失明にもつながる“緑内障”予防のための「眼圧を下げる方法」を眼科医に聞く
昨今の高齢化に伴い、日本において患者数の増加している疾患の一つが「緑内障」。緑内障は一般に眼圧が高くなることが多いため、眼圧を下げるための治療を行っている人も多いと思います。一方で、進行を抑制するために自宅でできるセルフケアはあるのでしょうか?今回は、川口眼科の蒲山先生に教えていただきました。
監修医師:
蒲山 順吉(川口眼科)
目次 -INDEX-
失明にもつながる目の病気、緑内障とは? 発症には眼圧の高さが関係する? 原因や種類について
編集部
緑内障とは、どのような疾患ですか?
蒲山先生
目と脳をつなぐ視神経に障害が起き、徐々に視野障害が広がってくる病気のことを緑内障といいます。一般には、中高年に起きやすいとされています。
編集部
緑内障の原因はなんですか?
蒲山先生
まだわかっていない部分も多いのですが、一般には目の硬さを示す眼圧が高い状態が続くことによって視神経がダメージを受け、緑内障を発症するとされています。しかし、なかには眼圧が正常でも緑内障を発症するケースがあり、原因として加齢、遺伝、強度の近視、血流、環境、生活習慣、薬による副作用などの要素が考えられています。
編集部
必ずしも眼圧が高くなるわけではないのですね。
蒲山先生
はい、緑内障というと眼圧が高くなる病気と思われがちですが、必ずしもそうではないので注意が必要です。そのほかにも、緑内障にはいろいろな種類があります。
編集部
どのような種類があるのですか?
蒲山先生
まず、別の病気が原因で眼圧が上がる「続発緑内障」と、ほかの原因がない「原発緑内障」に分類されます。そのほか子どもに発症する「発達緑内障」もあります。
編集部
いろいろな種類があるのですね。
蒲山先生
さらに原発緑内障は、目の中の水(房水)の出口である隅角が狭くなり、房水の流れが妨げられることで眼圧が急激に上昇する「閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかくりょくないしょう)」と、隅角は広く眼圧もそんなに上がらないけれど視神経が傷んでいく「開放隅角緑内障(かいほうぐうかくりょくないしょう)」があります。現在日本で見られるのは、ほとんどが開放隅角緑内障です。
緑内障予防・緑内障の症状を進行させないために、日常生活でできるセルフケアはある? 眼圧の高さは目薬以外でも対策できる?
編集部
緑内障は予防することができますか?
蒲山先生
原因が明確でないため、特に有効な予防法はありません。最も効果的なのは、定期的に眼科検診を受けて早期発見に努めることです。日本人は40歳を過ぎると有病者の割合が高くなることがわかっており、さらに、緑内障の初期や中期では自覚症状がないため自分で気づくことがほぼ不可能なのです。
編集部
緑内障にかかりやすい人はいるのですか?
蒲山先生
近視が強い人や血縁者に緑内障の方がいる人、糖尿病の人はリスクが高いと言われています。そのほか、目に外傷を受けたことがある人や、別の病気でステロイド薬を長期間投与された経験がある人は、気づかないうちに眼圧が高値になっていることがあるため、一度健診や眼科受診をすることをおすすめします。
編集部
緑内障を発症した場合、進行を抑制することはできるのですか?
蒲山先生
眼圧(目の内圧)を下げることが現在唯一の治療法です。基本的には目薬による薬物治療を行うことで、進行の抑制が期待できます。毎日1〜2回の点眼を行うことで眼圧を調整します。ただし閉塞隅角緑内障の場合は、急激に眼圧が上がることもあるため、レーザー手術などを行う場合もあります。
編集部
緑内障を進行させないために、日常生活で気を付けることはありますか?
蒲山先生
一般的に「眼圧を上げる行為」と「目の血流を悪くさせる行為」を避けることが大切です。睡眠中は基本的に眼圧が高くなることが知られていますが、枕が高い、うつ伏せ寝などの習慣は眼圧や血流にさらに悪影響があるといえます。そのほか、「ネクタイを強く締めすぎる」「ゴーグルなどで目を長時間圧迫する」「かゆみなどで目を強くこする」「急に水分を多量に摂取する」などを行うと眼圧が上昇すると言われています。
編集部
日常的な習慣のために、眼圧が高くなることがあるのですね。
蒲山先生
そうです。あまり神経質になる必要はないですが、できるところから改めていくと良いですね。枕は15度くらいの高さがおすすめです。そのほか、喫煙やアルコールの多飲、睡眠時無呼吸症候群などと緑内障の関係も指摘されています。
編集部
現在、緑内障を発症する人が増えていると聞きました。
蒲山先生
はい、現在は高齢化が進んでいることもあり、緑内障の患者数が増えています。緑内障は日本における失明原因の第一位とされています。しかし早期に発見して適切に治療を続ければほとんど失明することなく、一生涯視力を維持することも可能ですから、定期的に検査を受けるようにしましょう。
編集部
早期に発見して治療を開始すれば、失明の危険を減らせるのですね。
蒲山先生
はい、さらに緑内障の治療で特に重要なのは治療を「継続する」ということです。緑内障は自覚症状がないため、末期に至るまで悪化しているかどうかも患者さんはわかりません。そのため治療を自己中断してしまう人が非常に多いのです。
編集部
しかしそうなると、失明の危険が上がるのですね。
蒲山先生
そうです。治療の自己中断が緑内障の失明率を上げていることは間違いありません。患者さん自身が治療の必要性を理解し、積極的に治療に参加することを「アドヒアランス」といいますが、緑内障の治療において患者さんのアドヒアランスの向上で治療成績が有意に向上することは多くの研究で証明されています。もしも早期に緑内障と診断された場合には、「適切な治療を開始できるチャンス」とポジティブに捉え、積極的に治療に参加してほしいと思います。
緑内障予防や目の健康のために、眼圧を下げる食事や生活とは? 運動やツボ押しにも効果がある?
編集部
食事や運動などを注意することで、緑内障を予防することはできますか?
蒲山先生
ビタミンA、B2、Cなどを取ることで緑内障のリスクが軽減するという研究もありますし、タンパク質も神経のダメージを軽減するために良いとされています。ただし特定の栄養素にこだわるのではなく、バランスの良い食事を心がけるようにしましょう。
編集部
そのほか、食事において注意することはありますか?
蒲山先生
一般的に、カロリーオーバーの人や糖尿病の患者さんは緑内障が悪化しやすいことがわかっています。そのような場合には、適切なカロリー制限や糖尿病のガイドラインに沿った食事療法を継続するようにしましょう。
編集部
避けた方がいい食べものや飲みものはありますか?
蒲山先生
お酒と緑内障の関連性もまだ証明されていませんが、多飲は健康上の問題となるためほどほどにすることをおすすめします。カフェインは眼圧を上昇させることが明らかになっていますが、コーヒーを1日2〜3杯など適量であれば問題ありません。
編集部
運動はどうですか?
蒲山先生
適度な有酸素運動は眼圧を下げる効果があることがわかっています。体重をコントロールするためにも適度に運動を続けることをおすすめします。
編集部
マッサージやツボ押しは効果がありますか?
蒲山先生
目の周りなどには多くのツボがあり、なかには目の血行を良くして緑内障に効果が期待できる、といわれるものもあります。あわせて目の疲れがスッキリするものもあります。ただし、眼球を強く押す行為は避けましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
蒲山先生
緑内障を発症した患者のなかには、途中で治療を中断してしまう人もいる一方、反対に過剰に眼圧を心配してしまったり、失明するのではないかという強い不安や恐怖心を抱いたりする人もいます。緑内障は「治す」病気ではなく、「上手に付き合っていく」病気です。すなわち緑内障の治療は目を良くすることではなく、人生を良くすることが目的です。アドヒアランス向上のために患者さんの恐怖心をあおる医者やネット記事もありますが、私は逆効果だと考えます。適切な治療を継続すれば「失明は防げる病気」であることを再確認し、今自分ができることをコツコツやっていくことで病気と向き合いながら、人生をより良いものにしていくことに気持ちのベクトルを向けて欲しいです。どうしても不安なときは、一人で悩まず勇気をもって私たちに不安を打ち明けてください。不安は病気と向き合っている証拠です。より良い方向へ向かうお手伝いができれば眼科医として嬉しく思います。
編集部まとめ
緑内障は失明原因第一位といっても、緑内障患者全体のなかで両眼失明に至った人は、ほんのわずか。それだけ緑内障を発症する人は多く、また、治療を継続する限り失明は免れることができる、ということです。もし緑内障と診断された場合には適切な治療を継続することを心がけましょう。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |