【スラムダンク】海南戦・赤木が負った捻挫の状態と彩子のテーピング技術を医師が分析
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※本記事は一部ネタバレを含みます。ここで述べる疾患名などは、SLAM DUNKにおける描写を基に医師が見解を述べているだけであり、作中における事実ではありません。
監修医師:
告野 英利(名古屋大学医学部附属病院)
目次 -INDEX-
赤木はなぜ着地で牧の足を踏んで捻挫したのか?
編集部
スラムダンクの赤木が海南大附属戦で牧の足を踏んだシーンでの怪我を医学的な観点から説明していただけますか?
告野先生
赤木の怪我があったリバウンドで着地した際の描写では、赤木の足が内反もしくは外反したかはわからないような描かれ方がされていましたが、読み進めていくと、その後「さっきよりどんどんハレてきてるわ!!」という彩子の状況説明とともに、外くるぶしが腫れていることがわかります。つまり、あの着地の場面は、外側の靱帯が損傷(もしくは外くるぶしの骨折)するようなアクシデントだったことが推測できます。
編集部
なぜ、着地で人の足を踏むと捻挫などの怪我を起こしやすいのでしょうか?
告野先生
編集部
赤木は身長197cm、体重90kg台と日本の高校生にしては稀にみる恵まれた体格ですが、これが捻挫のしやすさに影響することは考えられますか?
告野先生
捻挫の発生および重症度に関してのリスクファクターは議論のわかれるところではありますが、体重は重い方が重症化しやすいでしょう。中学生か高校生の頃に「運動エネルギーの公式」を習ったことがあると思いますが、少し思い出してみましょう。運動エネルギー=質量(kg)×速さ(m/s)の二乗×1/2です。つまり、体重が重いほうが同じような受傷起点であれば、より大きな運動エネルギーが生じますので、それが足関節にかかるストレスと考えると、捻挫のしやすさや重症度に影響すると考えられるでしょう。姿勢保持機能との関連はあるという報告もありますが、それと高身長との因果関係は明らかになっておりません。そのため、高身長による影響は不明です。
編集部
赤木の足首の重症度はどれほどのものだったと考えられますか?
告野先生
捻挫は重症度が3つにわけられます。グレードⅠはちょっとひねって痛むけど歩ける程度で腫れはそこまで強くありません。グレードIIは前距腓靱帯が大きく損傷ないしは完全に断裂しており、体重をかけて歩くのは辛いくらい。グレードIIIは前距腓靱帯に加え、踵腓靱帯も損傷している場合で、足関節がグラグラになっているので、痛くて歩くなどとんでもないといったところです。受傷後早期からパンパンに腫れている(漫画なのでデフォルメはあると思いますが)点やしばらくは気合で試合続行できていた点、決勝リーグ第2戦の武里戦までの数日の間に簡単な練習を行っていた点、武里戦で前半の10程度プレーして退いたことを踏まえるとグレードIIと言ったところでしょうか。
編集部
赤木の場合、結果的に捻挫で済みましたが同様のケースでひどい場合にはどのような怪我が考えられますか?
告野先生
グレードⅢの捻挫も重症ではありますが、ひどい場合ですと足関節骨折になります。ズレのない骨折であれば、ギプスと松葉杖で治療することになりますが、ズレがある骨折であれば、基本的に手術になります。
あのとき彩子はどんなテーピングを行ったのか?
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編集部
テーピングの本来の使用目的とは?
告野先生
テーピングの目的は主に4つあります。1つ目はケガの予防。特定のスポーツやポジションでケガしやすい部位を予め補強し、ケガを防ぎます。2つ目はケガの再発防止。以前にケガをした部位をサポートします。3つ目は応急処置。受傷直後にテーピングで患部を圧迫・固定し、悪化を防ぎ、痛みを緩和する目的で行われます。4つ目はプレー中の除痛。ケガをしていてもプレーを続ける場合、テーピングで痛みを軽減するために行われます。
編集部
マネージャー・彩子がテーピングを施し、赤木は試合に復帰します。彩子がガチガチに固めたテーピングの巻き方は、どのような手法だったと考えられますか?
告野先生
まずはアンカー(基本となるテープ)の設置です。足首のすぐ上の細い部分(脛骨と腓骨の間)にアンカーを巻きます。アンカーはしっかりと巻きますが、血行を妨げないようにキツくしすぎないことに注意します。次にスターアップという足関節の内反予防のテーピングをします。最後に足関節の可動性を制御するために、ヒールロックというテーピングを行います。これは一般的な足関節内反捻挫のテーピングになりますが、「ガチガチ」というオーダーであれば、伸縮性の低いテープを使って、過度に巻くことで固めることはできるかもしれませんが、足関節の可動域は大きく損なわれ、ジャンプ、ダッシュなどのパフォーマンスは著しく低下すると考えられます。
編集部
赤木の怪我の状況からみて、テーピングにはどういうこと(効果・要素)が必要だったと思いますか?
告野先生
内反捻挫だと考えられるので、これ以上内反しないように外反方向に引っ張っておく、先程のスターアップのような要素が大切だと思います。
医師は「いいからテーピングだ!!」をどう見る? 「肉体が精神を超えはじめる」とは?
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編集部
「いいからテーピングだ!!」と上級生に怒鳴られた下級生マネージャーは、従わざるを得ない部分もあったように思えます。医師としてこの一部始終について見解をお願いします。
告野先生
その試合、その試合にかける想いがあると思いますので、杓子定規に「ダメです」といい切るのは難しいのですが、どんどん怪我の部位を悪化させてしまうリスクなどもあるので、医師としてはそのまま出場し続けるのは危険と言わざるを得ません。
編集部
復帰した赤木を見て「精神が肉体を超え始めたか………!?」と安西先生は評しました。こんなことはあるのでしょうか?
告野先生
体がいわゆる「戦闘モード」に入ると交感神経が活発化し、それによってノルアドレナリンやアドレナリンといったホルモンが放出されます。それらのホルモンは体内を戦闘モードに切り替えます。血圧や心拍数を上げて、筋肉をより強力に使えるように、瞬発力が出るようにし、緊張状態にし、意識を張り巡らせます。そして、戦闘モードは痛みも感じにくくなります。これは痛みを感じる神経の伝達がホルモンによって抑制されるからです。
編集部
「漫画だから」という訳でもなく、実際にあり得ることなのですね。
告野先生
プロスポーツ選手で骨折に気づかず、プレーを続けていたというエピソードはあります。また、交通事故を起こした直後はそれほど痛みを感じなかったのに、しばらく時間が経ってから痛みを自覚するようになるケースなども、同様のメカニズムといえますね。痛みは体の異常を伝える信号です。交感神経を高ぶらせて、その信号を無視できるようにしている状態が「精神が肉体を超え始めた」ということだったのでしょう。
編集部
赤木にかぎらず、現実世界でもその場の感情で怪我を押してプレーを続けたいという人はいそうです。監督者は実際にこういう場面に遭遇したらどうすれば良いのでしょうか?
告野先生
悩ましいですね。プレーに夢中で怪我に気が付かない場合はいざしらず、明らかに痛いという場合は、ベンチに下げて応急処置をし、患部安静にするべきだと思います。チームスポーツであれば、監督さんは軽傷そうなら怪我を押して出場させるパターンも考えられるでしょうし、控え選手と交代させる判断もあるでしょう。どちらがチームとしてメリットが大きい、逆にデメリットが大きいかということを、チームとして伝えることは大切だと思います。
編集部
部活動等でマネージャーを務める人は、彩子のようにテーピングの巻き方などの応急処置を学んでいた方が良いこともありそうです。覚えておくと良いことを教えてください。
告野先生
適切な「RICE処置」とテーピングはその後の痛みや回復を早めます。スポーツごとに怪我をしやすい部位というのは異なりますが、とても詳しく解説されているサイトなどもあります。「バトルウィン」というサイトでは動画と写真でとても詳しく解説されており、はじめてのケースでも対応できると思います。このようなサイトがあることを知っておくと便利ですね。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
告野先生
捻挫は怪我の中で、結構軽く考えられがちです。そのため受傷後早期に復帰し、後遺症が残ってしまうケースや再発するケースも見られます。再発率は驚異の7割超えとも言われています。かくいう私もテニスで捻挫の経験があり、試合当日の朝練で捻挫したため、頑張って出ようとしたのですが、足がどんどん腫れてきてあえなく棄権となりました。そして、受傷後早期に復帰し、しっかり捻挫を再発してしまいました。捻挫を決して軽視せず、整形外科のクリニックを受診し、適切な治療を受けられることをおすすめします。
編集部まとめ
スラムダンクはフィクションですので、実際に怪我した場合はやはり「たかが捻挫」ではなく、「されど捻挫」という意識でいる方が良いかもしれません。選手は好きでプレーしている競技に対して、自ら退きたいとは考えない人が多いと思うので判断は難しいところかもしれませんが、いずれにせよ、周囲の人間は応急処置としてテーピングやRICE処置などについて知っておくことが、その後回復や受傷後のプレー(続行可能な場合)にも良いでしょう。