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体内に侵入した“マイクロプラスチック”が「心臓発作」「脳卒中」リスクを高める可能性

 更新日:2024/03/26
マイクロプラスチックが心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性

イタリアのカンパニア大学ルイジヴァンヴィテッリらの研究グループは、体内に侵入する化学物質を含んだ小さなプラスチック片が心臓の健康にどう影響するのかを調べた結果、心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性があることを明らかにしました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

発表された研究内容とは?

カンパニア大学ルイジヴァンヴィテッリらの研究グループが発表した研究内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

カンパニア大学ルイジヴァンヴィテッリらの研究グループは、体内に侵入する化学物質を含んだ小さなプラスチック片が心臓の健康にどう影響するのかを調べました。成果は学術誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されています。

研究グループは、無症候性の頸動脈疾患に対して頸動脈内膜剥離術を受けた患者を対象に、多施設共同前向き観察研究をおこないました。257人の患者に対して術後3年近く追跡がおこなわれ、58.4%にあたる150人の患者の頸動脈プラークからポリエチレンが検出されています。また、12.1%にあたる31人の患者にも、測定可能な量のポリ塩化ビニルが検出されました。

電子顕微鏡検査では、プラークのマクロファージ中に、目に見えるギザギザのエッジをもった異物が存在していることが確認されています。X線検査では、これらの粒子の一部に塩素が含まれていることが示されました。頸動脈プラークにマイクロプラスチックが確認された人は、そうでなかった人と比べて、致死的ではない心臓発作や脳卒中の発症、何らかの原因での死亡が約4倍多いことがわかりました。

研究グループは今回の結果について、「因果関係を証明するものではなく、喫煙や運動不足などの要因が健康状態を左右する可能性がある」と論文に明記しています。その一方で、「今回の研究結果は、プラスチックが健康に及ぼす危険性に関する一連の研究に加わる重要な発見であり、より大規模かつ広範囲に調査されるべきだ」とも指摘しています。

マイクロプラスチックとは?

今回の論文で取り上げられたマイクロプラスチックについて教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

マイクロプラスチックやナノプラスチックは、食事や呼吸、皮膚を介してヒトの体内に取り込まれます。これまでに胎盤や肺、肝臓、母乳、尿、血液などから検出されたことが報告されています。

マイクロプラスチックの人体への影響についても、既に様々な研究がおこなわれています。一例を挙げると、ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループが実施した研究では、「体内に取り込まれたマイクロプラスチックが脳に到達するために、その表面に作られる“生体分子コロナ”という複合体が重要な役割を果たしている」と明らかにしています。

今回の研究内容への受け止めは?

研究グループ発表した研究内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

有毒なプラスチック片が魚類や鳥類などの野生生物に害を及ぼしていることは既に知られていますが、人体への影響についての報告はまだ少ないのが現状です。今回の研究結果を受けて、患者背景による影響などの様々なバイアスの指摘はあるものの、人のプラークからプラスチック片が検出された事実そのものが重要であると考えられます。地球の温暖化対策とともに、人類が今後取り組むべき課題を提示する貴重なデータと言えるでしょう。

まとめ

イタリアのカンパニア大学ルイジヴァンヴィテッリらの研究グループが、体内に侵入する化学物質を含んだ小さなプラスチック片が心臓の健康にどう影響するのかを調べた結果、心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性を明らかにしました。近年、マイクロプラスチックが多くの場面で話題になることが増えており、健康への影響については今後も注目を集めそうです。

この記事の監修医師