寒い季節到来! 「冬は高血圧になりやすい」理由・予防法や降圧剤を薬剤師が解説
気温が低くなる冬場は高血圧になりやすいということをご存知ですか? 高血圧になると心筋梗塞や脳卒中など、命にかかわる病気のリスクが上がるので注意が必要です。そこで今回は冬に血圧が上がりやすい理由とその対策方法について、薬剤師の村山さんに解説していただきました。
監修薬剤師:
村山 菜奈(薬剤師)
冬は血圧が上がりやすい傾向にあるのはなぜ? 薬剤師が解説
編集部
血圧の基本について教えてください。
村山さん
血圧とは、血液が血管(動脈)の壁に与える圧力のことです。血圧は「心臓から送り出される血液の量」と「血液の流れにくさ」によって決まり、血液の量が増えるもしくは血液が流れにくくなる時に、血圧が上がります。血圧は1日を通して変動しており、朝になるとゆっくり上昇し、活動が活発になる昼間にピークを迎え、夕方になるとだんだん低下し、睡眠中に低くなります。このような変動を「日内変動」と呼びます。また、季節によって血圧が変わることを「季節変動」と呼び、冬は血圧が上がりやすくて夏は下がりやすくなります。
編集部
冬場はなぜ血圧が上がりやすいのでしょうか?
村山さん
冬場に血圧が上昇するのは、寒さによって血管が収縮するからです。肌で感じた寒さが脳へと伝わると、体温を維持するために体温調節中枢が働き、血管を収縮させて血流を減らすことで体内の熱が外に逃げないようにします。血管が収縮すると血液が流れにくくなるため、結果として血圧が上がります。また、寒さにより運動不足になることや、忘年会・新年会のようなイベントで塩分を多く摂ることも、冬場に血圧を上げる要因です。
編集部
運動不足や塩分のとりすぎで血圧が上昇するのはなぜですか?
村山さん
私たちの身体には体内の塩分濃度を一定に保つ働きがあります。塩分をとりすぎて体内の塩分濃度が高くなると、身体は体内の水分量を増やして塩分を薄めようとします。その結果、血液の量が増えて血圧が上がります。運動は余分な塩分を排泄する働きを高めますが、運動不足になると塩分の排泄が不十分になり、体内の塩分濃度が高くなって血圧が上がります。また、運動不足によって肥満になることで血液中の脂質が増えて血流が悪くなり、血圧が上がりやすくなります。
編集部
高血圧の基準を教えてください。
村山さん
血圧は、測定する場所によって診察室血圧と家庭血圧に分けられます。病院などではかる「診察室血圧」は、緊張やストレスなどにより家ではかる「家庭血圧」より5mmHg程度高くなるといわれています。高血圧の基準は家庭血圧で135/85mmHg以上、診察室血圧では140/90mmHg以上です。正常血圧の定義は家庭血圧で115/75mmHg以下、診察室血圧では120/80mmHg以下です。正常血圧と高血圧の間は正常高値血圧や高値血圧と呼ばれ、高血圧予備軍として定期的な血圧測定がすすめられます。
編集部
高血圧になると、どのようなリスクがありますか?
村山さん
高血圧になると、血管に負担がかかって動脈硬化が進行し、狭心症、心筋梗塞などの心臓病や脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)のような命にかかわる病気のリスクが高くなります。また、認知症にもなりやすくなるので注意が必要です。高血圧は、日本人の生活習慣病による死因の上位を占め、もし高血圧が完全に予防できれば年間10万人以上の人が死なずに済むといわれます。重大な病気を防ぐためにも、生活習慣の改善や薬によって、血圧を適切にコントロールすることが重要です。
高血圧を予防・治療するための薬の種類について薬剤師が解説
編集部
血圧を下げる薬には、どのような種類がありますか?
村山さん
血圧を下げる降圧剤は主に、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、利尿剤、β遮断薬、α遮断薬の6種類です。カルシウム拮抗薬は、血管を広げ、血液の流れをスムーズにすることによって血圧を下げます。ARBは、血管を収縮させる「アンギオテンシンⅡ」という物質の作用を抑えることで血圧を下げます。ACE阻害薬は、アンギオテンシン変換酵素という酵素の働きを阻害し、アンギオテンシンⅡの生成を抑えることで血圧を下げます。利尿剤は、水分の排泄を促進し、血液中の水分量を減少させることによって血圧を下げ、むくみなども改善します。β遮断薬は、心臓のβ受容体に作用して心拍数を抑えることで血圧を下げます。α遮断薬は、血管の収縮を抑えることで血圧を下げます。
編集部
高血圧の薬の使い分けを教えてください。
村山さん
初めて高血圧の治療を開始する場合は、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿剤が第一選択薬とされています。日本では、まずはカルシウム拮抗薬またはARBを使用し、血圧が十分に下がらない場合に利尿薬を使用する方法が一般的です。心臓の持病がある方は、β遮断薬を最初に使用することもあります。高血圧の薬は、患者さんの症状や血圧、体質、年齢、合併症などをもとに医師が適切なものを選択して処方します。処方された薬は用法・用量を守って正しく服用しましょう。
編集部
高血圧の薬に副作用はありますか?
村山さん
高血圧の薬の主な副作用は薬の効きすぎによるめまいやふらつきです。座った状態から急に立ち上がることによって、めまいやふらつきが起こることもあります。急な立ち上がりなどに注意し、転倒を防ぎましょう。副作用が強く現れる場合は、薬の種類や服用量が合っていない可能性があるため、医師や薬剤師に相談してください。
編集部
高血圧の薬を服用する際に注意することはありますか?
村山さん
ARBとACE阻害薬は、妊娠中に使用すると胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため、妊娠している方、妊娠の可能性がある方には使用できません。また、β遮断薬には気管支を収縮させる作用があるため、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気管支の病気がある方は服用を避けましょう。また、カルシウム拮抗薬はグレープフルーツなどのかんきつ類と飲み合わせが悪く、一緒に飲んでしまうと血圧が下がりすぎてめまいやふらつきなどの副作用が強く出る場合があるため注意が必要です。血圧を適正にコントロールするために、処方された薬の用法・用量を守って正しく服用しましょう。自己判断で勝手に中止せず、何か心配事があれば、医師や薬剤師に相談してください。
高血圧を予防する! 生活習慣のポイントは?
編集部
高血圧を予防するために、どのようなことに注意すればいいですか?
村山さん
高血圧予防に重要なことは、食塩を摂りすぎないようにすることです。食塩摂取量の目標は、成人男性で1日7.5g未満、成人女性で6.5g未満であり、高血圧の方は1日6g未満にすることが推奨されています。ですが、日本の食事は塩分が多くなりやすいので、しょうゆやソースの量を減らす、漬物を控える、麺類の汁は残すなどの工夫が必要です。塩分を排泄する働きがあるカリウムが多く含まれる野菜や果物、海藻類、大豆製品などを積極的に摂りましょう。ただし、腎臓の病気がある方はカリウム摂取を制限される場合があるので医師に相談してください。調理方法などを工夫し、無理のない減塩を長く続けることが大切です。
編集部
減塩のほかに生活習慣で気をつけることはありますか?
村山さん
高血圧の原因となる生活・環境要因には、運動不足、睡眠不足、喫煙、飲酒、肥満、ストレスなどがあります。適度な運動や十分な睡眠を心がけ、規則正しい生活を送りましょう。
編集部
冬は高血圧になりやすいとのことですが、冬場に特に注意することはありますか?
村山さん
温度の変化による血圧の急激な上昇は、心筋梗塞や脳梗塞などの引き金になることがあるので注意が必要です。気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こることをヒートショックといい、冬場に暖房の効いたリビングから脱衣所に移動して浴槽に入るときなどに多く起こります。浴室以外でも、トイレでヒートショックを起こして死亡するケースもあり、10℃以上の温度差がある場所は危険とされています。入浴前に脱衣所や浴室を温めておく、トイレに小型の暖房器具を用意するなどの対策をしましょう。また、年末年始の忘年会、新年会などでの塩分の摂りすぎにも注意してくださいね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
村山さん
重大な病気を防いで健康を維持するためには、血圧を正しくコントロールすることが必要です。高血圧は自覚症状がほとんどなく自分では気づきにくいので、定期的に検診を受けましょう。すでに降圧薬の治療を受けている方や血圧に不安がある方は、家庭用血圧計を用意して毎日測るようにしてください。高血圧の治療について何か心配ごとがあれば、かかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。
編集部まとめ
冬に高血圧になりやすい理由や高血圧対策について、薬剤師の村山さんに解説していただきました。冬場は寒さによって血圧が上がりやすいので、普段から塩分の取りすぎに注意して、規則正しい生活を心がけたいですね。高血圧は自分では気づきにくいので、検診を受ける、家や薬局などで血圧を測定するなど定期的にチェックするようにしましょう。