉がとても印象に残っています。いくつもの管につながれたお子さんを見て、幾度となく、「変わってあげたい」と思ったことでしょう。現在はお子さんのペースで小学校生活を過ごされているとのこと、嬉しく思います。これからもご家族みなさんが穏やかに過ごされることを切に願います。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。