「B型肝炎」と「C型肝炎」の違いはご存じですか? 症状や治療と歴史を解説
その名前はよく耳目に触れることの多いB型肝炎やC型肝炎。しかし、実際にどんな病気なのか把握している人はどれほどいるでしょうか? そこで肝炎について、症状や種類、原因などについて、肝臓専門医の藪剛爾先生(はとがや緑内科クリニック院長)に話を聞きました。
監修医師:
藪 剛爾(はとがや緑内科クリニック)
目次 -INDEX-
そもそも肝炎とはどんな病気? B型・C型肝炎の違いは? 症状・原因は異なるの?
編集部
肝炎とはどのような病気ですか?
藪先生
肝炎は文字通り肝臓の病気です。肝臓は沈黙の臓器と言われ、実際に病気に罹患していても気づかないことも多く、初期には自覚症状がないか、倦怠感程度しか症状はありません。進行すると黄疸、腹水、肝性脳症、低栄養、出血傾向、食道静脈瘤破裂といった肝不全症状が出てきます。そのような進行性の肝疾患には、ウイルス肝炎、自己免疫、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、薬物性肝障害などがありますが、多いのは肝炎ウイルスの持続感染、つまり慢性肝炎です。
編集部
どんなウイルスがあるのですか?
藪先生
ウイルスが原因で起こる肝炎がウイルス肝炎ですが、A型からE型まである肝炎ウイルスのうち、感染後一定期間経過しても、排除されずに持続感染を続けるのがB型とC型です。感染後急性期に排除しきるには一定の条件がありますが、B型やC型の持続感染により慢性肝炎になった場合、その後、肝硬変・肝がんに移行することもあります。
編集部
B型肝炎とはどのような病気ですか?
藪先生
B型肝炎は、以前は母子感染(垂直感染)などの新生児から乳幼児期の感染が主流であり、一定の年齢を過ぎるとたとえ急性肝炎になったとしても、慢性化はしにくいと考えられていました。しかしながら、近年タイプの異なる遺伝子型A(genotypeA)のB型肝炎ウイルス株が性的接触などで海外から広まり、大人でも慢性化が認められるようになってきました。このタイプのウイルスが、現在の急性肝炎の主要因です。
編集部
では、C型肝炎とはどのような病気ですか?
藪先生
C型肝炎は、日本では比較的歴史の浅いウイルスで、医療の発達する以前はほとんど広まっておらず「非A・非B型肝炎」などと呼ばれていました。それが、戦後の売血や薬物乱用、さらに輸血や不適切な医療行為、入れ墨などで広まった背景があります。すなわち未発達・不衛生な医療行為や輸血などの人為的操作で拡がったウイルスであり、このウイルスが明らかになるまで、肝障害の原因を、働きすぎやアレルギー、アルコールの摂りすぎ、薬が原因などと説明されていた時代もありました。
編集部
それがどのようにしてC型となったのですか?
藪先生
遺伝子工学の高度な手法により1989年にウイルスが発見されて、その状態から脱却することになります。ウイルスがわかったことにより血液スクリーニングが徹底され、今や医療行為で伝染ることはほとんどなくなりました。患者層も高齢化してきております。未治療で放置されれば慢性化して肝硬変・肝がんへ移行する率が非常に高い疾患で、肝硬変まで進行した場合、10年で7割の人に肝がんが発生すると言われています。
患者は意外と多い!? B型・C型肝炎の患者さんはどのくらいいるの?
編集部
現在、B型肝炎にかかっている人は多いのですか?
藪先生
非常に多いです。世界保健機関(WHO)によると全世界で慢性B型肝炎ウイルス感染症患者数は約2億9600万人と推定されています。日本国内におけるB型肝炎ウイルス感染者数は厚生労働省の報告によると、110~120万人と推計されています。B型肝炎についてはウイルスを排除できる画期的な治療法がなく、進行を食い止める治療に留まっているのが現況です。
編集部
では、C型肝炎にかかっている人は多いのですか?
藪先生
世界中でのC型肝炎の患者数は約7000万人と推定されています。日本国内におけるC型肝炎ウイルス感染者数は、厚生労働省の報告だと90万~130万人ですが、これは既に治療が行われている患者さんも多数含まれています。ウイルスを排除できる治療法が確立されたことや感染対策が徹底されるようになったことで、今後新規のC型肝炎感染者はほとんどいなくなると思われます。
B型・C型肝炎の治療は? 薬やワクチンはあるの?
編集部
B型肝炎の経過や感染リスクについて教えてください。
藪先生
B型肝炎はC型肝炎よりも遥かに強い感染力をもち、急性感染で治癒する形態(ほとんどの成人感染)と慢性的にキャリアに移行する形(免疫力の弱い乳幼児期の感染)などがあります。血液を介した強い感染力があるので、陽性者の血液の取り扱い(外傷や鼻血など)や性的接触、注射器などの取り扱いに注意する必要があります。慢性化(キャリア化)すると、ウイルスが自然経過で減少する場合もありますが、肝炎が慢性化して肝硬変や肝がんに進展する場合もあり、進展させないために医療介入が必要な点はC型肝炎と同じです。
編集部
そうなのですね。
藪先生
最近の問題としては、従来の母子垂直感染以外に、性的接触による水平感染が増えており、急性肝炎の主たる原因になっています。さらにはB型肝炎ウイルスの中でも遺伝子A型のものは急性感染後、肝障害が沈静化したように見えても持続感染に移行することもあり、注意が必要です。また別の問題として、眠っていたウイルスを呼び覚まして劇症肝炎のような重大な感染状態を引き起こすこともあることがB型肝炎ウイルスの大きな特徴です。即ち、ほとんどウイルスがいない状態で治癒ないし沈静化していると考えられる肝炎が、化学療法・免疫抑制剤などによりウイルスが爆発的に増殖し、重症化したり、ほとんどウイルスがいなかった筈の移植のドナー肝からも、肝炎が発症したりする場合などが問題になっています。
編集部
B型肝炎に対してワクチンなどはあるのですか?
藪先生
B型肝炎ワクチンについては、中和抗体であるHBs抗体の獲得が目的です。3回接種型のワクチンが開発されていますが、すでに持続感染がある人にとっては効果がなく、経口核酸アナログ製剤を終生飲み続けるか、徐放型インターフェロンで免疫抵抗力を上げる治療が主体です。日本ではB型肝炎ウイルス感染予防対策が強化されており、新生児への予防接種が実施されています。
編集部
B型肝炎の治療は簡単ではないのですね。
藪先生
B型肝炎の治療においては、まだまだ改善の余地があります。現在、B型肝炎の治療には前出の経口薬治療法や注射剤がありますが、ウイルスを完全に排除することはできず、長期的な投薬が必要です(治療費の補助制度があります)。また、肝硬変や肝がんにまで進展した場合は、特異的な治療法が開発されておらず、現在は対症療法が主流となっています。したがって、B型肝炎の治療においては、まだまだ課題が残されていると言えます。
編集部
C型肝炎の経過・治療についても教えてください。
藪先生
血液を介して感染する点はB型肝炎と同じですが、感染力は比較的弱く、汚染血の輸血、不潔な医療操作、入れ墨や覚せい剤使用以外などではほとんど感染しません。しかしながら、自覚症状も乏しい中、肝硬変・肝がんに移行していくという特徴があり、未治療の感染持続患者は特に注意が必要です。治療については、画期的な変革(パラダムシフト)を迎えたと言えます。
編集部
それはどんな治療ですか?
藪先生
ウイルスをほぼ排除できる経口薬の開発です。従来のインターフェロンやリバビリンといった治療法に代わり、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という新しい治療法が登場し、治療効果が劇的に向上しました。DAAは、C型肝炎ウイルスの増殖に必要な酵素を直接阻害することで、高いウイルス抑制率を示すことができます。DAAによる治療では、治療期間が短く、有効率も高く、副作用も少ないため、従来の治療法に比べて、患者の負担が軽減されるという利点があります。高額な治療ですが、治療費の補助があるので、未治療の方は、ぜひ専門医の診断・治療と治療補助の申請をお勧めします。一方で、ワクチンについてはC型肝炎ウイルスは変異が激しく、中和抗体を誘導するワクチンは開発されていません。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。
藪先生
B型肝炎ウイルスは1965年に、C型肝炎ウイルスは1989年に発見されました。B型肝炎・C型肝炎はかつて国民病とまでいわれた病気で、当時、国を挙げて肝炎の対策に力を入れてきました。幸い、C型肝炎については画期的な経口薬が開発され、状況は劇的に改善しています。またB型肝炎については進行を食い止める経口薬もあり、ワクチン接種事業が進めば、将来的に患者が激減することが予想されます。また、肝炎ウイルス検査の公費負担、新生児へのB型肝炎ワクチン接種、B型肝炎・C型肝炎の治療費の公費負担など、国の取り組みも功を奏しています。肝炎は、一度、肝硬変や肝がんまで進行してしまうと治療効果が少ないことから、自らが、肝炎についての知識を持ち、病気の早期発見・早期治療に積極的に取り組んでいただけたらと思います。
編集部まとめ
肝炎について、種類や症状、原因や治療などを伺いました。
ワクチンや経口薬が開発されてはいても、気付かぬうちに感染・進行してしまうと治療効果はあまり期待できないとのこと、早期発見・早期治療が大切なのですね。
藪先生、ありがとうございました。
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